
「心臓ペースメーカーを装着したら何級か」という質問に対応する際、最初に確認すべき点は、患者が求めている制度が身体障害者手帳なのか、障害年金なのかです。両制度では、対象となる障害、等級の構造、審査の観点、申請窓口、受けられる支援が異なります。いずれも心臓疾患や植込み型医療機器に関係しますが、「ペースメーカーを装着した」という事実だけを共通の結論として扱うことはできません。
身体障害者手帳では、身体障害者福祉法に基づく心臓機能障害として判定されます。心臓機能障害の等級は1級、3級、4級が中心であり、ペースメーカー等への依存度と身体活動能力が重要な評価軸です。手帳は福祉サービス、税の控除・減免、交通運賃の割引、自治体独自の支援などの利用に関わりますが、具体的な利用可否や内容は自治体、所得、障害の種類などによって異なります。
一方、障害年金は国民年金法・厚生年金保険法に基づく所得保障制度です。障害基礎年金は原則として1級・2級であり、厚生年金の被保険者期間に初診日がある場合に対象となり得る障害厚生年金には3級があります。したがって、障害年金の「3級」は、身体障害者手帳の「3級」と名称は同じでも、認定の根拠と給付内容が別です。患者に説明する際は、「手帳があるから年金が必ず受けられる」「年金3級だから手帳も3級になる」といった誤解を避ける必要があります。
身体障害者障害程度等級表(厚生労働省)
ペースメーカーまたは植込み型除細動器(ICD)を装着している人の身体障害者手帳に関する心臓機能障害では、機器への依存度と身体活動能力を組み合わせて判定する考え方が示されています。ここで重要なのは、単に機器が体内にあるかではなく、自己脈がどの程度保たれているか、機器が停止した場合にどの程度の影響が生じるか、日常生活でどの程度の身体活動が可能かを確認する点です。
依存度は、一般に絶対的な状態と相対的な状態に整理されます。絶対的な状態とは、ペースメーカー等が機能しなければ生命の維持が困難となる、または重大な循環動態の破綻が強く懸念される状態を指します。相対的な状態では、機器により不整脈や心不全症状の改善・予防が図られているものの、一定の自己心拍や代償機能が残っているケースが想定されます。実務上は、植込み前の病態、植込み適応、デバイスチェック、作動状況、自己脈、ペーシング率、症状、運動耐容能を総合的に記載・確認することが求められます。
| 等級 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 1級 | ペースメーカー等への依存が絶対的な状態、または相対的な依存で身体活動能力が2メッツ未満の状態が中心となる | 自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度として評価される |
| 3級 | ペースメーカー等への依存が相対的で、身体活動能力が2メッツ以上4メッツ未満の状態が中心となる | 家庭内での日常生活活動が著しく制限される程度として評価される |
| 4級 | ペースメーカー等への依存が相対的で、身体活動能力が4メッツ以上の状態が中心となる | 社会での日常生活活動が著しく制限される程度として評価される |
メッツは安静時を1メッツとして身体活動の強さを表す指標です。たとえば、ゆっくりした歩行、階段昇降、家事、仕事上の身体活動などで症状が現れるかを、患者の生活像に即して把握します。ただし、等級の最終的な決定は指定医師の診断書だけで自動的に行われるものではなく、認定権者による審査を経て決まります。診療録と診断書の間で、病状、機器依存度、生活制限の説明に矛盾がないよう留意することが重要です。厚生労働省の資料では、ペースメーカー等への依存度とメッツを勘案して1級、3級、4級に認定し、植込みから3年以内の再認定を行う取扱いが示されています。
参考)https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/228612/01shinzou1.pdf
心臓機能障害の認定におけるペースメーカ等植込み者の留意事項(厚生労働省)
障害年金におけるペースメーカーの扱いでは、初診日、保険料納付要件、障害認定日、障害状態の四点を切り分けて確認します。心疾患の診療を担う医療従事者にとっては、患者が「手術を受けたので年金を申請できるか」と質問した場合、医療上の経過だけで判断せず、初診日と加入制度の確認が必要であることを説明する姿勢が重要です。
