軟膏剤とクリーム剤の違いを臨床で使い分ける

軟膏剤とクリーム剤は、主薬だけでなく基剤構造、水分量、閉塞性、使用感、適する皮疹が異なります。医療従事者が患者指導と処方監査に生かすため、剤形選択の考え方を整理してみてはいかがでしょうか?

軟膏剤とクリーム剤の違いの基礎知識と核心ガイド

基剤から考える外用薬の使い分け
最大の違いは乳化の有無

軟膏剤は主薬を基剤へ溶解または分散した半固形剤、クリーム剤は水と油を乳化した半固形剤として区別されます。

皮疹と部位で剤形を選ぶ

乾燥・亀裂には保護性の高い軟膏剤が向きやすく、湿潤病変や毛髪部位では使用感を踏まえてクリーム剤を検討します。

同じ主薬でも同等とは限らない

含有成分の濃度が同じでも、基剤により放出性、皮膚透過、刺激性、洗い流しやすさ、アドヒアランスが変化し得ます。


剤形の定義:軟膏剤は分散・溶解、クリーム剤は乳化


軟膏剤とクリーム剤はいずれも皮膚に適用する半固形の外用製剤であるため、外観だけから厳密に区別することはできません。しかし、日本薬局方上の本質的な違いは、基剤の構造にあります。軟膏剤は、有効成分を基剤中に溶解または分散させた半固形製剤です。油脂性軟膏剤と水溶性軟膏剤があり、必ずしも「軟膏剤=ワセリンのみ」ではありません。
一方、クリーム剤は、水中油型または油中水型に乳化した半固形製剤です。すなわち、本来は混和しない油相と水相を界面活性剤などによって均一な状態にした剤形がクリーム剤です。油中水型の親油性製剤は油性クリーム剤と称することができます。したがって、軟膏剤とクリーム剤の違いを患者へ説明するときは、「軟膏は油っぽく、クリームは水分が多い」と単純化し過ぎず、「薬を運ぶ土台である基剤の構造が違い、塗り心地や皮膚での働き方に影響する」と伝えることが重要です。


参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/JP17_2-1.pdf
日本薬局方における軟膏剤・クリーム剤の定義


基剤特性と製剤機能を比較する

基剤は単なる賦形剤ではなく、主薬の放出、角層への分配、皮膚透過、病変の保護、洗浄性、刺激感、衣類への付着、患者が継続して使えるかというアドヒアランスまで左右します。処方内容を評価する際には、主薬名と濃度だけでなく、剤形、基剤、適用部位、皮疹の性状、塗布回数および患者の生活背景を一体で確認する必要があります。

項目 軟膏剤 クリーム剤
日本薬局方上の特徴 主薬を基剤に溶解または分散した半固形製剤 水相と油相を水中油型または油中水型に乳化した半固形製剤
代表的な基剤 白色ワセリンなどの油脂性基剤、水溶性基剤 多くは水中油型、製品によっては油中水型の油性クリーム
水分と乾燥への影響 油脂性基剤では水分蒸散を抑えやすく、皮膚保護に寄与する 水分を含む製剤では塗布後の揮発により冷感を生じることがある
閉塞性 油脂性軟膏では比較的高い。角層の水和を促しやすい 一般に油脂性軟膏より低い傾向だが、油中水型では保護性がある
洗い流しやすさ 油脂性軟膏は水で除去しにくい 水中油型は水で洗い流しやすい傾向がある
使用感 べたつき、光沢、衣類への付着が課題になることがある 伸展性がよく、べたつきが少ないと感じられやすい
留意点 毛髪部位や高温多湿部位では不快感につながる場合がある 乳化剤や防腐剤などに対する接触皮膚炎、刺激感にも注意する

水中油型クリームは外相が水であり、比較的洗い流しやすく、さっぱりした使用感を得やすいことが特徴です。油中水型クリームは外相が油であるため、より親油性で、水中油型より保護性を期待しやすい一方、水で落としにくい特性を示します。製品名に「クリーム」とあっても一律に同じ使用感・閉塞性・刺激性とはいえないため、個別製剤の添付文書、インタビューフォーム、配合成分を確認する姿勢が必要です。


