
悪性新生物死亡率とは、一定期間に悪性新生物<腫瘍>を死因として死亡した人の頻度を人口で除して示す指標です。国内の人口動態統計では、通常、年間の悪性新生物死亡数を10月1日現在の日本人人口で除し、人口10万対で表します。例えば死亡率319.3は、人口10万人当たり年間およそ319人が悪性新生物で死亡したことを意味します。個人の死亡確率や治療成績を直接表す数値ではなく、集団の死亡負担を把握するための公衆衛生指標である点を明確にしておく必要があります。
厚生労働省の2024年人口動態統計確定数では、悪性新生物による死亡数は全国で384,111人、死亡率は人口10万対319.3でした。性別にみると、男性は221,786人、死亡率379.4、女性は162,325人、死亡率262.5です。死亡数・粗死亡率のいずれも男性が女性を上回ります。また、悪性新生物は男性・女性ともに死因順位第1位であり、全死亡に占める割合は男性27.1%、女性20.7%でした。医療現場で「男性のがん死亡負担が高い」と説明する際は、単に死亡数の大小ではなく、人口規模を反映した死亡率と死因構成割合を併せて示すことが重要です。令和6年(2024年)人口動態統計(確定数)の概況
参考)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/dl/15_gaikyouR06.pdf
ただし、この男女差を生物学的性差だけで説明することは適切ではありません。年齢構成、喫煙・飲酒歴、肥満や感染症などのリスク因子、受診行動、検診受診状況、診断時の進展度、治療アクセス、併存疾患、死因記載の状況といった複数の要素が重なります。さらに、粗死亡率は高齢者人口の割合が高い集団ほど上がりやすいため、男女間や地域間、年次間の比較では年齢調整死亡率を併読することが原則です。
2024年の部位別データからみると、男性では気管・気管支・肺の悪性新生物による死亡が52,333人で最も多く、死亡率は人口10万対89.5でした。次いで胃がん42.3、膵がん34.9、大腸を結腸と直腸に分けてみると結腸32.2、直腸17.1、肝・肝内胆管25.9、前立腺23.4となります。肺がんは男性の悪性新生物死亡全体において大きな割合を占めるため、禁煙支援、呼吸器症状の早期評価、ハイリスク者に対する適切な受診勧奨などは依然として重要な課題です。
女性では、結腸の悪性新生物による死亡率が31.5、膵がん33.7、肺がん37.6、乳がん25.7、胃がん21.3でした。死亡数では肺がん23,236人、膵がん20,864人、結腸がん19,466人、乳がん15,869人の順です。大腸がんを結腸・直腸で合算すると、女性の死亡数は25,590人となり、重要な死亡負担を形成しています。女性では乳がんや子宮がんなど性特異的ながんに注意が向きやすい一方、肺がん、膵がん、大腸がんといった主要部位への包括的な対応が必要です。
| 項目 | 男性:死亡率(人口10万対) | 女性:死亡率(人口10万対) |
|---|---|---|
| 悪性新生物全体 | 379.4 | 262.5 |
| 気管・気管支・肺 | 89.5 | 37.6 |
| 膵臓 | 34.9 | 33.7 |
| 結腸 | 32.2 | 31.5 |
| 胃 | 42.3 | 21.3 |
| 乳房 | 0.2 | 25.7 |
| 前立腺 | 23.4 | — |
膵がんと結腸がんでは男女の死亡率差が比較的小さい一方、肺がん、胃がん、食道がん、肝がん、前立腺がんでは男性の死亡率が高い傾向がみられます。例えば食道がんの死亡率は男性14.7、女性3.3であり、男性では女性の4倍を超えます。こうした差を患者・住民に伝える際は、「性別でリスクが決まる」と単純化せず、集団統計としての特徴であること、個人のリスク評価には年齢、既往、生活習慣、家族歴、症状、検査結果などを統合する必要があることを説明します。数値は厚生労働省人口動態統計の死因別・性別死亡数および人口10万対死亡率に基づきます。死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率
悪性新生物の死亡統計を扱ううえで、最も誤解が生じやすいのが粗死亡率と年齢調整死亡率の違いです。粗死亡率は、実際の死亡数を当該年の人口で除した実測値であり、医療需要、緩和ケア、在宅療養支援、病床機能、地域の死亡負担を見積もる際に有用です。一方、高齢者の割合が高い地域や集団では、がん死亡が多くなりやすく、粗死亡率は年齢構成の違いを強く受けます。
年齢調整死亡率は、観察集団ごとの年齢階級別死亡率を一定の基準人口に当てはめ、年齢構成が同一であると仮定して算出する指標です。厚生労働省の人口動態統計では平成27年モデル人口が基準人口として用いられています。これにより、人口の高齢化や地域・性別ごとの年齢分布の差を可能な限り除外し、経年的な死亡リスクの変化、都道府県間の比較、対策の評価をしやすくなります。悪性新生物の性・年次別年齢調整死亡率(e-Stat)
参考)https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098layout=datalisthref="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098cycle=7href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098toukei=00450011href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098tstat=000001028897href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098tclass1=000001053058href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