SSRI併用中の患者にトラマドールを足すと、致死的セロトニン症候群のリスクが40倍超に跳ね上がります。

トラマドールの代表的な副作用は悪心・嘔吐、便秘です。添付文書ベースのデータでは、悪心・嘔吐が41.4%、便秘が21.2%という非常に高い発現頻度が報告されています。
参考)全日本民医連
数字で見ると、服用した患者の3人に1人以上が悪心・嘔吐を経験する計算になります。これは決して少ない割合ではありません。
意外ですね。
ただし良い知らせもあります。投与開始から3〜7日ほどで耐性が生じ、症状が軽減するケースが多いという報告があります。
このため臨床現場では、就寝前に1錠から開始して少量ずつ漸増する方法や、プロクロルペラジン・メトクロプラミドなどの制吐剤の併用が推奨されています。便秘に対しては緩下剤の併用も合わせて検討する必要があります。
参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/1402.pdf
つまり「初期の悪心は想定内、対策は併用薬と漸増」ということですね。
患者への説明時には、症状のピークが服用開始1週間程度であることをあらかじめ伝えておくと、患者の不安軽減にもつながります。
医療従事者の間でも見落とされがちなのが、SSRI・SNRIとの併用によるセロトニン症候群のリスクです。慢性腰痛やがん疼痛の患者にSSRIを処方中、痛みのコントロールのためにトラマドールを追加するケースは整形外科や緩和ケアの現場で頻発します。
参考)セロトニン症候群 — 一般医が見落とさないための診断・鑑別・…
近年のFAERS解析(n=13,312)では、SSRIとトラマドールの併用における報告オッズ比(ROR)が41.95という突出して高い数値を示しました。これは他の組み合わせと比較しても群を抜いて高いリスクです。
痛いですね。
セロトニン症候群は高熱、筋強剛、自律神経症状などを引き起こし、重症化すると横紋筋融解症やDIC、腎不全に至る場合もあります。発症の引き金となるのは、精神科以外の診療科での「気づかない併用」が中心だとされています。
原則として、SSRI内服中の患者へのトラマドール追加は避けるべきとされ、代替としてNSAIDsやアセトアミノフェン、神経障害性疼痛薬の検討が推奨されています。さらにSSRI・SNRIはけいれん発作のリスクも単独で持っており、トラマドールとの併用でけいれんリスクがさらに増加することも報告されています。
結論は「併用薬チェックを処方前の必須項目にする」ことです。
お薬手帳や電子カルテの併用薬アラート機能を活用し、SSRI・SNRI・トリプタン系薬剤などセロトニン作動性薬剤の有無を確認する運用を整えておくと、見落としを防ぎやすくなります。
高齢者や腎機能が低下した患者では、トラマドールの代謝・排泄が遅れるため副作用が強く出やすい傾向があります。透析患者や保存期CKD患者への投与では、通常量からの減量や投与間隔の延長が必要とされています。
具体的には、クレアチニンクリアランス30mL/min未満で50%減量、GFR10mL/min未満でも50%減量が目安とされています。腹膜透析(PD)では50mgを12時間ごと、CRRT施行中は投与を避けることが望ましいとされています。
数字だけだとイメージしづらいかもしれません。たとえば通常50mgを4回飲む患者なら、腎機能低下時はその半分、25mg相当を目安に調整するイメージです。これははがき1枚を半分に折るくらいの「減らし方」と考えるとわかりやすいでしょう。
高齢者は25mgからの開始が基本です。
低用量から開始し、効果と副作用を見ながら段階的に増量する慎重投与の姿勢が、転倒や呼吸困難などの重篤な副作用を防ぐ鍵になります。腎機能の数値を毎回の処方前にチェックする習慣をカルテの定型業務に組み込んでおくと、調整漏れを減らせます。
トラマドールの過量投与による呼吸抑制が疑われる場合、解毒薬としてナロキソンが用いられることがあります。しかし、ここに見落としやすい落とし穴があります。
ナロキソンはけいれん発作を誘発するおそれがあると添付文書にも明記されています。
参考)https://goshu-seiyaku.co.jp/wp-content/uploads/2018/12/961ee976e31cad6c704af7748e1dfc14.pdf
どういうことでしょうか?
通常のオピオイド過量投与であればナロキソン投与は標準的な対応ですが、トラマドールはオピオイド受容体作用に加えてセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を併せ持つ特殊な薬剤です。そのためナロキソン投与によってけいれん閾値が下がり、逆に発作を誘発するリスクがあると報告されています。
参考)トラマドールのポイント:専門医の解説|脳外科医もつ@脳とせぼ…
つまり「トラマドール中毒には通常の解毒対応がそのまま通用しない」ということです。
救急対応の現場では、ナロキソン投与時にけいれんの既往やベンゾジアゼピン系薬剤の準備状況を事前に確認しておくことが望まれます。また透析患者の過量投与では、トラマドールが透析でほとんど除去されない点も踏まえた対応が必要です。
ここまでの対策は薬剤師や医師の間でも比較的知られている内容ですが、あまり語られないのが「ハイブリッド弱オピオイド」という分類上の特殊性です。トラマドールはオピオイドに分類されつつ、薬理学的にはSNRIの性質も併せ持つという二面性があります。
この二面性が、副作用対策を複雑にしている根本原因だと考えられます。一般的なオピオイドの副作用対策(呼吸抑制やせん妄への警戒)だけでなく、抗うつ薬特有の副作用対策(セロトニン症候群やけいれん)も同時に意識する必要があるということです。
〇〇が原則です、と一言で言えないのがこの薬の難しさです。
逆に言えば、強オピオイドに比べて依存性リスクやせん妄・呼吸抑制のリスクは相対的に低いという利点もあります。天井効果がなくモルヒネの5分の1程度の鎮痛力という特徴も踏まえ、患者ごとに「オピオイドとしてのリスク」と「SNRIとしてのリスク」の両面から副作用チェックリストを作っておくと、現場での判断がぶれにくくなります。
セロトニン症候群について一画面で診断アプローチを整理した解説は、鑑別の実践に役立ちます。
## オキシコドンとせん妄に関する基礎情報
オキシコドンはがん性疼痛などに用いられる強オピオイド鎮痛薬で、添付文書上もせん妄・錯乱は重要な副作用として記載されています。高齢者や腎機能低下患者ではオピオイド代謝物の蓄積によりせん妄リスクが上昇することが知られています。
## 提供できる内容