予防接種法改正2026:医療現場の実務対応

2026年の予防接種法改正では、接種情報のデジタル化、電子的な対象者確認、接種記録の保存、匿名化情報の活用などが進みました。RSウイルス、肺炎球菌、HPVワクチンの制度変更と併せ、医療機関は何を確認すべきでしょうか?

予防接種法 改正 2026の基礎知識と核心ガイド

2026年改正の実務インパクト
接種情報のデジタル化

電子的な対象者確認、マイナポータル上の接種済証、国への情報提供が2026年6月から制度化された。

定期接種の対象と製剤変更

妊婦へのRSワクチン定期接種化に加え、高齢者肺炎球菌、HPVワクチンの使用製剤も変更された。

記録と説明の質が重要

デジタル予診票の有無で表示情報が異なるため、接種記録の登録内容と患者説明の標準化が求められる。


2026年改正は「接種のデジタル基盤」と「定期接種の再編」が柱



「予防接種法 改正 2026」を理解する際には、単一の改正として扱うのではなく、2026年4月に施行された定期接種の対象疾病・使用ワクチン等に関する政省令改正と、2026年6月1日に施行された予防接種情報のデジタル化を中心とする法改正を分けて確認することが重要です。医療機関の現場では、接種可否の確認、使用製剤、予診票の運用、記録登録、接種済証に関する患者対応まで、複数の業務に影響します。
2026年6月1日には、感染症法等改正法による改正後の予防接種法、関連政令および整備省令が施行されました。主な目的は、定期接種および臨時接種に関する情報を適切に把握・活用できる基盤を整え、自治体の事務負担を軽減しつつ、被接種者の利便性、接種歴の把握、ワクチン安全性評価、政策立案に資する情報利用を進めることです。
具体的には、個人番号カードに記録された利用者証明用電子証明書等を活用した電子対象者確認、マイナポータルにおける電子的な予防接種済証の交付、接種記録の電磁的保存、国への接種実施情報の提供、匿名化された予防接種等関連情報の二次利用・提供に関する枠組みが導入されました。したがって、今回の改正はワクチンの対象者や種類を変えるだけではなく、接種記録を「診療・自治体事務・公衆衛生」の共通基盤として整備する制度改正と位置付けられます。厚生労働省「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部の施行について」
医療従事者にとって最も重要なのは、電子化されたからといって、予診・接種・ロット確認・副反応疑い報告・患者への説明という基本的な安全管理が自動的に完結するわけではない点です。むしろ、デジタル予診票、紙予診票、自治体システム、医療機関の電子カルテ・予約システムの間で情報がどのように連携されるかを理解し、記録の不備や患者の誤認を防ぐ運用設計が必要になります。


定期接種で変わる対象疾病と使用ワクチン

2026年度の定期接種に関する政省令改正では、妊婦を対象とするRSウイルス感染症予防、高齢者の肺炎球菌感染症予防、HPVワクチンの使用製剤が重要な変更点です。特に、妊婦への組換えRSウイルスワクチンは、出生した児に免疫の効果を得させることを目的とする母子免疫ワクチンとして、RSウイルス感染症がA類疾病に位置付けられ、妊娠28週から37週に至るまでの者が定期接種の対象となりました。
RSウイルスワクチンは、妊婦本人のRSウイルス感染症予防を主目的とするのではなく、妊婦への能動免疫により出生後の児に受動免疫を付与し、乳児のRSウイルス感染症予防に寄与するという制度設計です。実施規則上、妊娠ごとに1回、0.5mLを筋肉内に接種する方法が定められています。妊娠週数の確認、接種時期の調整、出生予定日との関係、母子健康手帳への記録を、産科・小児科・予防接種実施機関で適切に連携することが求められます。厚生労働省「予防接種法施行令の一部を改正する政令等の施行について」

