メトホルミンを「とりあえず第一選択」で使っていると、eGFR 45未満の患者に投与して乳酸アシドーシスを招くリスクがあります。

ビグアナイド薬の主成分は、日本国内で使用されている「メトホルミン」と「ブホルミン」の2種類です。 このうち臨床現場で圧倒的に多く使われるのがメトホルミン製剤で、先発品・後発品を含めると十数品目が流通しています。
代表的なメトホルミン製剤の一覧は以下の通りです。
| 商品名 | 規格 | 製造販売元 | 1日最高用量 | 薬価(目安) |
|---|---|---|---|---|
| メトグルコ錠® | 250mg・500mg | 住友ファーマ | 2,250mg | 約10円/錠 |
| グリコラン錠® | 250mg | 日本新薬 | 750mg | 約9.8円/錠 |
| メトホルミン塩酸塩錠MT(各社GE) | 250mg・500mg | 複数社 | 2,250mg | 約10円/錠 |
同じ成分なのに上限量が3倍違う。 グリコラン錠®の1日最高投与量は750mgであるのに対し、メトグルコ錠®は2,250mgと設定されています。 同じメトホルミンでも製品によって用量上限が異なるため、処方変更時やジェネリック切り替え時に投与量の誤りが起きやすいポイントです。これは実務上、特に注意が必要です。
参考)https://sagamihara.hosp.go.jp/sinryouka/pdf/kyuuyaku_tounyoubyou.pdf
後発品(ジェネリック)は「三和・トーワ・JG・ニプロ・TE・DSEP・ファイザー」など多数のメーカーから供給されており、薬剤名の末尾にメーカー名が付きます。 品目が多いため、造影剤検査前の休薬確認リストは製品名で網羅的に管理することが重要です。
参考)https://www.ncchd.go.jp/medical/07.pdf
ブホルミン製剤はメトホルミン製剤に比べて使用頻度は低めですが、依然として処方される機会があります。 現在流通しているブホルミン製剤は以下の2種類です。
配合錠は服薬アドヒアランスの向上を目的に、別作用機序の薬剤と組み合わせた製品です。 主な製品を整理します。
| 商品名 | 含有成分(メトホルミン以外) | 作用機序の組み合わせ |
|---|---|---|
| メタクト配合錠®LD/HD | ピオグリタゾン | インスリン抵抗性改善+糖新生抑制 |
| エクメット配合錠®LD/HD | ビルダグリプチン(DPP-4阻害薬) | インクレチン増強+糖新生抑制 |
| イニシンク配合錠® | アログリプチン(DPP-4阻害薬) | インクレチン増強+糖新生抑制 |
| メトアナ配合錠®LD/HD | アナグリプチン(DPP-4阻害薬) | インクレチン増強+糖新生抑制 |
配合錠も造影剤検査前の休薬対象になります。 患者が「糖尿病の薬は飲んでいない」と答えても、配合錠という形で服用している可能性があります。問診票や薬剤確認を丁寧に行う必要があります。
ビグアナイド薬は、インスリン分泌を促さずに血糖値を下げる「インスリン分泌非促進系」薬剤です。 主な作用点は3つあります。
参考)ビグアナイド薬の特徴|糖尿病治療の経口血糖降下薬|内科専門医…
膵臓を刺激してインスリン分泌を増やさないため、単独使用での低血糖はほとんど起きません。 これが基本です。体重増加が起きにくい点も、肥満を伴う2型糖尿病患者への第一選択になる根拠です。
半減期は1.5〜2.8時間と短めで、1日2〜3回の分割投与が一般的です。 昼食後の服用を忘れる患者が多いため、朝・夕の2回に設定する処方戦略をとるケースも少なくありません。効果の出方には個人差があり、500mgで十分なA1c改善が見られる患者もいれば、増量が必要な患者もいます。
なお、2019年以降メトグルコ®は「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における排卵誘発」にも保険適用が追加されています。 糖尿病以外の科でも処方されることがあるため、服薬確認時は適応も含めて確認することが重要です。