日本年金機構の障害認定基準では、心臓ペースメーカー、ICD、人工弁を装着した場合、原則として装着日を障害の程度を認定すべき日とします。ただし、初診日から起算して1年6か月を超える場合はこの限りではありません。一般的な障害認定日は初診日から1年6か月を経過した日ですが、ペースメーカー等の装着には例外的な取扱いがあるため、植込みが初診日から1年6か月以内に行われた患者では、装着日を基準に請求を検討できる可能性があります。
参考)さ行 障害認定日|日本年金機構
ただし、「ペースメーカーを入れたので必ず障害年金が支給される」とは説明できません。障害年金の受給には、初診日における公的年金の被保険者要件、保険料納付要件、請求手続、認定される障害の程度など、複数の要件があります。また、障害基礎年金には3級がないため、初診日に国民年金のみの被保険者であった人と、厚生年金保険の被保険者であった人では、制度上の扱いに差が生じ得ます。
障害等級に関する診断書では、患者の訴えを「ペースメーカー装着後である」という一文に集約せず、植込みの医学的必要性と、現在の機能障害・生活障害を連続した経過として示すことが大切です。植込みの適応となった完全房室ブロック、洞不全症候群、徐脈性心房細動、心不全、心室性不整脈などの原疾患は、病状の理解と初診日の確認にも関わります。
身体障害者手帳用の診断書・意見書では、ペースメーカー等への依存度、自己脈の状況、心電図・ホルター心電図・心エコー等の所見、日常生活活動の制限、身体活動能力を一貫して記載します。特に「相対的依存」と評価する場合でも、患者が無症状で高い活動性を維持しているのか、デバイスにより症状が抑制されているが一定の運動制限が残るのかによって、評価に必要な情報が変わります。
障害年金の診断書では、現症日現在の症状と検査所見に加え、一般状態区分、労働能力への影響、治療内容、今後の見通しなどが評価に関係します。日常生活上の制限を記載する際は、「軽労作で息切れ」「階段昇降で休息が必要」「立ち仕事の継続が困難」「夜勤・重量物取扱いが制限される」といった、患者の生活・職務に即した具体性を持たせると、抽象的な表現よりも医学的な説明力が高まります。
また、デバイス外来の記録には、機器の設定や作動状況だけでなく、ペーシング率、不整脈イベント、電池寿命、リードの状態、自己脈、失神・めまい・動悸・息切れの有無、心不全増悪歴を記載しておくことが望まれます。後に手帳申請や年金請求の相談が生じた場合、経時的な診療情報は診断書作成の重要な基礎資料になります。
患者説明では、障害認定を「病気の重さの順位」や「治療の成否」と受け止めないよう配慮が必要です。ペースメーカー装着は、失神、徐脈、心不全悪化、致死的不整脈に関連するリスクを軽減し、生活の質や予後の改善を目指す治療です。植込み後に症状が改善して就労や家事が可能になっている場合でも、制度ごとに定められた障害認定の観点から評価されることがあります。反対に、植込みを受けていても、すべての制度上の給付・サービスが当然に認められるわけではありません。
身体障害者手帳に関しては、自治体の障害福祉担当窓口へ申請し、指定医師による診断書・意見書を提出する流れが基本です。ペースメーカーおよびICDの植込みを受けた人については、先天性疾患による植込みを除き、原則として植込みから3年以内に再認定を実施する取扱いが示されています。患者には、取得時の等級が永久に固定されるとは限らず、再認定や更新に関する案内を確認する必要があることを説明します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9990&dataType=1&pageNo=1dataType=1href="https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9990&dataType=1&pageNo=1">https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9990&dataType=1&pageNo=1pageNo=1" target="_blank" rel="noopener">・心臓機能障害の認定(ペースメーカ等植え込み者)に当たっての…
障害年金については、年金事務所、街角の年金相談センター、または社会保険労務士等への相談につながる場合がありますが、医療機関としては制度の受給可否を断定せず、初診日証明、診療録、検査記録、紹介状、手術記録、デバイス手帳などを保管する意義を伝えることが実践的です。患者が制度の違いを理解し、自身の病状と生活上の困難を過不足なく申告できるよう支援することは、循環器診療における継続ケアの一部といえるでしょう。