
呼吸不全とは、呼吸機能の障害によって動脈血ガス、特に酸素(O2)と二酸化炭素(CO2)が異常値を示し、生体が正常な機能を営むことができない状態を指します。 日本では厚生省呼吸不全研究班(1981)により、以下の診断基準が確立されています。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/respira_2016/02_02.pdf
呼吸不全の診断基準
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/respira_2011/02_02.pdf
参考)呼吸不全の理解
参考)慢性呼吸不全
この分類は、単なる数値の区切りではなく、病態の理解と治療方針の決定に直結する重要な指標です。Ⅰ型呼吸不全は「酸素が足りていないが、二酸化炭素はきちんと排出できている状態」、Ⅱ型呼吸不全は「酸素不足に加えて、二酸化炭素も体内に蓄積している状態」と理解できます。
参考)お知らせ・ブログ|呼吸不全の分類(Ⅰ型・Ⅱ型)|ちくさ病院の…
P/F比(P/F ratio)は、動脈血酸素分圧(PaO2)を吸入気酸素濃度(FiO2)で割った値で、肺の酸素化能(ガス交換能力)を評価する臨床的に重要な指標です。
参考)P/ F 比
P/F比の計算式
\ P/F \text{比} = \frac{PaO2 (\text{mmHg})}{FiO2} \
ここで、FiO2の大まかな値は以下の通りです。
計算例
リザーバーマスク10L/min(FiO2≒0.8)で酸素投与中の患者において、動脈血ガス測定でPaO2=96mmHgであった場合:
\ P/F \text{比} = \frac{96}{0.8} = 120 \text{ mmHg} \
P/F比の正常値と解釈
参考)P/F比
P/F比が低下するということは、肺のガス交換機能に障害が生じ、効率的な酸素化が行えていないことを意味します。 この指標の優れた点は、異なる酸素投与条件下でも客観的に酸素化能を比較評価できることです。
P/F比は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS:Acute Respiratory Distress Syndrome)の診断と重症度分類において、ベルリン定義(Berlin criteria)の中心的な基準として採用されています。
参考)急性低酸素性呼吸不全 (AHRF,ARDS) - 21. 救…
ARDSのベルリン定義における重症度分類
PEEPまたはCPAP ≥ 5cmH2Oの条件下で、以下の通り分類されます。
| ARDSのカテゴリー | 酸素化(PaO2/FiO2) |
|---|---|
| 軽症 | 200 mmHg < P/F ≦ 300 mmHg |
| 中等症 | 100 mmHg < P/F ≦ 200 mmHg |
| 重症 | P/F ≦ 100 mmHg |
この分類は、2012年に発表されたベルリン定義で確立され、従来のALI(Acute Lung Injury:急性肺損傷)の概念を統合したものです。 P/F比が300未満からARDSの診断基準を満たし、数値が低下するほど重症度が高まり、予後も不良となる傾向があります。
ARDS診断のその他の基準
臨床現場では、P/F比だけでなく、これらの基準を総合的に評価してARDSの診断を行います。また、P/F比は経皮的酸素飽和度(SpO2)とFiO2の比(S/F比)でも代用可能であることが示されており、SpO2 ≦ 97%の条件下でS/F比 ≦ 315がP/F比 ≦ 300と同等の感度・特異度を持つと報告されています。
Ⅰ型呼吸不全とⅡ型呼吸不全では、病態生理と原因疾患が大きく異なります。この理解は、適切な治療アプローチを選択する上で不可欠です。
参考)https://www.atomed.co.jp/openfacemask/column/01/
Ⅰ型呼吸不全の病態と原因疾患
病態:ガス交換障害が主体で、肺胞に空気(外気)が入ってきても、血液中に酸素をうまく取り込めていない状態です。肺胞内では拡散障害や換気血流比(V/Q)不均等、シャントなどが生じています。
参考)Ⅰ型呼吸不全とⅡ型呼吸不全とは?違い・病態・臨床での考え方を…
特徴。
参考)慢性呼吸不全:慢性呼吸不全の定義と原因疾患│西新潟中央病院
代表的な原因疾患
Ⅱ型呼吸不全の病態と原因疾患
病態:換気障害が主体で、肺胞内に出入りするガスの量が少なく、血液中の二酸化炭素の排出・酸素の取り込みが難しい状態(肺胞低換気)です。
特徴。
代表的な原因疾患
参考)「障害者リハビリテーション」入門---17 呼吸機能障害
| A-aDO2が開大するケース | A-aDO2が正常のケース |
|---|---|
| ・COPD(慢性閉塞性肺疾患) | ・原発性肺胞低換気症候群 |
| ・気管支喘息(重症発作) | ・脳血管疾患 |
| ・びまん性汎細気管支炎 | ・睡眠薬の過量服用 |
| ・肺結核後遺症 | ・ギランバレー症候群 |
| ・気管支拡張症 | ・進行性筋ジストロフィー |
| ・重症筋無力症 | |
| ・筋萎縮性側索硬化症(ALS) | |
| ・高度の肥満(肥満低換気症候群) | |
| ・脊柱側弯後弯症 |
日本における慢性呼吸不全の基礎疾患は、COPDが45%と最も多く、次いで肺線維症・間質性肺炎、肺がんが増加傾向にあります。
臨床現場でP/F比を活用する際、いくつかの重要な注意点と、あまり知られていない事実があります。
意外な事実:SpO2が正常でもP/F比は低下している可能性
P/F比の限界と注意点
A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)の併用
A-aDO2は、室内気吸入下で以下の式で計算されます。
\ A\text{-}aDO2 = PAO2 - PaO2 = (150 - \frac{PaCO2}{0.8}) - PaO2 \
A-aDO2が開大する場合は換気血流比不均等、拡散障害、シャントを、A-aDO2が正常の場合は肺胞低換気を示唆します。
参考文献