精神保健福祉法23条と措置入院の実務整理

精神保健福祉法第23条に基づく警察官通報は、措置入院を自動的に決める制度ではありません。通報後の調査、指定医診察、都道府県知事等の入院措置、退院までの流れを医療従事者向けに整理し、適切な連携に生かせるでしょうか?

精神保健福祉法23条と措置入院の基礎知識と核心ガイド

23条通報から措置入院までの実務
23条は警察官の通報規定

職務中に自傷他害のおそれがある者を発見した警察官は、保健所長を経て都道府県知事等へ通報します。

通報だけで入院は決まらない

行政による調査と措置診察の要否判断を経て、原則として複数の精神保健指定医による診察が必要です。

自傷他害のおそれを具体的に評価

診断名のみで判断せず、精神障害との関連、切迫性、具体的行為、保護的介入の必要性を総合評価します。


第23条は警察官通報を定めた規定



精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精神保健福祉法)第23条は、警察官が職務を執行する過程で、異常な挙動その他の周囲の事情から判断し、精神障害のために自身を傷つけ、または他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見した場合の通報義務を定めた規定です。警察官は、直ちに最寄りの保健所長を経て、都道府県知事に通報しなければなりません。
重要なのは、第23条自体が「措置入院を命じる条文」ではない点です。第23条は、あくまで警察官による行政への通報の入口を規定しています。措置入院は第29条に基づく都道府県知事等の入院措置であり、23条通報を受けたからといって、本人が直ちに措置入院となるわけではありません。通報後には行政調査、措置診察の必要性の判断、精神保健指定医による診察、診察結果の一致、都道府県知事等による判断という段階があります。
医療機関の職員が実務上押さえるべきなのは、警察からの搬送、保健所からの照会、救急外来における診療依頼があった場面で、「警察が関与した」という事情のみをもって措置入院の要件が満たされると考えないことです。警察官通報は、本人の状態を行政が把握し、措置診察の必要性を検討する契機です。精神医学的評価と法的要件の判断は、その後の適正な手続の中で行われます。
厚生労働省「措置入院の運用に関するガイドライン」


措置入院の要件と第29条との関係

措置入院の根拠となる精神保健福祉法第29条では、都道府県知事等が、精神障害者を医療および保護のために入院させなければ、その精神障害のために自身を傷つけ、または他人に害を及ぼすおそれがあると認めたとき、精神科病院に入院させることができると定めています。したがって、措置入院では「精神障害者であること」と「精神障害に起因する自傷他害のおそれ」の双方が必要です。
ここでいう自傷他害のおそれは、単なる精神症状の存在、治療中断、家族との不和、社会的に迷惑な行動、住居の不衛生、服薬拒否などだけから直ちに導けるものではありません。精神障害との因果関係を踏まえたうえで、本人が自らを傷つける具体的危険、または他者の生命・身体・財産等に害を加える具体的危険を、診察時点の状態、直近の行動、症状の経過、環境、保護者等の支援状況などから総合的に判断します。

項目 基準・内容 備考
第23条の位置付け 警察官が自傷他害のおそれのある者を発見した際の通報義務 通報は措置診察の検討開始の契機
措置入院の根拠 精神保健福祉法第29条に基づく都道府県知事等の入院措置 第23条とは役割が異なる
対象者 精神障害者であり、精神障害のため自傷他害のおそれがある者 診断名のみでは足りない
診察要件 原則として指定された2人以上の精神保健指定医の診察結果が一致すること 緊急措置入院には別の特例がある
最終判断 都道府県知事または政令指定都市の長が入院措置を行う 医師の診断と行政処分は区別して理解する

第29条による措置入院では、原則として都道府県知事等が指定する2人以上の精神保健指定医が診察し、精神障害者であること、および入院させなければ精神障害のために自傷他害のおそれがあると認めることについて、各指定医の診察結果が一致する必要があります。措置入院は自由を大きく制約する行政処分であるため、診察・判断・記録・通知の各段階において慎重な運用が求められます。


23条通報後の流れと医療機関の連携

第23条通報が行われると、都道府県知事等は通報内容を受けて、対象者の所在、精神状態、直近の危険行為、医療的緊急性、保護の必要性などを調査し、措置診察を実施するかどうかを判断します。実務では保健所、精神保健福祉センター、警察、消防、救急医療機関、精神科救急医療機関、指定病院などが関与し、地域の精神科救急体制に沿って調整されます。
警察官通報は、文書に限られるものではなく、状況によって口頭や電話などの手段も用いられます。もっとも、通報時に情報が不十分な場合、後続する行政判断や指定医診察に影響し得ます。医療従事者は、診療記録や引継ぎにおいて、「自傷他害のおそれがある」といった抽象的表現だけで済ませず、観察された事実を時間軸に沿って具体的に記載することが重要です。

