
2026年度、すなわち令和8年度の診療報酬改定では、一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」が見直されました。看護必要度は、入院患者に提供された医療・看護の必要性を日々の評価項目に基づいて把握し、急性期機能を担う病棟が適切な患者を受け入れているかを確認するための指標です。
単に「重症患者が多いか」を測るものではありません。A得点ではモニタリングや処置等を含む医療的な状況、B得点では患者の状態・ADLに関する看護の必要性、C得点では手術等の医学的状況を評価します。したがって、看護必要度の数値は、患者像、治療内容、入退院の流れ、記録の正確性、医師・看護師・医事部門の情報共有によって変動します。
今回の見直しは、従来の評価が外科系処置を受けた患者に偏りやすく、救急搬送後に高度な内科的治療を受ける患者の急性期性を十分に反映しにくいという課題を背景にしています。厚生労働省は、急性期・高度急性期入院医療に関する説明資料を公表し、施設基準、告示、通知、疑義解釈を順次更新しています。現場では概要資料だけで終わらせず、自施設の届出区分に対応する最新の通知と疑義解釈まで確認することが欠かせません。
特に重要なのは、2026年4月の制度変更と、2026年10月から本格的に影響が現れ得る新基準を切り分けて考えることです。既に届出を行っている病棟には経過措置が設けられていますが、経過措置は従来運用を恒久的に認める制度ではありません。猶予期間中に新基準での実績を可視化し、届出維持の可能性を検証するための準備期間として扱う必要があります。
厚生労働省の令和8年度診療報酬改定ページには、医科点数表、基本診療料の施設基準、届出手続、疑義解釈資料が掲載されています。制度解釈の根拠を確認する際は、二次情報だけで判断せず、改定後の掲載版と訂正履歴を参照することが重要です。
令和8年度診療報酬改定の法令・通知・疑義解釈を確認できる厚生労働省の公式ページです。
厚生労働省|令和8年度診療報酬改定について
2026年度改定の大きな変更点は、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度におけるA項目・C項目の評価対象の拡張です。新たに、抗悪性腫瘍剤の使用と、救命等に係る内科的治療に関する項目が追加されました。これは、手術を受けた患者だけでなく、薬物療法や高度な内科的管理を必要とする患者の急性期性を評価へ反映させる方向性を示します。
看護師が実務上注意したいのは、「治療を実施した」という事実と、「看護必要度の評価対象として要件を満たす」という判断を混同しないことです。抗悪性腫瘍剤であれば、使用薬剤、投与経路、投与目的、治療内容、評価対象期間などを、通知・別表・疑義解釈に沿って確認します。救命等に係る内科的治療についても、重症感や診断名のみで判断せず、実施された治療行為とその根拠を診療録上で追える状態にしておく必要があります。
この変更には、意外な実務上の意味があります。A・C項目の追加により該当患者割合が上がる可能性がある一方、病棟の入力ルールが曖昧であれば、評価漏れと過大評価の両方が起こり得ます。例えば、化学療法レジメンのオーダー情報、実際の投与記録、看護記録、薬剤部情報が別々に存在すると、評価担当者が必要な情報へ到達できないことがあります。制度上は実施した治療でも、記録の探索性が悪ければ、監査や内部点検で説明が難しくなります。
運用を整える際は、次のような視点で確認します。
なお、個別の項目判定は施設独自の解釈で固定せず、厚生労働省の疑義解釈資料と、地方厚生局への照会が必要となる場合があります。令和8年度改定では疑義解釈資料が複数回にわたり公表されているため、古い研修資料のみでの判断は避けるべきです。
厚生労働省の説明資料ページでは、急性期・高度急性期入院医療を含む改定概要資料を確認できます。
厚生労働省|令和8年度診療報酬改定説明資料等について
看護必要度には、一般病棟用の「必要度Ⅰ」と「必要度Ⅱ」があります。必要度Ⅰは看護必要度に関する評価を病棟で行う方式、必要度ⅡはDPCデータ等を活用して一部の項目を評価する方式です。対象となる入院料や病棟規模、届出内容により、どちらを用いるか、あるいは必要度Ⅱの使用が求められるかが異なります。
2026年度改定では、各入院料における該当患者割合の基準が見直されました。一般に、必要度Ⅰの基準値は必要度Ⅱより1ポイント高く設定されています。必要度Ⅱを使用している病棟であっても、DPCデータに載る診療行為が適切に記録・請求・提出されなければ、実態とデータの間に差が生じます。看護部だけの課題ではなく、医師、医事課、診療情報管理部門、情報システム部門が連携して管理すべきテーマです。
| 確認項目 | 必要度Ⅰ | 必要度Ⅱ |
|---|---|---|
| 主な評価の基盤 | 病棟での評価・記録 | DPCデータ等を活用した評価 |
| 運用上の重点 | 評価時点、観察内容、記録の整合性 | 診療行為の入力、請求、データ提出の整合性 |
