無気肺のレントゲン所見を系統的に読む実践ガイド

無気肺は胸部レントゲンで白く見えるだけでは診断できず、肺容量の減少、葉間裂・肺門・縦隔の偏位、横隔膜挙上などを総合して判断します。肺炎、胸水、腫瘤性病変との鑑別と追加検査の考え方を整理できているでしょうか?

無気肺 レントゲン 所見の基礎知識と核心ガイド

無気肺を見落とさない読影手順
白さより容量減少を確認する

無気肺では透過性低下に加え、葉間裂、肺門、縦隔、横隔膜が患側へ移動する容量減少所見が重要です。

肺葉別の変位パターンを捉える

各肺葉の解剖と葉間裂の移動を意識すると、正面像だけで不明瞭な無気肺も側面像と組み合わせて推定できます。

原因検索とCT判断を遅らせない

粘液栓や術後低換気だけでなく、中枢気道腫瘍による閉塞も念頭に置き、持続例では造影CTなどで評価します。


無気肺とは何か:胸部レントゲンで問うべき本質



無気肺(atelectasis)は、肺胞を含む肺実質の含気が低下し、肺区域、肺葉、あるいは片肺の容積が減少した状態である。単に胸部レントゲンで白い陰影があることと、無気肺は同義ではない。無気肺を示唆する本質的な所見は、肺内の空気量減少に伴う肺容量の減少である。
閉塞性無気肺では、腫瘍、粘液栓、喀痰、血栓、異物、気道狭窄などにより気管支が閉塞し、末梢肺胞内のガスが血流へ吸収される。術後、人工呼吸管理中、疼痛による浅呼吸、長期臥床、意識障害、神経筋疾患、咳嗽力低下などでは、分泌物貯留と低換気を背景に生じやすい。一方、胸水、気胸、巨大腫瘤、腹部膨満などの外圧で肺が圧排されて起こる受動性無気肺も臨床上重要である。
胸部X線では、含気が失われた肺実質は透過性が低下し、周囲より白く見える。しかし、肺炎、肺胞出血、肺水腫、腫瘤、胸水、胸膜病変でも濃度上昇は起こり得る。したがって、「白い陰影を認める」だけで判断せず、「その陰影の領域では肺容量が減っているか」「解剖学的な構造がどちらへ動いているか」という順序で読む必要がある。無気肺では、葉間胸膜の移動、肺門の偏位、縦隔の患側偏位、横隔膜挙上、肋間腔狭小化、残存肺の代償性過膨張などが手掛かりとなる。


参考)https://jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=12845
なお、胸部レントゲンで「すりガラス影」という表現は厳密には適切ではないことが多い。すりガラス陰影は通常CTで用いる用語であり、無気肺の単純X線写真では「透過性低下」「濃度上昇」「板状陰影」「区域性または肺葉性の高濃度陰影」などと記載し、容量減少所見を併記するほうが病態を正確に伝えられる。


胸部レントゲンで確認する直接所見と間接所見

無気肺の読影では、まず正面像で左右の肺野透過性、肺門の高さ、気管の位置、横隔膜の高さ、縦隔幅、肋間腔の広さを概観する。その後、葉間裂や心陰影、横隔膜、縦隔とのシルエットサインを用いて、どの肺葉・区域が関与しているかを絞り込む。ポータブルAP撮影や仰臥位撮影では回旋、吸気不足、露出条件の影響を受けやすいため、撮影条件そのものも必ず確認する。
直接所見は、虚脱した肺に相当する区域性・肺葉性の透過性低下、葉間裂の偏位、気管支血管束の収束である。間接所見は、病変部の容積減少に引かれて生じる気管・縦隔・肺門の患側偏位、横隔膜挙上、肋間腔狭小化、対側肺や残存肺葉の代償性過膨張などである。肺葉全体の含気がほぼ完全に消失すると、均一な濃度上昇の中に肺葉の輪郭が埋もれ、むしろ間接所見が診断の中心になることがある。


項目 基準・内容 備考
透過性低下 区域・肺葉の分布に沿った白色化、濃度上昇を確認する 肺炎や胸水でも生じるため単独では非特異的
葉間裂の変位 虚脱した肺葉側へ葉間裂が移動する 肺葉無気肺の局在診断に有用
肺門の偏位 上葉無気肺では肺門上方、下葉無気肺では肺門下方への移動を確認する 過去画像との比較が有用
気管・縦隔偏位 容量減少が強いと病変側へ牽引される 大量胸水や緊張性気胸では反対側へ偏位し得る
横隔膜挙上 患側横隔膜が高位となり、同側下葉無気肺を示唆する 横隔神経麻痺、腹部要因との鑑別が必要
代償性過膨張 残存肺葉または対側肺の透過性亢進、過膨張を認める 病変自体ではなく周囲肺の二次的変化

特に集中治療や術後病棟では、両側下肺野に線状・板状の陰影として現れる亜区域性無気肺をしばしば認める。少量の板状無気肺は臨床的影響が小さいこともあるが、急速な拡大、低酸素血症の進行、分泌物貯留、発熱や炎症反応、気管支閉塞の兆候を伴う場合には、画像だけで軽症と決めつけない。