098tclass2=000001053061href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098tclass3=000001053065href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098cycle_facet=tclass1href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098tclass4val=0href="https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098">https://www.e-stat.go.jp/index.php/stat-search/database?page=1&layout=datalist&cycle=7&toukei=00450011&tstat=000001028897&tclass1=000001053058&tclass2=000001053061&tclass3=000001053065&cycle_facet=tclass1&tclass4val=0&statdisp_id=0003464098statdisp_id=0003464098" target="_blank" rel="noopener">人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡 上巻 5-26 悪…
例えば、ある地域で悪性新生物の粗死亡率が上昇しても、それだけでがん対策が後退したとは判断できません。高齢化が進み、がん死亡が多い年齢層の人口が増えた結果である可能性があります。反対に、粗死亡率が横ばいでも、年齢調整死亡率が低下していれば、同じ年齢構成を前提とした死亡リスクは改善している可能性があります。医療従事者が院内資料、地域連携資料、患者向け資料を作成する際には、どの指標を用いたか、対象年、分母、基準人口、年齢調整の有無を明記することが再現性と誤解防止につながります。
男性の悪性新生物死亡率が高い背景には、がん種ごとの発症・死亡リスクの差だけでなく、累積喫煙曝露や飲酒、職業性・環境性曝露、肥満、肝炎ウイルス感染、受診行動、併存疾患などが関与し得ます。特に肺がん、食道がん、胃がん、肝がんでは男性の死亡率が女性より高く、リスク因子への介入と早期診断につなげる取り組みが重要です。ただし、個人の生活習慣を責めるような伝え方は避け、禁煙外来、節酒支援、肝炎ウイルス検査・治療、かかりつけ医受診、症状に応じた精査など、実行可能な選択肢を提示します。
女性では、乳がん・子宮がんに限定しないがん対策が必要です。2024年の女性の悪性新生物死亡率では、肺がん37.6、膵がん33.7、結腸がん31.5が高く、乳がん25.7を上回っています。乳がん検診や子宮頸がん検診の受診勧奨は重要ですが、それだけでは女性のがん死亡全体への対応として不十分です。消化器症状、体重減少、黄疸、血便、持続する咳・血痰などについて、性別にかかわらず受診の必要性を周知することが求められます。
なお、死亡率が高いことは必ずしも罹患率が高いことと同義ではありません。罹患数、診断時病期、治療可能性、治療成績、生存率、死亡診断書上の死因などの影響を受けるためです。国立がん研究センターがん情報サービスでは、がん種ごとに死亡、罹患、生存率、年次推移、都道府県別の75歳未満年齢調整死亡率などを確認できます。死亡率の解釈を深める際は、単年の順位だけではなく、複数年の推移と罹患・生存の指標を組み合わせて評価します。国立がん研究センター がん種別統計情報
患者や家族に「男性は女性よりがんで亡くなる割合が高い」と説明する場合、集団の統計と個人の予後を混同しないことが最優先です。人口10万対の死亡率は、全国または地域全体の人口に対する死亡頻度を示すものであり、目の前の患者の治療可能性、再発率、余命、治療選択をそのまま示すものではありません。個別説明では、病理診断、病期、遺伝子異常・バイオマーカー、PS、臓器機能、治療歴、合併症、患者本人の価値観などを基礎に、当該がん種・病期・治療別の情報を選ぶ必要があります。
院内の教育、地域連携会議、健康講座などでは、まず悪性新生物が男女とも死因第1位であること、次に男性は379.4、女性は262.5という粗死亡率の差、さらに部位別では男性の肺がん、女性の肺・膵・大腸がんの負担が大きいことを示すと、メッセージが整理されます。そのうえで、比較目的によって年齢調整死亡率を使うこと、数字だけで不安を強めないこと、症状がある人は検診の時期を待たずに医療機関へ相談することを伝えると実践につながります。
統計の更新時期にも注意が必要です。人口動態統計は死亡に関する比較的早いデータを提供しますが、全国がん登録に基づく罹患データは集計・精度確認に時間を要します。そのため、死亡、罹患、生存率、予測値は同じ対象年ではないことがあります。国立がん研究センターのがん統計では、2026年1月に死亡データが2024年へ更新され、2026年3月には罹患データが2023年へ更新されています。資料作成時には、表の年次、確定数・概数・予測の別、分子と分母、性別区分を必ず併記し、異なる年次の数値を同列比較しないようにします。国立がん研究センター がん統計
参考)がん統計 HOME:[国立がん研究センター がん統計]
悪性新生物の死亡率にみられる男女差は、予防、検診、早期受診、診断後の継続治療、緩和ケア、地域包括的支援までを見直すための入口です。粗死亡率で現場の負担を捉え、年齢調整死亡率で比較可能なリスクの変化を評価し、部位別・年齢別・地域別の情報を重ねることで、性別という一つの属性に還元しない、より精度の高いがん対策と患者支援へつなげられます。
【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