| 見落としやすい点 | 観察・処置の実施と評価入力の時間差 | 実施済みでもコードやデータ反映に不備があるケース |
| 管理の単位 | 日々の病棟運用 | 病棟運用とデータ品質管理の両立 |
たとえば、急性期一般入院料1では、改定後の必要度Ⅱにおける基準割合が基準①27%以上、基準②34%以上へ見直されます。経過措置終了後に必要となる数値を、月末に初めて確認する運用では対策の余地が限られます。少なくとも週次、可能であれば日次で、分子となる該当患者数、分母となる評価対象患者数、除外・対象外の理由、診療科別の傾向を見える化することが望まれます。
ただし、基準割合を上げること自体を目的にしてはいけません。患者の状態を実際より重く扱うこと、必要性のない検査・処置を行うこと、記録を後から帳尻合わせすることは不適切です。看護必要度は、必要な医療・看護を正確に表すための評価です。適正な評価の結果として基準を満たせる病棟運営へ改善するという順序を守ることが重要です。
2026年度改定では、救急搬送患者を受け入れる医療機関の機能を反映するため、看護必要度の該当患者割合に関係する「救急患者応需係数」が導入されました。救急要請への応需実績や救急搬送受入件数等を踏まえ、一定の要件を満たす場合に、該当患者割合の計算上で評価する仕組みです。
ここで注意したいのは、救急患者応需係数を「救急車を多く受ければ自動的に有利になる制度」と理解しないことです。対象となる入院料、救急搬送受入件数の考え方、許可病床数との関係、係数の算定方法、届出・報告の扱いについては、公式資料に基づく確認が必要です。救急部門だけで完結する情報ではなく、救急外来、病棟、地域連携室、医事課、経営部門が同じ定義で実績を扱わなければなりません。
救急受入を積極的に行う病院では、救急外来の情報と病棟の看護必要度データを別々に管理していることがあります。しかし、今回の制度変更では、救急応需の実態、入院後の医療内容、該当患者割合が経営・施設基準の観点でつながります。院内データの定義を合わせることが、意外に重要な対策になります。
具体的には、次のような確認が有効です。
この係数は、救急を担う病院の役割を数字で可視化する方向の評価といえます。一方で、救急受入の件数だけを追うと、病床回転、夜間帯の人員、入院後の病棟負荷、退院支援への影響を見失います。救急受入の強化と看護の質・職員負担の両方を管理しなければ、制度対応が現場疲弊につながるおそれがあります。
2026年度の看護必要度改定では、一定の病棟を対象に新基準に関する経過措置が設けられています。2026年3月31日時点で対象入院料の届出を行い、改定後も届出を継続する病棟では、2026年9月30日まで旧基準を満たしていれば、新基準を満たすものとして取り扱う経過措置があります。したがって、2026年10月1日以降を見据えた準備が必要です。
経過措置の終了日を単なる「締切」と捉えるのではなく、制度移行を検証する期限と考えると実務が整理しやすくなります。まず、自施設が経過措置の対象であるかを届出状況と通知で確認します。次に、新基準で見た場合の該当患者割合を、可能なら月別・病棟別・診療科別に試算します。そのうえで、基準未達の原因が患者構成なのか、評価漏れなのか、データ連携の問題なのかを区別します。
独自視点として重視したいのが、「記録監査を教育ではなくフィードバック設計に変える」ことです。看護必要度の監査は、誤りを発見して注意するだけでは継続しません。評価が迷いやすい項目を抽出し、典型症例を用いて、どの情報をどの記録で確認し、どの時点で判断するのかを短いフィードバックに落とし込む方が、日々の評価精度を上げやすくなります。
例えば、月に1回だけ全件を後追いする監査では、修正可能な期間を過ぎた後に問題が判明することがあります。そこで、日々の評価から数例を無作為に抽出し、病棟師長・看護必要度委員・医事担当者などが短時間で照合する「小さな監査」を繰り返す運用が有用です。評価者個人の知識不足として処理せず、オーダー画面の見にくさ、夜勤帯の引継ぎ、入力時刻、薬剤情報の所在といった工程上の原因を探ることがポイントです。
また、看護必要度の数値が低下した場合に、ただちに「評価漏れ」と決め付けるのも危険です。患者構成の変化、予定入院の増加、地域連携の変化、病棟再編、救急搬送の受入状況、平均在院日数など、複数の要因が関わります。数値の変動を臨床現場の実感と照合し、必要度の指標を病棟機能の説明に活用する姿勢が求められます。
日本看護協会は、令和8年度診療報酬改定について、厚生労働省の通知・説明資料への案内と看護関連の情報をまとめています。現場教育の起点として利用できます。
日本看護協会|令和8年度診療報酬改定
2026年10月以降の新基準に備えるには、看護必要度を看護部門だけの入力業務として扱わず、診療・記録・請求・データ提出・救急受入を結ぶ院内共通の指標として管理することが重要です。正確な評価を継続できる仕組みを整え、最新の厚生労働省通知と疑義解釈で判定を更新していきましょう。
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