失語症は、脳卒中(脳梗塞・脳出血)や頭部外傷、脳腫瘍などにより左大脳半球の言語中枢が損傷されることで生じる、言語機能全般の障害です。 失語症では「聴く(理解)」「話す(表出)」「読む(読解)」「書く(書字)」の4つの言語モダリティのいずれか、または複数が障害され、患者によって症状の現れ方は多様です。
臨床現場で最も広く用いられている分類体系は「ボストン分類」であり、流暢性(言葉の滑らかさ)、言語理解力、復唱能力の3つの軸を基準に8つの主要タイプに分類されます。 この中で特に頻度の高い5つのタイプについて、その特徴を以下に詳述します。
参考)https://plusinnovation.jp/blogdetail?wgd=blog-107&wgdo=date-DESC,sort-ASCwgdo=date-DESC,sort-ASC" target="_blank" rel="noopener">失語症分類を理解する|各タイプの特徴とコミュニケーション支援…
ブローカ失語(運動性失語)は、左前頭葉のブローカ野(運動性言語中枢)が損傷されることで発症します。 最大の特徴は、相手の言葉の意味は比較的理解できるものの、自分の言いたいことを言葉として表出することが著しく困難になる点です。
参考)【最新版】高次脳機能障害による失語症とは?症状の種類や正しい…
具体的には、言葉がスムーズに出てこず、たどたどしい非流暢な発話となり、「あー」「うー」などの発声のみになったり、文法的に不自然な短文になったりします。 一方、ウェルニッケ失語(感覚性失語)は左側頭葉のウェルニッケ野(感覚性言語中枢)の損傷により生じます。
ウェルニッケ失語の特徴は、流暢に話すことはできるものの、言葉の意味を理解することが著しく困難になる点です。 話の内容が支離滅裂(ジャーゴン)になりやすく、自分が言い間違えていることに気付かないケースが多く見られます。
| 項目 | ブローカ失語 | ウェルニッケ失語 |
|---|---|---|
| 損傷部位 | 左前頭葉(ブローカ野) | 左側頭葉(ウェルニッケ野) |
| 発話の流暢性 | 非流暢(たどたどしい) | 流暢(滑らか) |
| 言語理解 | 比較的保たれる | 著しく障害される |
| 復唱能力 | 障害される | 障害される |
| 自覚 | 自分の障害に気付いている | 自分の誤りに気付かない |
| 看護ポイント | 短く区切って説明、焦らせない | 視覚情報(絵カード等)を活用 |
この2つの失語症は対照的な症状パターンを示すため、臨床現場での鑑別が比較的容易です。 急性期看護では、ブローカ失語の患者には短く区切って説明し焦らせない対応が、ウェルニッケ失語の患者には視覚情報を活用したコミュニケーションが有効です。
参考)【医師監修】ウェルニッケ失語症(感覚性失語)とは|症状・原因…
構音障害は、言語機能そのものは保たれているが、発音に必要な器官(唇・舌・喉頭など)の麻痺や運動協調障害により、話し言葉が不明瞭になる状態です。 失語症が「言語そのものの障害」であるのに対し、構音障害は「話す運動の障害」であり、患者は言いたいことは明確に理解しているが、うまく発音できないという状態を呈します。
構音障害は、原因と病態により以下の3種類に大別されます。
| タイプ | 病変部位 | 主な話声特徴 | 関連疾患 |
|---|---|---|---|
| 弛緩性 | 下部運動ニューロン | 息漏れ性音声、鼻音化、子音不明瞭 | 筋無力症、ギラン・バレー症候群 |
| 痙性 | 上部運動ニューロン(両側) | 絞扼性音声、遅い速率、鼻音化 | 両側脳卒中、脳性麻痺 |
| 失調性 | 小脳 | 断続的発話、不均等な強調、子音不明瞭 | 小脳変性症、多発性硬化症 |
| 低運動性 | 基底核(黒質) | 単調なピッチ・音量、短い発話の奔出 | パーキンソン病 |
| 高運動性 | 基底核(其他) | 不随意運動による音声の中断・震え | ハンチントン病、ジストニア |
| 片側上部運動ニューロン | 片側上部運動ニューロン | 子音不明瞭、粗い音声、軽度鼻音化 | 片側脳卒中、片側外傷 |
| 混合型 | 複数部位 | 上記の特徴の組み合わせ | 筋萎縮性側索硬化症(ALS) |
吃音(きつおん、stuttering)は、話そうとする時に言葉がスムーズに出てこず、音や音節の反復、伸長、ブロック(無声音の停滞)が生じる流暢性の障害です。 かつては「どもり」と呼ばれていましたが、現在は「吃音」という名称が一般的です。
吃音は、その発症時期と原因により以下の2種類に分類されます。
吃音の具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
吃音に対する支援は、主に以下の3つの柱で成り立っています。
言語発達障害は、知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)など、様々な神経発達の要因により、ことばの発達が標準的な速度やパターンから逸脱する状態を指します。 単に語彙や文法の獲得が遅れるだけでなく、「会話のキャッチボールが苦手」「場の空気が読めない」「非言語コミュニケーションの困難」といった社会的コミュニケーションの課題を含むことが多いです。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、自閉スペクトラム症(ASD)は「持続的な社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用の欠陥」と「制限された反復的な行動、興味、または活動のパターン」の2つのコアドメインにより定義されており、ASDは主たる言語障害ではなく、神経発達障害として分類されています。
参考)Is Autism a Language Disorder?…
しかし、ASDの多くの患者は、以下のような言語・コミュニケーションの特徴を有します。
参考)【言語聴覚士が徹底解説】発達障害の子どもにおける言語・コミュ…
医療現場では、これらの特徴を「わがまま」や「無礼」と誤解せず、神経発達の特性として理解することが重要です。 言語聴覚士(ST)は、これらの患者に対し、個々の発達特性を理解した上で、その子に合った方法で「伝えたい」を引き出す専門的介入を行います。
また、小児期の言語発達遅延は、将来的な学習障害や社会的適応の困難につながるリスクがあるため、早期発見・早期介入が極めて重要です。 医療従事者は、発達経過の定期的なモニタリングと、必要に応じた専門機関への早期紹介を行う役割を担います。
参考)コミュニケーション障害とは?症状・種類・原因と仕事での対策を…