参考)https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-191223.pdf


皮疹の性状・適用部位から選択する

剤形選択では、「乾いているか、湿っているか」「鱗屑や亀裂があるか」「びらんや滲出があるか」「毛髪部位か、間擦部か」といった病変評価が基盤になります。慢性湿疹、苔癬化、皮脂欠乏、落屑、亀裂を伴う局面では、油脂性軟膏剤による保護作用と水分蒸散抑制が有用になりやすく、主薬の治療効果を補助します。特に乾燥した手指、下腿、踵、角化の強い病変では、塗布後の被膜形成を患者が実感しやすいことがあります。
これに対し、急性炎症で赤みや熱感が目立つ病変、比較的湿潤した局面、顔面、頸部、腋窩、鼠径部などでは、べたつきにくく広げやすいクリーム剤が選択されることがあります。ただし、「湿潤病変には必ずクリーム剤」と断定するのは適切ではありません。びらん、浸軟、二次感染、強い滲出の有無、使用する薬効群、患者の刺激感、担当医の治療意図を考慮して個別に判断します。クリーム剤は皮膚への浸透性がよく、冷却感や洗浄性を有する一方、湿潤病変への適否には注意が必要とされています。


  • 乾燥、鱗屑、亀裂、慢性の肥厚・苔癬化では、保護性を期待して軟膏剤が候補になりやすい
  • 顔面、頭頸部、腋窩、鼠径部など使用感が治療継続に影響しやすい部位では、クリーム剤の利点を検討する
  • 頭皮などの毛髪部位では、軟膏剤・クリーム剤以外にローション剤、フォーム剤、ゲル剤なども含めて選択する
  • びらん、潰瘍、感染を疑う所見、強い疼痛がある場合は、自己判断で剤形を変更せず処方医へ確認する
  • 同じ患者でも急性期と慢性期、夏季と冬季、日中と就寝前で適した剤形が変わることがある

たとえば、同一のステロイド外用薬で軟膏剤とクリーム剤が用意されている場合、下腿の乾燥性湿疹には軟膏剤を、顔面や露出部でべたつきが問題となる部位にはクリーム剤を選ぶことがあります。ただし、このような使い分けは一般原則であり、薬効の強さ、対象疾患、感染症の除外、患者の既往歴、皮膚バリアの状態を含めた臨床判断が前提です。


有効成分が同じでも外用効果と安全性は変わり得る

「同じ成分・同じ濃度なら、軟膏でもクリームでも同じ」と考えるのは危険です。主薬の皮膚への移行は、基剤への溶解状態、基剤と角層との親和性、皮膚温、塗布量、病変部の角層バリア、密封の有無など、複数の要因によって変化します。油脂性基剤の閉塞性により角層水和が進むと、結果として主薬の経皮吸収に影響する可能性があります。一方、クリーム剤では水分の揮発や乳化系の特性が、主薬の放出性や使用感に関与します。
また、クリーム剤には乳化を維持するための界面活性剤、防腐剤、安定化剤などが配合されることがあります。これらは品質維持に必要な一方、皮膚バリアが破綻した患者、接触皮膚炎の既往がある患者、長期反復塗布を要する患者では、刺激感や接触皮膚炎の原因候補として確認すべきです。逆に、油脂性軟膏剤であっても、べたつきや衣類汚染、塗布感への不満から使用量不足や中断につながれば、理論上の基剤特性を生かせません。


服薬指導と処方監査で押さえる実践ポイント

外用薬のアドヒアランスを改善するには、「どちらが強い薬か」という説明ではなく、「この部位・この皮膚状態では、なぜこの剤形なのか」を具体的に伝えることが有効です。患者は軟膏剤の光沢やべたつき、クリーム剤のしみる感覚を副作用と捉えることがあります。予測される使用感を事前に説明し、耐え難い刺激、発赤の増悪、丘疹、水疱、浸出液、疼痛、感染を疑う変化がみられた場合には中止または受診相談につなげるよう案内します。
塗布量の確認も不可欠です。処方された剤形にかかわらず、少量を薄く擦り込むことだけが適切とは限りません。疾患や主薬に応じた指示を優先し、必要な部位にむらなく塗布できる量を確保します。保湿剤と治療薬を併用する場合には、重ねる順番や時間間隔について施設方針・処方医の指示を確認し、自己流の混合は避けるよう説明します。混合により安定性、主薬濃度、放出性、保存性が変化する可能性があるためです。
処方監査では、同一成分の異なる剤形が重複していないか、目的別の使い分けが明確か、広範囲・長期使用時に使用量が過大になっていないか、保存環境が製品の規定に合っているかを確認します。患者に「軟膏だから弱い」「クリームだから軽症用」といった誤解があれば訂正し、剤形は薬効の強弱そのものではなく、基剤設計と適用場面の違いであることを共有します。個々の添付文書に記載された効能・効果、用法・用量、禁忌、使用上の注意を確認したうえで、病変と生活に合う剤形を提案することが、外用治療の質を高める鍵となるでしょう。





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