トレシーバの空打ち単位を安全に確認する実践ガイド

トレシーバ注フレックスタッチで行う空打ちの単位、目的、適切な操作手順、残量計算時の注意点を医療従事者向けに整理します。空打ち分を含めた安全な自己注射支援はできているでしょうか?

トレシーバ 空打ち 単位の基礎知識と核心ガイド

空打ち単位と注射支援の要点
空打ちは2単位が基本

毎回の注射前に2単位で作動確認を行い、針先から薬液が出ることを確認してから本注射へ進みます。

処方単位とは別に消費する

空打ち分は投与量に含めず、残量確認やキットの使用可能日数を考える際には別途加算して評価します。

針の毎回交換と観察が重要

針を注射直前に新しいものへ交換し、液漏れ、残量、薬液性状、注射部位を一連の手順で確認します。

トレシーバにおける空打ち2単位の意味


トレシーバ注フレックスタッチは、有効成分としてインスリン デグルデク(遺伝子組換え)を含む、1日1回投与の持効型溶解インスリンアナログ製剤です。空打ちとは、本注射の直前に注入ボタンを押し、ペン型注入器、カートリッジおよび注射針の通液性を確認する操作を指します。患者が「薬を無駄にしている」と捉えることもありますが、これは投与精度と安全性を支える確認工程であり、自己判断で省略すべきものではありません。
トレシーバ注フレックスタッチでは、一般に注射のたびに2単位へダイヤルを合わせ、針先を上に向けたうえで注入ボタンを押し、針先に薬液が出ることを確認します。空打ちは、注射針内部や接続部に残った空気を排出し、薬液の流路が確保されていることを確認するために行います。とくに針を交換した直後、低温環境から取り出した後、あるいは針装着時に液漏れなどが疑われる場合には、空打ちの確認が重要になります。
2単位の空打ちにより、患者へ実際に投与する予定の基礎インスリン量が2単位増えるわけではありません。空打ちは針先から排出して完了する確認用の薬液であり、本注射の単位設定は空打ち終了後に改めて処方指示どおりに行います。「空打ち2単位+処方量10単位」であれば、患者に投与される量は10単位であり、ペンから消費される総量は12単位という整理になります。
トレシーバの1筒には3mL、300単位が含まれます。空打ちを行わないことによる見かけ上の残量延長よりも、注射針の閉塞、空気混入、接続不良などに起因する投与不足・投与不確実性を避けることが優先されます。患者教育では、「空打ちは薬を捨てる行為ではなく、決められた量を確実に体へ届けるための準備」と短く説明すると理解を得やすくなります。トレシーバは持効型であり、日々の投与量の誤差や注射忘れ、重複投与が血糖管理に影響し得るため、操作の再現性を高める支援が求められます。


参考)https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/GUI/620023_2492419G1021_1_00G.pdf
PMDA:トレシーバ注 フレックスタッチ 医療用医薬品情報

空打ちから本注射までの安全な手順

患者に指導する際は、単に「2単位で空打ちしてください」と伝えるだけでなく、観察点と異常時の対応を一連の動作として示すことが大切です。手技が定着している患者でも、注射針の使い回し、薬剤銘柄の取り違え、空打ち後に投与単位を再設定しないまま注射する事例が起こり得ます。定期的な注射手技の確認では、患者本人に実演してもらう方法が有用です。

手順 基準・内容 備考
製剤確認 トレシーバであること、ラベル、使用期限、液の性状、残量を確認する 無色澄明でない、変色、濁り、カートリッジの破損がある場合は使用しない
針の装着 注射直前にA型専用規格に適合する新しい針を装着する 使用済み針の再使用は閉塞、液漏れ、感染、針刺し事故のリスクとなる
空打ち設定 ダイヤルを2単位に合わせ、針先を上向きにする 気泡を上部へ集めるため、必要に応じて軽く指でたたく
作動確認 注入ボタンを最後まで押し、針先から薬液が出ることを確認する 単位表示が0へ戻ることも確認する
投与量設定 処方された本注射の単位を改めて設定する 空打ちの2単位を処方量から差し引かない
皮下注射 腹部、上腕、大腿などへ皮下注射する 静脈内・筋肉内への投与は行わない
注射後処理 針を外し、医療機関の指示に従って安全に廃棄する 針を装着したまま保管しないよう指導する

空打ちで薬液が確認できないときは、直ちに本注射へ移行してはいけません。まず針が確実に装着されているか、針キャップを外しているか、残量が十分かを確認します。それでも薬液が出ない場合は、使用中の針を外して新しい針へ交換し、再度空打ちを行います。液漏れ、変形、カートリッジ破損、ダイヤルや注入ボタンの異常が疑われる場合は、その製剤の使用を中止し、薬局または医療機関へ連絡するよう案内します。
本注射後には、注入ボタンを最後まで押した状態で、注射針を皮下からすぐに抜かず、患者向け取扱説明書に示された保持時間を守るよう支援します。空打ちで流路を確認しても、注射後の保持が不十分であれば皮膚表面への液漏れによる投与不足につながる可能性があります。空打ち、単位設定、注射後保持、針の廃棄を分断せず、1回の注射プロセスとして評価することが重要です。

残量計算では空打ち分を必ず加算する

トレシーバの空打ち単位を考えるうえで、医療従事者が見落としやすい論点は、処方量と実際の薬剤消費量の差です。トレシーバ注フレックスタッチは1筒300単位であり、毎回2単位の空打ちを行う場合、ペンからの1日あたり消費量は「処方された投与量+2単位」となります。例えば、1日1回10単位を注射する患者では、実消費量は12単位/日です。単純計算では300単位÷12単位/日=25日分となり、空打ちを除外して300÷10=30日分と見積もる場合より5日短くなります。