  • いつ、どこで、誰に対し、どのような発言・行為・未遂行為があったかを記録する
  • 妄想、幻覚、躁状態、せん妄、認知機能低下、物質使用など、危険行動と精神状態の関連を評価する
  • 自傷手段へのアクセス、暴力の対象、保護的環境の有無、同居者の安全などを確認する
  • 身体疾患、低血糖、頭部外傷、薬物中毒、アルコール離脱などの鑑別と救命対応を優先する
  • 本人の意思決定能力、任意受診・任意入院の可能性、家族等や支援者との連携可能性を検討する

救急外来や一般病棟では、精神症状が強く見える患者であっても、まず身体的緊急性を見落とさない姿勢が不可欠です。急性の意識変容、興奮、易刺激性、幻視、見当識障害などは、せん妄や中毒、感染症、代謝異常によって生じることがあります。第23条通報や措置診察の文脈に入った場合でも、身体医学的評価、必要な治療、患者・職員双方の安全確保は並行して行います。


自傷他害のおそれを評価する際の注意点

措置入院の判断において、自傷他害のおそれは最も重要な要件の一つですが、予測には不確実性が伴います。だからこそ、危険性評価を特定のチェック項目や単一の発言だけに依存させず、精神症状、病歴、既往の危険行為、治療継続性、社会的孤立、現在の環境、介入可能性を統合して判断する必要があります。特に、危険行為と精神障害の間にどのような関連があるのかを、医学的に説明可能な形で整理することが求められます。
例えば、「近隣住民が監視している」という被害妄想を背景に、特定の近隣住民宅へ刃物を持って向かおうとした、家族に対して具体的な殺害予告を繰り返している、自ら死ぬために高所へ向かい制止に強く抵抗している、といった事情は、精神症状と行動・危険性の関連を検討する重要な情報です。一方、「大声を出している」「受診を拒否している」「家族が困っている」といった事実のみでは、措置入院の要件充足を直ちに判断できません。
また、本人の発言をそのまま危険性の有無に結び付けることも避けるべきです。「死にたい」という訴えでは、希死念慮の頻度・持続・切迫性、具体的な計画や手段、過去の自殺企図、保護要因、支援へのアクセスを確認します。他害のおそれについても、怒りや攻撃的言動だけではなく、対象の特定、手段の保有、実行準備、直近の暴力、制止への反応、症状の影響を評価します。評価結果を多職種間で共有する際には、推測と確認済み事実を分けて記録することが有用です。
措置入院は、本人の人権を制約する一方、切迫した危険から本人および周囲を守るための制度です。したがって、過大な介入を避ける視点と、危険を過小評価しない視点の両方が必要です。任意受診、任意入院、医療保護入院、短期入院を含む救急対応、地域支援の調整など、本人の状態に応じて選択可能な介入を検討し、措置入院を安易な解決策として扱わないことが実務上の基本となります。


入院後の権利擁護と退院支援の重要性

措置入院が開始された後も、入院が無期限に継続するわけではありません。精神保健福祉法第29条の4では、措置入院者について、入院を継続しなくても精神障害のために自傷他害のおそれがないと認められるに至った場合、都道府県知事等は直ちに退院させなければならないとされています。措置入院の継続は、現在の危険性に基づいて正当化されるものであり、過去に通報や危険行為があったことのみを理由に継続することはできません。
医療機関は、入院中の症状変化、治療反応、危険性の変化、住居、家族関係、経済面、通院先、服薬支援、訪問看護、相談支援などを評価し、退院可能性を継続的に検討します。退院後の再発・再燃や孤立を防ぐためには、入院中から地域の関係機関と連携し、本人が利用できる支援を具体化しておくことが重要です。措置入院の目的は隔離や懲罰ではなく、必要な医療と保護を提供し、危険性が低下した段階で地域生活への移行を支えることにあります。
本人には、入院時の告知、退院等の請求、処遇改善請求など、権利擁護に関する制度があります。医療従事者は、本人が混乱や不安を抱えている状況でも、入院形態、治療方針、面会・通信、退院に向けた条件や支援について、理解可能な言葉で説明する必要があります。家族からの情報は重要ですが、家族の希望だけで措置入院の可否や継続を決めるのではなく、本人の症状と法的要件に基づく判断を徹底します。
第23条通報、措置診察、措置入院、退院支援は、それぞれ異なる主体と法的役割を持つ連続したプロセスです。医療従事者には、通報があったという事実だけに引きずられず、具体的な危険性と精神障害との関連を評価し、身体疾患の鑑別、正確な記録、多機関連携、本人の権利尊重を一体的に行う姿勢が求められます。適正な運用は、安全確保と人権保障を両立させるための基盤となります。


参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001172530.pdf

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