肺葉別に読む代表的な無気肺パターン

右上葉無気肺では、右上葉が上方・内側へ虚脱するため、正面像で右上肺野に三角形または扇形の濃度上昇を認めることがある。小葉間裂は上方へ引き上げられ、右肺門も上方へ偏位し得る。右上葉気管支を閉塞する中枢性腫瘤が存在する場合には、腫瘤と虚脱肺が接してS字状に見える「Golden S sign」が知られており、成人の新規発症例では中枢気道病変を慎重に検索する必要がある。
右中葉無気肺は、正面像では右心縁の不明瞭化として捉えられることが多い。陰影は右中下肺野の内側に限局し、正面像だけでは見逃されることもある。側面像では、前方の三角形・帯状の濃度上昇として観察されやすく、水平裂および大葉間裂の接近が手掛かりとなる。右心縁が消えるシルエットサインを認めた際は、右中葉の病変を第一に考える。
右下葉無気肺では、正面像で右下肺野内側の三角形陰影、右横隔膜輪郭の不明瞭化、右肺門の下方偏位などを認めることがある。側面像では後下方に向かう楔状陰影として理解しやすい。左下葉無気肺も後方・内側へ虚脱するため、正面像では心陰影の背後に隠れ、左下肺野の白さが目立たない場合がある。左横隔膜の不明瞭化、左肺門下方偏位、後方の濃度上昇を意識する。
左上葉無気肺では、左上葉が前方・上方へ移動し、正面像で左上肺野のびまん性またはベール状の陰影として見えることがある。大葉間裂の移動により下葉上区が過膨張し、弓状の透亮像が左上肺野に見えることがある。左肺門の上方偏位、左横隔膜挙上、左上縦隔縁の変化を組み合わせて判断する。片肺全体の無気肺では、一側胸郭の白色化に加え、縦隔・気管の患側偏位、肋間腔狭小化、患側横隔膜挙上が重要である。

  • 右心縁が不明瞭なら、右中葉の病変を考え、側面像で前方の陰影を確認する
  • 左下肺野が一見保たれていても、心陰影後方の濃度上昇や左横隔膜の不明瞭化を確認する
  • 肺葉無気肺では、陰影の濃さより葉間裂と肺門の移動方向を優先して読む
  • 片側白肺では、縦隔が患側へ寄るなら無気肺、健側へ押されるなら大量胸水などを考える


肺炎・胸水・腫瘤との鑑別で押さえる点

無気肺と肺炎は、いずれも胸部レントゲンで局所的な透過性低下を示し得るため、単一所見のみでの鑑別は困難である。肺炎では肺胞内滲出による濃度上昇が主であり、典型例では肺容量は保たれるか、場合によっては増加する。気管支透亮像(air bronchogram)が見られることもあるが、無気肺でも閉塞部位より末梢側の気管支内に空気が残存していれば認め得る。そのため、air bronchogramの有無だけを鑑別の決め手にしてはならない。
最も実用的な鑑別軸は、容量減少の有無と縦隔偏位の方向である。無気肺では病変側への牽引が起こりやすい。対して大量胸水では、胸腔内の液体が肺を圧排するため、患側の白色化を認めても縦隔は健側へ偏位しやすい。ただし、慢性の胸水、複数病態の併存、胸郭の硬さ、術後変化などでは典型像から外れるため、胸部エコーやCTを組み合わせる。
成人で新たに肺葉性または片肺無気肺を認め、改善しない場合には、中枢気道を閉塞する肺癌、気管支内腫瘍、リンパ節腫大による圧排、気管支狭窄などを見逃してはならない。無気肺のみが画像上の初発所見となることもあるため、単に「痰による一過性の虚脱」と判断して経過観察を長引かせないことが重要である。胸部X線で無気肺が疑われる場合、原因精査として造影CTが推奨され、状況に応じて喀痰培養、喀痰細胞診、気管支鏡などを検討する。


参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1647
今日の臨床サポート:無気肺の診断・治療方針


読影後の対応:臨床情報と追加検査を結び付ける

無気肺が疑われたときは、画像所見を病態・重症度・原因の三層に分けて整理すると対応しやすい。まず病態として、肺葉性か、区域性か、板状か、片肺性かを記載する。次に重症度として、低酸素血症、呼吸仕事量、呼吸数、意識状態、循環動態、画像上の進行速度を評価する。最後に原因として、術後・臥床・鎮静・挿管・分泌物貯留・誤嚥・胸水・気胸・腫瘤性病変・異物などの臨床背景を照合する。
術後や分泌物貯留が主因と考えられる場合には、体位変換、早期離床、疼痛管理、深呼吸・咳嗽の促進、呼吸理学療法、吸引、加湿、必要時の気管支鏡による分泌物除去などを病態に応じて検討する。ただし、画像だけで粘液栓と断定することは避ける。特に高齢者、喫煙歴のある患者、血痰や体重減少を伴う患者、同一部位の無気肺を反復する患者、治療介入後も改善しない患者では、閉塞性病変の除外を優先する。
レポートでは、「右下葉の容積減少を伴う透過性低下を認め、右下葉無気肺を示唆する。右肺門の下方偏位および右横隔膜挙上を伴う。気管支閉塞性病変の有無についてCTでの評価を考慮する」のように、部位、根拠、推定病態、次の評価課題を一続きで記載すると臨床側に伝わりやすい。逆に「右下肺野に浸潤影あり」とだけ記載すると、肺炎との区別や容量減少の情報が失われる。
胸部レントゲンは無気肺の存在と広がりを迅速に示す基本検査である一方、閉塞部位、腫瘤の性状、胸水との関係、分泌物の分布、肺実質の炎症性変化を単純写真だけで確定することには限界がある。持続する無気肺、原因不明の肺葉性虚脱、呼吸状態の悪化、悪性疾患が疑われる背景では、胸部CTや気管支鏡を含む追加評価へ速やかにつなげることが、安全な診療判断につながる。


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