  • 1日8単位を投与する場合、空打ちを含む消費量は10単位/日であり、300単位は約30日分です
  • 1日10単位を投与する場合、空打ちを含む消費量は12単位/日であり、300単位は約25日分です
  • 1日20単位を投与する場合、空打ちを含む消費量は22単位/日であり、300単位は約13日分です
  • 投与量変更、空打ちのやり直し、液漏れ、操作不良があれば、実際の使用日数はさらに短くなります
  • 本注射に必要な単位数を設定できない残量であれば、原則として新しいペンへ切り替える判断を支援します

ただし、使用可能日数は単純な残量計算のみで決めるものではありません。使用開始後のトレシーバ注フレックスタッチは、室温30℃以下で遮光して保管し、冷蔵保管も可能ですが凍結を避け、8週間以内に使用する必要があります。投与量が少ない患者では、残量があっても使用開始後期限が先に到来する可能性があります。残量、使用開始日、保管状態、液の性状を組み合わせて確認する習慣を作ることが必要です。


参考)PMDA 医療用医薬品情報 医療関係者向け
院内・施設内の物品管理や在宅移行時の処方日数設計でも、空打ち単位を考慮しないと、次回受診前に薬液が不足する可能性があります。特に、低用量で基礎インスリンを開始した患者、認知機能や視力の低下により操作を繰り返す患者、訪問看護で複数スタッフが支援する患者では、予備を含めた残量確認が重要です。薬剤師、看護師、医師が「投与量」と「ペンからの総消費量」を共通の言葉で扱うことで、説明のばらつきを減らせます。

空打ち時に起こりやすい誤操作と指導ポイント

空打ちに関する誤操作は、単に手技上の小さな逸脱にとどまらず、投与不足、重複投与、低血糖への不安、治療継続性の低下につながることがあります。代表的なのは、空打ちを省略する、空打ちの2単位を本注射量の一部と誤認して処方量から差し引く、空打ち後に本注射量を設定し忘れる、針をつけたまま保管する、1本の針を繰り返し使う、といった行動です。
「残りが少ないから空打ちをしない」「針先に前回の液がついているから出ているはず」といった自己流の判断も注意が必要です。針先に薬液が付着しているように見えても、現在の装着状態で薬液が正常に流れることを意味するとは限りません。また、前回の注射後に針を外さずに放置すると、温度変化に伴う液漏れや空気の流入、針の閉塞、汚染の原因になり得ます。毎回の新しい針の装着と空打ちは、こうした問題を早期に検出する役割を果たします。
患者教育では、口頭説明に加え、注射手順を記載した指導資材を用い、初回導入時だけでなく、外来フォローや入院時、製剤変更時に手技を再評価します。特にトレシーバと他のインスリン製剤を併用する患者では、製剤名、注入ボタンの色、投与時刻、単位数を注射直前に確認する行動を定着させます。トレシーバは毎日原則として同じ時刻に投与する持効型インスリンであり、患者が注射を忘れた場合は、気付いた時点で投与できる一方、次回投与までは8時間以上空け、2回分を一度に注射しないことが示されています。空打ちの失敗を補おうとして自己判断で追加投与することも避けるよう、具体的に伝える必要があります。


また、指導時には「空打ちで薬液が出なければ、何回も本体を強く振る」「処方量を増やして帳尻を合わせる」といった対応を行わないよう説明します。空打ちの作動確認ができない場合の基本対応は、新しい針への交換と再確認です。それでも解決しない場合は、ペンの使用を中止し、患者が単独で判断せず医療機関または薬局へ相談できる連絡導線をあらかじめ示しておくことが安全です。

注射部位と低血糖を含めた継続支援

空打ちの単位を正しく理解していても、注射部位や低血糖への対策が不十分であれば、トレシーバ治療全体の安全性は確保できません。皮下注射は腹部、上腕、大腿に行い、同じ部位を選ぶ場合でも前回の注射箇所から少なくとも2〜3cm離して注射します。同一箇所への反復注射は、リポジストロフィーや皮膚アミロイドーシスなどの皮膚・皮下組織の変化を招き、インスリン吸収のばらつきにつながる可能性があります。
注射前には、硬いしこり、腫れ、発赤、痛み、皮膚損傷の有無を観察し、硬結などがある部位は避けます。患者には注射部位をローテーションする方法を、腹部・大腿・上腕の区域分けや記録表などを用いて、本人の生活動作に合わせて提示するとよいでしょう。視力低下、手指巧緻性の低下、介護者による注射、訪問看護の介入がある場合には、針装着、空打ち、単位確認、注射後の針廃棄を誰がどこまで担うかを明確にします。
トレシーバの重大な副作用として低血糖があり、空腹感、冷汗、顔面蒼白、手足のふるえ、動悸、疲労感、けいれん、意識低下などが挙げられます。低血糖が疑われ、意識障害がない場合は糖質を含む食品を摂取し、α-グルコシダーゼ阻害薬を併用している場合はブドウ糖を用いることが案内されています。意識が薄れている、けいれんがある、経口摂取が困難といった状況では緊急対応が必要です。患者本人だけでなく、家族や介護者にも症状と対応を共有しておくことが欠かせません。


医療従事者の支援では、空打ちを「2単位」と覚えさせるだけで終わらせず、空打ち後の本注射量の再設定、残量への加算、使用開始後8週間という期限、注射部位ローテーション、低血糖時の対応までを一つのチェックリストとして確認することが有効です。トレシーバの自己注射は日常的な処置であるからこそ、手順の省略や慣れによる誤認を早期に捉え、患者が処方どおりの基礎インスリンを安定して投与できる環境を整えることが重要です。



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