
かかりつけ医の有無について、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が行った「日本の医療に関する意識調査」では、「かかりつけ医がいる」と回答した人が56.9%で、逆に「いない」と回答した人は26.6%、「いないがいるとよいと思う」が15.7%でした。
参考)「かかりつけ医」いる56.9%、日医総研調べ - CBnew…
この結果を単純に整理すると、かかりつけ医が明確に「いない」人は約4人に1人強、現時点ではいないが必要性は感じている人まで含めれば、かかりつけ医を持っていない層が約4割を占めていることになります。
厚生労働省の受療行動調査では、「かかりつけ医師がいる」人は外来で64.1%、入院で63.8%とされており、調査手法は違うものの「6割前後がいる、4割前後はいない」という構図は大きくは共通しています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jyuryo/00/kekka-2.html
日医総研の調査では、2017年、2020年、2022年と継続して55%台で推移しており、新型コロナウイルス感染症の流行や「かかりつけ医機能」に関する政策的議論が続いたにもかかわらず、「急激な変化は見られない」とコメントされています。
つまり、「かかりつけ医いない割合」は近年大きく改善しておらず、医療政策上重点が置かれているにもかかわらず、生活者レベルでの行動変容は限定的であることが示唆されます。
かかりつけ医が「いない」人に理由を尋ねた質問では、「あまり病気にかからないので必要ない」が69.7%で最多となり、「その都度医療機関を選ぶ」が26.2%、「どのような医師が適しているか分からない」が22.0%と続いています。
この結果から、かかりつけ医いない割合を生み出している主因は、「健康だと思っているため、医療に継続的にアクセスする必要性を感じていない層」であることが分かります。
興味深いのは、「その都度医療機関を選ぶ」という回答が一定割合を占める点で、インターネット検索や口コミサイト、SNSなどの情報を使い、症状ごとに「専門らしい」「評判が良さそう」な医療機関を選ぶ行動様式が背景にあると考えられます。
一方、「どのような医師が適しているか分からない」という回答は、「かかりつけ医が必要と言われても、自分に合う医師を選ぶための具体的な判断軸が分からない」という患者側の認知ギャップを示しており、医療従事者側からの情報提供やナビゲーションの不足も示唆されます。
医療者目線で見ると、「必ずしも病院受診回数が多くない人ほど、かかりつけ医機能の意義を理解しづらい」という逆説的な構造があり、重症化予防や生活習慣病の早期介入という観点から見ると、現在の教育・啓発は「医療をすでに利用している層」に偏っている可能性があります。
かかりつけ医いない割合が一定規模で存在することは、医療安全や医療費の面で複数のリスクを孕んでいます。まず、日常的な健康相談を行う相手がいない場合、受診タイミングが遅れがちになり、症状が進行してから救急外来や大病院を初診で受診するパターンが増える可能性があります。
厚生労働省の調査では、かかりつけ医がいる人の多くが、今回の病気でその医師に診てもらっており、外来では66.3%、入院では70.6%がかかりつけ医の関与を受けています。これは、かかりつけ医がいることで早期受診や適切な医療機関選択の誘導が働いていると解釈できます。
逆に、かかりつけ医いない層では、急性期病院の外来を「なんでも受診できる窓口」として利用しがちであり、軽症例の集中による混雑や、紹介状のない受診による選定療養費の負担増など、患者・医療機関・制度のいずれにとっても不利益な状況が生じやすくなります。
さらに、生活習慣病やメンタルヘルスの問題は、定期的なフォローアップと長期的な信頼関係が治療継続の鍵になりますが、かかりつけ医いない場合には、治療の中断や自己判断による薬物調整などのリスクが高まり、結果的に重症化して医療費がかさむことが想定されます。
医療従事者にとって重要なのは、「かかりつけ医いない割合」が単なる統計値ではなく、慢性疾患の増加、高齢化、医療資源の偏在といった日本の構造的課題と密接につながっていることを現場で意識し、個々の患者への説明や地域連携の中で具体的な行動につなげていくことです。
かかりつけ医機能の政策論を解説した厚生労働省の資料として、「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」概要は、一般住民の受療行動や医療への期待を把握する上で参考になります。
参考)https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-iryo/gairyaku.pdf
医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査 概要(内閣府)
複数の調査からは、若年層ほど「かかりつけ医がいない」割合が高く、都市部在住者でも同様の傾向があることが示されています。これは、高齢者に比べて慢性疾患が少なく、医療機関との継続的な付き合いがまだ形成されていないことが主因です。
参考)2ページ目-医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査(令和…
一方で、都市部では医療機関の選択肢が豊富であるがゆえに、「症状別に専門医へ直接アクセスしたい」というニーズが強く、かかりつけ医を「必要なときだけ紹介状を書く存在」と捉える人もおり、従来の「何でも相談できる身近な医師」というイメージとは異なる役割期待が生まれています。
意外なポイントとして、若年層の中には「オンライン診療アプリをその都度利用する」「健康情報はSNSや動画で収集する」といった、従来の医療機関を介さないセルフケア行動が一定程度広がっており、その結果として「かかりつけ医の概念自体を持っていない」人も存在します。
医療従事者側から見ると、こうした層は健診や予防接種などの機会でしか医療システムに接触しないことが多いため、「かかりつけ医を持つメリット」を伝える場面が限られ、情報提供の機会損失が生じています。健診会場や職域の産業医面談などを、かかりつけ医機能の啓発の場として活用する工夫が求められます。
