症候性てんかんとは、脳に存在する構造的、代謝性、感染性、免疫性などの原因を背景として生じるてんかんです。従来は、脳の器質的病変によって説明できるてんかんを指して「症候性てんかん」と表現することが多くありました。近年の国際的な分類では、原因を構造的、遺伝的、感染性、代謝性、免疫性、不明に分けて捉える考え方が主流ですが、臨床現場や一般向けの医療情報では、脳梗塞・脳出血・脳腫瘍・頭部外傷・脳炎後・脳奇形などに関連するてんかんを説明する語として「症候性てんかん」が用いられています。
てんかん発作は、大脳の神経細胞に生じる過剰で同期性の異常電気活動によって、運動、感覚、自律神経、意識、認知、情動、行動などの変化が一過性に現れる現象です。厚生労働省は、てんかんを「てんかん発作」を繰り返し起こす状態と説明しており、発作症状には運動症状だけでなく、感覚・自律神経・意識・高次脳機能の異常が含まれます。したがって、全身のけいれんがないからといって、てんかん発作を除外することはできません。
参考)てんかん対策|厚生労働省
症候性てんかんでは、既往歴と発作様式を結び付けて考える視点が重要です。たとえば脳梗塞後の患者に新規の一側上肢のぴくつきや反応低下が反復する場合、脳出血後に一時的な言語障害が同じ形で繰り返される場合、頭部外傷後に視覚症状や意識減損を伴うエピソードが出現する場合には、焦点起始発作を含めて評価します。特に高齢者では脳血管障害や神経変性疾患、腫瘍などの器質的病変が背景にあり、けいれんを伴わない焦点意識減損発作として発見されることがあります。
一方で、急性の発熱、低血糖、低ナトリウム血症、急性期脳炎、急性脳卒中直後、薬物やアルコール離脱などに伴うけいれんは、急性症候性発作として扱われる場合があります。反復するてんかん発作を主徴とする慢性疾患としてのてんかんと、急性の全身・脳病態に伴う単回または一過性の発作を区別することは、診断、治療方針、患者説明のいずれにおいても重要です。
厚生労働省:てんかん対策
症候性てんかんの症状は、異常電気活動が始まる脳領域、周辺への広がり、意識への影響によって変化します。現在は、発作の始まりに基づいて焦点起始、全般起始、不明起始に分類して考えることが基本です。器質的な脳病変を背景とする症候性てんかんでは、焦点起始発作が臨床上重要になることが多く、発作中の症候から焦点部位を推定できる場合があります。
| 発作のタイプ | 基準・内容 | 観察時の備考 |
|---|---|---|
| 焦点意識保持発作 | 意識が保たれたまま、片側顔面・上肢のけいれん、しびれ、視覚・聴覚・嗅覚異常、腹部不快感、恐怖感などが起こる。 | 本人が症状を説明できることがある。反復性、短時間、常同性を確認する。 |
| 焦点意識減損発作 | 反応低下、呼びかけに応じない、動作停止、ぼんやりする、自動症、発語停止などが出現する。 | 口をもぐもぐする、衣服をいじる、歩き回るなどの自動症を伴うことがある。 |
| 焦点起始両側強直間代発作 | 局所症状や前兆から始まり、意識消失後に全身の強直、間代性けいれんへ進展する。 | 発作開始時の視線偏倚、頭部・体幹の向き、片側優位の運動症状が重要な情報となる。 |
| 非けいれん性発作 | 意識の変容、反応遅延、失語、認知・行動の急な変化として現れ、明らかな四肢けいれんを伴わない。 | せん妄、認知症症状、脳血管イベント、薬剤性などとの鑑別が必要である。 |
焦点意識保持発作では、患者が「急に胃から胸へせり上がる感じがした」「既視感があった」「変なにおいがした」「片手だけが勝手に動いた」と訴えることがあります。これらは発作の前兆として扱われることもありますが、意識が保たれている焦点発作そのものです。症状が数秒から数分で終わり、同じような感覚や運動現象が反復する場合には、詳細な問診が診断の手掛かりになります。
焦点意識減損発作では、会話や行動が突然途切れ、呼びかけへの反応が乏しくなります。口をもぐもぐさせる、嚥下様の動きをする、手指をいじる、衣服を触る、目的なく歩くなどの自動症を伴うことがあります。発作後には、数分程度の見当識障害、眠気、頭痛、疲労感、発語の困難さが残ることがあり、本人に発作中の記憶がないことも少なくありません。
全身けいれんを伴う発作では、突然の意識消失、転倒、全身の強直、続く四肢の律動的なけいれん、呼吸の乱れ、チアノーゼ、流涎、舌咬傷、尿失禁などがみられることがあります。ただし、これらすべてが必ず出現するわけではありません。発作後には意識が混濁し、睡眠、頭痛、筋肉痛を認めることがあります。てんかん発作は短時間で回復することが多い一方、持続や反復、回復遅延がある場合には、てんかん重積状態や急性の脳疾患を念頭に置いて対応します。
参考)日本内科学会雑誌
症候性てんかんでは、発作症候が脳病変の部位やネットワークと一定の関連を示すことがあります。ただし、症候だけで発作起始部位を断定することはできず、脳波、MRI、臨床経過を統合して評価する必要があります。現場で重要なのは、発作の開始から終息までを可能な範囲で正確に観察し、診療チームへ再現性のある情報として共有することです。