乳酸アシドーシスは致死的な副作用です。 添付文書には「死亡に至った例も報告されている」と明記されており、ビグアナイド薬を扱う全医療従事者がリスク管理を理解しておく必要があります。
禁忌・高リスク条件は以下のとおりです。
グリコラン錠®では「軽度の腎機能障害も含む」とされており、メトグルコ®より制限が厳しい点に注意が必要です。 同じメトホルミン製剤でも禁忌の範囲が異なるということですね。
乳酸アシドーシスの初期症状として、倦怠感・悪心・嘔吐・腹痛・過呼吸・筋肉痛が挙げられます。 これらの症状が出た場合は投与を中止し、速やかに医療機関で乳酸値・血液ガスを確認する必要があります。75歳以上の高齢者ではメトグルコ®の投与の適否を慎重に判断することが添付文書で求められています。
腎機能は定期的なモニタリングが必須です。 eGFRが急激に低下しうる病態(造影剤使用・脱水・重症感染症)のタイミングを把握し、事前・事後の休薬判断を適切に行うことが重要です。
造影CT検査やヨード造影剤を使用する検査の前後は、ビグアナイド薬の一時休薬が必要です。 造影剤による腎機能低下でビグアナイド薬の排泄が遅れ、乳酸アシドーシスのリスクが上昇するためです。
休薬対象はすべての製品です。 単剤はもちろん、メタクト®・エクメット®・イニシンク®・メトアナ®などの配合錠も全て含まれます。
日本医学放射線学会のガイドラインでは、造影剤投与前後の対応として以下が推奨されています。
1. 🗓️ 検査前:担当医と相談の上、投与を一時中止する
2. 🗓️ 検査後:腎機能が安定していることを確認してから再開する
3. 📋 検査予約時:「ビグアナイド系糖尿病薬を飲んでいないか」を問診で必ず確認する
現場でよくある問題として、患者が「糖尿病の薬」という認識が薄い配合錠を服用しているケースがあります。 薬剤名の一覧を院内で共有し、スタッフ全員が確認できる体制を整えることが重要です。
日本医学放射線学会 造影剤安全性管理委員会「ビグアナイド系糖尿病薬一覧」(PDF)
上記リンクでは、造影剤検査前に配布・確認するための医療機関向けチェックシートとして使用できるビグアナイド薬一覧(商品名・成分名)が公開されています。
相模原病院「手術前後に注意が必要なビグアナイド系糖尿病薬一覧」(PDF)
手術前後の休薬管理に特化した一覧表です。配合錠ごとの成分名と休薬期間を確認する際の参考として使えます。
ビグアナイド薬には、意外と見落とされやすい特性がいくつか存在します。 知っているかどうかが患者安全に直結する内容です。
ビタミンB12欠乏に注意が必要です。 長期服用により腸管でのビタミンB12吸収が阻害され、大球性貧血(巨赤芽球性貧血)を引き起こすことがあります。 貧血の原因として精査しても鉄欠乏でない場合、ビグアナイド薬の長期服用歴を確認することが重要です。
また、メトホルミンには心血管イベントを低下させるエビデンスが存在します。 体重中立かつ心血管保護効果があるため、比較的若めで肥満のある2型糖尿病患者への第一選択薬としての位置づけは国内外のガイドラインで強固です。これは使える情報です。
一方、痩せ型で高齢・腎機能が低下傾向にある患者には適さないとされています。 患者の体格・年齢・腎機能の3点で適応を考えることが原則です。
さらに見落とされやすい点として、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)への適応があります。 2019年以降、肥満・耐糖能異常・インスリン抵抗性を呈するPCOS患者の排卵誘発にメトグルコ®の保険適用が認められています。産婦人科・不妊治療領域でも処方される場合があることを、薬剤師・看護師は把握しておく必要があります。
糖尿病リソースガイド「ビグアナイド薬」
上記リンクでは、メトグルコ®・グリコラン®の禁忌・用法用量の全文、および患者指導用動画へのリンクが掲載されています。臨床現場での確認・患者説明に活用できます。
【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