令和6年国民健康・栄養調査の最新要点

令和6年国民健康・栄養調査では、食塩摂取量は過去12年間で最少となった一方、目標値との隔たりや糖尿病が強く疑われる者の増加が示されました。医療従事者は結果をどう保健指導と薬物療法支援に生かすべきでしょうか?

国民健康・栄養調査 最新の基礎知識と核心ガイド

令和6年調査が示す臨床課題
食塩は減少も目標未達

平均食塩摂取量は9.6gまで低下したが、健康日本21(第三次)の目標値7gをなお上回る状況です。

糖尿病高リスク者は増加

糖尿病が強く疑われる者は約1,100万人と推計され、早期発見、継続受診、生活支援の重要性が増しています。

禁煙支援の成果と課題

習慣的喫煙者の割合は14.8%で低水準となったが、禁煙継続支援と健康格差への配慮が引き続き必要です。


令和6年調査の位置付けと最新性を確認する


「国民健康・栄養調査 最新」で確認すべき公的資料は、厚生労働省が公表した令和6年(2024年)調査の結果である。調査は2024年10月から11月に実施され、結果は2025年12月2日に公表された。国民健康・栄養調査は健康増進法第10条に基づく毎年の調査であり、国民の身体状況、栄養摂取状況、生活習慣を把握し、健康増進施策の基礎資料とすることを目的としている。
令和6年は、通常の基本項目に加え、4年に1度の「拡大調査」として実施された点が重要である。全国代表値の把握にとどまらず、健康日本21(第三次)のベースライン値を取得し、一部の生活習慣について都道府県の状況も把握した。日常診療に直結する個別患者の評価に用いる検査値や診断基準ではないが、地域や集団における健康課題を把握し、保健指導、薬局での健康相談、退院後支援、医療機関の地域連携施策を設計する上での重要な根拠となる。
ただし、国民健康・栄養調査の数値は集団レベルの平均や割合である。例えば、食塩摂取量の平均値を個々の患者の実測値とみなすこと、糖尿病が強く疑われる者の推計人数を診断済み患者数と解釈することは適切ではない。医療従事者は、調査結果を「国民全体の課題の方向性」として捉え、個人には血圧、推定食塩摂取量、HbA1c、腎機能、服薬状況、食行動、社会的背景などを統合して介入を個別化する必要がある。
厚生労働省:令和6年「国民健康・栄養調査」の結果


最新結果から読む主要指標と臨床的な意味

令和6年調査で特に注目したいのは、糖尿病、食塩摂取、喫煙に関する指標である。糖尿病が強く疑われる者は約1,100万人と推計され、継続して増加している。一方で、糖尿病の可能性を否定できない者は約700万人と推計され、継続して減少している。この二つは同じ概念ではなく、前者の増加をもって単純に糖尿病有病率の変化だけを断定することは避けなければならない。しかし、治療を要する、またはより精密な評価につなげるべき対象が大きな規模で存在することは明確である。
平均食塩摂取量は9.6gで、過去12年間では最も低い値となった。男性は10.5g、女性は8.9gであり、男女とも減塩の余地がある。健康日本21(第三次)における食塩摂取量の目標値は7gであるため、全体平均ではなお2.6gの開きがある。高血圧、慢性腎臓病、心不全、脳血管疾患リスクを抱える患者では、一般集団の平均値よりも厳格な食事療法が必要となる場合があり、一般集団の目標と疾患別の栄養管理目標を混同しないことも大切である。

項目 令和6年の主な結果 医療従事者が確認したい視点
糖尿病が強く疑われる者 約1,100万人。継続して増加 健診未受診、治療中断、HbA1c高値、合併症リスクを早期に拾い上げる
糖尿病の可能性を否定できない者 約700万人。継続して減少 境界域の段階から体重、食事、活動、睡眠、受診行動を支援する
食塩摂取量 平均9.6g、男性10.5g、女性8.9g 加工食品、外食、汁物、調味料、家族の食環境を具体的に確認する
習慣的喫煙者 14.8%。令和4年と並び過去12年間で最も低い水準 禁煙意向、ニコチン依存、併存精神疾患、再喫煙リスクに応じて継続支援する

喫煙については、現在習慣的に喫煙している者の割合が14.8%となり、令和4年調査と並び過去12年間で最も低い水準であった。集団全体では望ましい変化と評価できるが、喫煙率低下は禁煙支援の必要性が低下したことを意味しない。喫煙を継続する患者には、循環器疾患、呼吸器疾患、悪性腫瘍、糖尿病、歯周病、周術期リスクなどとの関連を、本人の疾患・治療目標に即して具体的に伝えることが重要である。
厚生労働省:国民健康・栄養調査の結果・報告書・統計表