また、都市部では複数の診療科にまたがる受診が多くなりがちですが、かかりつけ医いない場合には内科・精神科・皮膚科などが並行してバラバラに受診され、薬物相互作用や重複処方のリスクが高まります。若年層でも漢方薬、サプリメント、処方薬を併用しているケースは少なくなく、情報が分断されることで予期せぬ副作用を招く可能性があります。
都市部での受療行動の特徴は、各都道府県の医療計画資料でも詳しく分析されており、例えば愛知県の「かかりつけ医に関する現状調査」では、都市部特有の医療機関選択の傾向がまとめられています。
参考)https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/478099.pdf
愛知県 かかりつけ医に関する現状調査
医療従事者として、かかりつけ医いない患者にどのように説明し、行動変容を促すかは実務上の重要なテーマです。日医総研調査で示された理由を踏まえると、「あまり病気にかからないので必要ない」と考える患者には、病気になる前からの相談窓口としての意義、生活習慣病やメンタルヘルスなど自覚症状が乏しい段階からの支援の重要性を、具体的な事例を交えて伝えることが有効です。
「その都度医療機関を選ぶ」層には、症状別に専門医へ直接アクセスすること自体を否定するのではなく、「情報が分散することによるリスク」や「医師間で方針が食い違ったときに整理してくれる存在」として、かかりつけ医を位置づけ直して説明することで、納得度を高めやすくなります。
「どのような医師が適しているか分からない」という層には、医師紹介システムや地域医師会のホームページ、自治体の医療機関検索サイトなどを具体的に活用方法とともに提示し、「選び方のフレーム」を渡すことがポイントになります。診療科、アクセス性、診療時間だけでなく、「話しやすさ」「家族も診てもらえるか」「多職種との連携体制」といった要素も含めて、患者自身に優先順位を考えてもらう支援が有効です。
実務上は、初診時の問診票に「今後のかかりつけ医として当院を希望するか」「健康相談の窓口をどこに置きたいか」を確認する項目を追加することで、患者側がかかりつけ医を意識するきっかけを作ることもできます。また、退院支援や地域包括ケア会議の場で、「退院後のかかりつけ医の確保」がチェック項目として組み込まれているかを見直すことも、組織的な介入の一歩となります。
さらに、かかりつけ医機能を説明する際には、「何でも診る医師」だけでなく、「必要に応じて専門医と連携し、情報を整理してくれるコーディネーター」としての役割を強調することで、医療の高度化が進む現代においても価値があることを伝えやすくなります。特に複数の慢性疾患を持つ高齢者では、多剤併用や治療方針の優先順位付けが課題となるため、かかりつけ医いないことが具体的な不利益を生む場面を例示しながら、患者・家族と共有していくことが重要です。
かかりつけ医の役割を患者向けに分かりやすく解説した資料として、日本医師会の「日本の医療に関する意識調査」報告書は、説明用の図表やグラフも含まれており、院内研修や患者向けパンフレット作成の参考になります。
参考)https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/WP480.pdf
第8回 日本の医療に関する意識調査(日医総研ワーキングペーパー)
検索上位ではあまり触れられていない視点として、医療DXの進展とともに、「分散型かかりつけ」という新しい概念が現れつつあります。すなわち、患者が単一の医師に全てを委ねるのではなく、オンライン診療、チャット相談、対面診療、薬局薬剤師、訪問看護など複数の接点を組み合わせて、自分なりの「ケアチーム」を形成する動きです。
このような環境下では、「かかりつけ医いない割合」という指標だけでは、患者が実際にどの程度継続的な支援を受けているかを正確に評価できない可能性があります。例えば、オンライン診療サービスを定期的に利用している患者が、調査票の「かかりつけ医がいるか」という問いにどう回答するかは、設問文の解釈によって変わり得ます。
医療従事者としては、「かかりつけ医=特定の一人の医師」という固定観念に縛られず、「誰が患者の健康情報を一元的に把握し、長期的な視点で支援しているか」という機能面から、かかりつけ医機能を再定義する必要があります。その際、電子カルテの地域連携機能やPHR(Personal Health Record)などのツールを活用し、複数の医療機関・職種が情報を共有しながら、患者を中心とした分散型のケアチームを構築することが鍵となります。
この「分散型かかりつけ」の発想を取り入れると、かかりつけ医いない割合が高い地域でも、薬局や訪問看護ステーション、保健師など他職種が「準かかりつけ」の役割を担うことで、医療安全や重症化予防の機能をある程度補完できる可能性があります。医療提供体制の議論においても、診療所・病院だけでなく、地域の多職種連携を前提にした「機能分担型かかりつけ医モデル」を検討する価値があるでしょう。
このような視点は、現場の医療従事者が地域ケア会議や在宅医療連携会議に参加する際にも有用であり、かかりつけ医いない患者を「未対応」として捉えるだけでなく、「誰がどの機能を担っているのか」を棚卸しし、空白となっている機能を見つけて埋めていくというアプローチにつなげることができます。
医療DXやPHRの活用については、各自治体や厚生労働省の医療計画・在宅医療等に関する資料で事例が紹介されており、特に福井県や愛知県の資料には地域連携の工夫が詳しく記載されています。
参考)https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/iryou/iryoujouhou/7ji-iryoukeikaku_d/fil/yonnbu.pdf
福井県 第7次医療計画 第4部 在宅医療・地域連携に関する記載
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