項目 基準・内容 備考
RSウイルス感染症 A類疾病として定期接種化 妊娠28週から37週に至るまでの者が対象
RSワクチンの接種方法 妊娠ごとに1回、0.5mL筋肉内接種 出生児への免疫効果を目的とする妊婦接種
高齢者肺炎球菌 PCV20を定期接種に位置付け PPSV23から沈降20価肺炎球菌結合型ワクチンへ変更
HPVワクチン 定期接種は9価HPVワクチンのみ 2価・4価HPVワクチンは定期接種の使用製剤から除外
高用量インフルエンザ 75歳以上を対象として位置付け予定 標準量ワクチンと高用量ワクチンの制度整理が進行

高齢者肺炎球菌感染症の定期接種では、使用するワクチンが沈降20価肺炎球菌結合型ワクチンであるPCV20へ変更され、従来定期接種に用いられていた23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンであるPPSV23は使用製剤から除かれました。これは、対象者の年齢だけを確認する運用では不十分であり、接種歴、製剤区分、自治体の実施要領、委託契約の対象製剤を正確に確認する必要があることを意味します。
HPVワクチンについては、定期接種で使用するワクチンが組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチンに整理され、2価および4価HPVワクチンは定期接種に用いるワクチンから除外されました。接種開始者・継続接種者への対応では、単に「9価のみ」と説明するのではなく、当該接種が定期接種か任意接種か、過去の接種歴があるか、自治体の経過措置や実施要領に該当するかを確認して判断することが大切です。厚生労働省「令和8年度からの予防接種法関係政省令について(まとめ)」


電子対象者確認と接種済証の電子化で現場はどう変わるか

2026年6月1日から、定期接種および臨時接種の対象者確認に関して、個人番号カードに記録された利用者証明用電子証明書等を用いる電子対象者確認が導入されました。この仕組みは、市町村や都道府県が行う対象者確認の事務負担を軽減するとともに、居住地以外での接種を含む接種体制のデジタル化を支えることを目的としています。
ただし、電子確認が導入されても、接種対象者の臨床的な適格性まで機械的に保証されるわけではありません。例えば、妊婦RSワクチンでは妊娠週数、妊娠経過、禁忌・慎重接種に該当する状況、接種目的に関する理解を、医師が問診と診察により確認する必要があります。高齢者定期接種でも、年齢要件、基礎疾患による対象要件、接種歴、当日の体調、製剤の適否は、法定対象者確認とは別に、従来どおりの医学的な予診として実施しなければなりません。
予防接種済証については、マイナポータルでの交付が可能となりました。ただし、2026年6月1日以降にデジタル予診票を使用して実施した定期接種等が対象です。紙の予診票を使用した場合は、市町村長等が予防接種記録管理・請求支払システムに予防接種済証の記載項目をすべて登録しなければ、マイナポータル上に接種済証が表示されません。この違いを理解せずに「接種すれば必ずすぐにマイナポータルに出る」と案内すると、患者の不安や問い合わせにつながります。

  • 受付時には、電子的な対象者確認が可能か、紙の予診票を使うか、自治体の運用がどうなっているかを確認する
  • 接種後には、接種日、ワクチン名、ロット番号、接種量、接種部位、接種方法などの記録項目を確実に整備する
  • 患者には、マイナポータルでの接種済証表示はデジタル予診票の利用状況や登録内容に左右されることを説明する
  • 第三者に電子的な接種済証を提示する場合は、電子署名の検証可能な環境でのみ効力を有する点にも留意する

実務上は、予約システムの予約情報、電子カルテの接種記録、自治体へ提出する請求データ、予診票データの記載項目を照合する手順を設けることが有用です。例えば、ロット番号の入力漏れや接種部位の誤登録は、患者への接種済証表示だけでなく、副反応疑い発生時の追跡、製剤ロットに関する安全性評価、自治体請求にも影響し得ます。電子化は記録作業を省略する制度ではなく、正確なデータ入力の重要性を高める制度と理解すべきです。