たとえば、脳卒中後の患者が突然会話を止め、右手で衣服を繰り返し触り、呼びかけへの反応が低下した後、数分間ぼんやりしていた場合、単なる疲労や認知機能低下とせず、焦点意識減損発作を含めて評価します。反対に、急な失語や片麻痺が持続する場合は、発作後麻痺だけでなく脳梗塞再発を含む緊急疾患を除外する必要があります。
医療従事者が記録すべき項目は、発作前の状態、開始時刻、発作開始部位、視線・頭部偏倚、左右の運動差、意識と呼吸の状態、皮膚色、分泌物、外傷の有無、持続時間、発作後の回復過程です。スマートフォンなどによる発作時動画は、患者の尊厳とプライバシー、施設規定、同意に配慮したうえで、発作型評価の補助情報になることがあります。
発作を目撃した場合は、まず患者の安全確保を優先します。周囲の危険物を除き、転倒や打撲を防ぐために頭部を保護し、衣服の締め付けを緩めます。可能であれば側臥位または回復体位をとり、唾液や嘔吐物による気道閉塞・誤嚥のリスクを減らします。口の中へ指、スプーン、割り箸、タオルなどを入れることや、けいれんを力で止めようとすることは、患者・介助者の外傷につながるため避けます。
同時に、発作開始時刻を確認し、持続時間を計測します。酸素飽和度、呼吸状態、脈拍、血圧、意識レベルを評価し、必要に応じて酸素投与、吸引、静脈路確保、血糖測定などを実施します。施設内のてんかん発作対応プロトコルや、患者個別のレスキュー薬指示がある場合には、それに従います。救急対応では、てんかん既往があることだけを根拠に「いつもの発作」と判断せず、低血糖、電解質異常、感染、中毒、急性脳血管障害、頭部外傷、薬剤中断などの誘因・併存疾患も評価します。
一般に、けいれん性発作が5分以上持続する場合、発作が反復してその間に意識が十分回復しない場合、初回発作、妊娠中、糖尿病、外傷や呼吸障害を伴う場合、いつもと異なる発作様式の場合は、緊急の評価を要します。特に持続する意識障害では、外見上のけいれんがなくても非けいれん性てんかん重積状態の可能性があり、脳波検査を含む専門的な評価が必要です。
発作後には、患者が覚醒するまで見守り、急に立ち上がらせないことが重要です。見当識障害や興奮、恐怖を示すことがあるため、短く落ち着いた言葉で現在地や状況を伝え、不要な刺激を避けます。発作後の片麻痺、失語、視野障害などはTodd麻痺として一過性に現れることがありますが、急性脳卒中との鑑別が不可欠です。症状の持続、進行、非典型性があれば、画像検査を含む緊急評価を遅らせない姿勢が求められます。
症候性てんかんが疑われる場合、診断では詳細な病歴、目撃情報、神経学的診察、脳波検査、脳MRIやCT、血液検査などを組み合わせます。脳波で発作間欠期てんかん性放電が確認されれば有用な情報になりますが、単回の通常脳波で異常が捉えられないこともあります。臨床像が強く疑わしいにもかかわらず診断が明確でない場合には、睡眠賦活脳波、長時間脳波、ビデオ脳波モニタリングなどが検討されます。
画像評価では、陳旧性脳梗塞・脳出血後変化、皮質形成異常、海馬硬化、脳腫瘍、外傷性病変、感染後変化などを確認します。成人・高齢者に新規発症した焦点発作では、脳血管障害や腫瘍を含む構造的病変の検索が重要です。小児では先天性脳奇形、周産期低酸素性虚血性脳症、脳内出血、感染症後の障害なども背景として考慮されます。症候性てんかんは脳の異常を背景に生じ、年齢によって原因疾患の分布が異なることが示されています。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E7%97%87%E5%80%99%E6%80%A7%E3%81%A6%E3%82%93%E3%81%8B%E3%82%93
治療の中心は抗てんかん発作薬による発作抑制です。薬剤選択では、発作型、年齢、腎機能・肝機能、精神症状、認知機能、併用薬、妊娠可能性、服薬アドヒアランス、背景疾患を総合的に評価します。患者が自己判断で服薬を中止すると発作再発や重積のリスクが高まるため、服薬継続の意義、副作用が疑われる際の相談先、飲み忘れへの対応を具体的に説明する必要があります。
薬物治療で発作抑制が得られない薬剤抵抗性てんかんでは、てんかん外科、迷走神経刺激療法などのデバイス治療、食事療法を含め、てんかん専門施設で治療選択肢を評価します。ただし、症候性てんかんでは原疾患の治療と再発予防も並行して重要です。たとえば脳腫瘍であれば腫瘍治療、脳血管障害であれば血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動などの管理、感染性・免疫性疾患であれば病態に応じた治療を検討します。
看護、介護、リハビリテーション、薬剤師、救急、地域連携においては、「どのような発作が、どの程度の頻度で、どれほど持続し、発作後にどのように回復するか」を共有することが安全性を左右します。発作記録には日時、誘因の可能性、症状、持続時間、服薬状況、睡眠、飲酒、発熱、月経周期、外傷の有無、レスキュー薬の使用と反応を残します。こうした情報は、発作型の再評価、治療効果の判定、生活指導、救急受診の判断に役立ちます。
日本神経学会:てんかん診療ガイドライン2018