減塩を行動変容につなげる実践ポイント

平均食塩摂取量が減少したことは前向きな変化である一方、平均9.6gという数値は「多くの人が目標を達成した」ことを意味しない。平均値には個人差があり、高摂取群が残存している可能性もある。外来や薬局で「塩分を控えましょう」と抽象的に伝えるだけでは、食塩摂取の主要因が見えず、患者は何を変えるべきか判断しにくい。食事内容、購入食品、調理習慣、家庭内の食嗜好、就労形態を確認し、負担が小さい変更から提案することが実行性を高める。
例えば、昼食をコンビニエンスストアで済ませる高血圧患者では、「全品を自炊に変更する」よりも、麺類の汁を残す、汁物と漬物を同時に選ばない、栄養成分表示の食塩相当量を比較する、たれやドレッシングを全量使わない、といった具体的な選択のほうが継続しやすい。降圧薬を服用していて血圧コントロールが不十分な場合には、アドヒアランス、白衣高血圧・仮面高血圧、腎機能、併用薬、飲酒、睡眠時無呼吸の可能性と併せ、食塩摂取を評価する。

  • 加工肉、即席麺、惣菜、弁当、外食、汁物、漬物、練り製品など、患者ごとの高食塩食品を一緒に特定する
  • 栄養成分表示では「ナトリウム」ではなく「食塩相当量」を優先して確認する習慣を支援する
  • 家庭血圧を記録し、食事変更前後の血圧変化を患者自身が把握できるようにする
  • 心不全や慢性腎臓病では、病態、利尿薬、電解質、脱水リスク、食事制限の負担を踏まえて個別に調整する
  • 高齢者では過度な制限による食欲低下、低栄養、フレイル悪化を避け、エネルギーとたんぱく質の確保も同時に評価する

また、減塩は調味料だけの問題ではない。食塩摂取量は外食頻度、経済状況、調理環境、家族構成、味覚、口腔機能、認知機能、介護負担にも影響される。支援の際には、患者が「できない理由」を意欲不足と決めつけず、食品アクセスや生活背景を把握したうえで、実現可能な代替案を共に選択する姿勢が求められる。


糖尿病対策では受診継続と薬物療法を支える

糖尿病が強く疑われる者が約1,100万人と推計されたことは、早期発見だけでなく、診断後の継続受診と治療継続の支援が重要であることを示唆する。糖尿病は自覚症状に乏しい時期が長く、「症状がないから受診しない」「検査値が少し改善したから通院を止めた」「薬剤への不安から自己判断で休薬した」といった中断が起こりやすい。医療従事者は、HbA1cや空腹時血糖だけではなく、受診間隔、処方日数、残薬、自己測定の実施状況、低血糖への恐怖、食事の欠食、経済的負担を確認する必要がある。
薬局・外来での支援では、薬剤の説明を単なる用法・用量の伝達で終わらせないことが重要である。例えば、インスリン分泌促進作用をもつ薬剤やインスリン使用中の患者では、食事摂取量低下、飲酒、運動量増加、腎機能低下、併用薬の変更などが低血糖リスクに影響する。SGLT2阻害薬では、脱水、体調不良時の対応、尿路・性器感染症の症状、ケトアシドーシスを疑う症状への注意を、患者の理解度に応じて反復する必要がある。GLP-1受容体作動薬等を含む体重に影響し得る治療を行う際にも、消化器症状、摂食量、サルコペニアや低栄養のリスクを個別に観察する。
一方、調査で示された「糖尿病の可能性を否定できない者」の減少は、健診・保健指導・治療介入などの効果を考える上で重要なシグナルになり得る。ただし、単年度の結果だけで原因や施策効果を断定することはできない。現場では、健診異常を受診につなげる導線、糖尿病連携手帳等を活用した情報共有、歯科・眼科・腎臓内科との連携、療養生活に応じた服薬支援を整え、合併症予防に結び付ける視点が必要である。


調査データを地域・職域の健康支援に生かす

国民健康・栄養調査の価値は、全国の平均値を知ることだけではない。令和6年は拡大調査として、健康日本21(第三次)のベースライン値の取得と、一部の生活習慣等に関する都道府県状況の把握が行われた。地域包括ケア、保険者保健事業、特定健診・特定保健指導、薬局の健康サポート機能、職域の健康経営を検討する際には、全国値と地域の課題を重ねて読み解くことが重要である。
実務では、国の調査結果をそのまま患者説明資料に転記するだけでは不十分である。自施設や薬局では、血圧未達成者の割合、糖尿病治療中断が疑われる患者数、重複・多剤併用、腎機能に応じた用量確認、禁煙支援の実施数、健康相談で多い食習慣上の困りごとなど、現場で把握できる指標と組み合わせるとよい。全国的な食塩摂取の課題を、自地域の高血圧対策や心不全再入院予防という具体的な活動へ変換できる。
患者教育では、数値を恐怖訴求に用いるのではなく、「国全体として改善がみられる項目もあるが、予防・治療を続ける価値は大きい」という前向きな文脈で提示することが望ましい。食塩摂取量の低下や喫煙率の低下は、個人の小さな選択、医療従事者の継続支援、社会環境の変化が集団指標にも反映され得ることを示している。最新の国民健康・栄養調査を、患者の自己効力感を高め、無理なく継続できる行動目標を共有するための根拠として活用したい。




保険者、公費負担者 番号・記号表 令和6年4月版