接種記録の保存・情報提供・匿名化情報の扱い

改正後の予防接種法施行規則では、市町村長等が作成する定期接種等の接種記録について、原則として電磁的記録で保存することが求められます。保存期間は、接種実施時から被接種者が死亡した日の翌日から5年を経過した日までです。これは単純な「接種後5年間」ではないため、医療機関や自治体の職員が保存年限を説明・運用する際には注意が必要です。
デジタル予診票を使用した定期接種等では、接種記録が予防接種記録管理・請求支払システムに自動登録され、制度上の保存が行われます。一方で、紙の予診票を使用した場合など、接種記録を電磁的に保存することが困難な場合には、少なくとも5年間は適正に管理・保存する必要があります。医療機関が保有する診療録、予診票の控え、ワクチンロット管理台帳、自治体へ送付する記録の関係を整理し、法令上の記録と診療録保存の実務を混同しないようにしましょう。
市町村等は、2026年6月1日以降に実施された定期接種等について、接種日、医療機関コード、ワクチン名、ロット番号、接種量、接種部位、接種方法、勧奨情報、予診票情報、間違い接種情報などを、確認後速やかに国へ提供する枠組みとなりました。紙の予診票を使用した接種では、一定の場合に対象者番号、接種日、GTINコードまたは製剤を特定できる情報のみの提供でも差し支えないとされていますが、これは医療機関内の正確な接種記録を簡略化してよいという意味ではありません。
また、国は、自治体から提供された定期接種等の情報および副反応疑い報告に係る情報等を匿名化した「匿名予防接種等関連情報」を、国民保健の向上に資する目的で利用し、地方公共団体や外部研究機関等へ提供できるようになります。今後は、接種率、接種後の健康影響、地域差、ワクチンの有効性・安全性に関するリアルワールドデータの利活用が進む可能性があります。その前提となるのが、現場における接種日・製剤・ロット・接種量・接種部位などの標準化された記録です。


医療機関が整備すべき2026年改正への対応手順

医療機関では、法令・通知を読むだけでなく、実際の患者導線に沿って「予約」「受付」「対象者確認」「予診」「接種」「記録」「請求」「副反応対応」「接種証明に関する案内」までを見直す必要があります。特に、自治体ごとにデジタル化の開始時期や委託契約への参加状況が異なり得るため、全国一律の想定だけで運用を設計しないことが大切です。
最初に、2026年度の取扱いについて、契約する自治体から発出される実施要領、予診票様式、請求方法、電子対象者確認の手順、システム登録の期限、接種済証に関する患者案内を確認してください。次に、院内で接種に関与する医師、看護師、薬剤師、事務職員の役割を明確化し、誰が妊娠週数や年齢要件を確認するか、誰がロット番号とGTINコードを確認するか、誰が記録の最終照合を行うかを標準作業手順書に落とし込みます。
副反応疑い報告の観点でも、RSウイルス感染症の定期接種化に伴う報告基準を共有しておく必要があります。RSワクチン接種後については、アナフィラキシーは接種から4時間以内に確認された場合が報告基準とされ、その他、医師が予防接種との関連性が高いと認め、入院治療を必要とするもの、死亡、身体機能の障害、またはそれらのおそれがある症状については、医師が関連性を高いと判断する期間が対象となります。患者への説明では、一般的な有害事象の説明とともに、緊急受診が必要となり得る症状、連絡先、医療機関・自治体への相談経路を事前に明確にしておくことが重要です。
2026年の予防接種法改正は、予防接種を「その場で完結する医療行為」から、「本人の接種歴、自治体の実施責任、国の安全性監視、公衆衛生の分析に接続する情報基盤を伴う医療行為」へと一段進めるものです。医療従事者は、対象者に正しい製剤を安全に接種するという基本に加え、記録の完全性、患者が接種証明を確認できる環境、接種後の健康影響を適切に把握できる情報の質まで意識して運用することが求められるでしょうか。


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