パーキンソン病の進行度を把握する上で最も広く用いられているのが「ホーエン・ヤール分類(Hoehn and Yahr staging)」です。この分類は1967年に発表されて以来、臨床現場で標準的に使用され、病気の重症度を5段階(実際には1.5、2.5を含めると7段階)で評価します。
ステージ1では症状が身体の片側だけに現れ、日常生活は自立しています。手が震える「安静時振戦」や筋肉がこわばる「筋強剛」が片側にのみ認められる状態です。 ステージ1.5では片側の症状に加えて体幹(胴体部分)の障害が加わります。
参考)福岡みらい病院
ステージ2になると症状が両側性に拡大し、姿勢の変化が明確になります。両手足に症状が及ぶため、日常動作にやや不便を感じるようになりますが、バランスを保つ能力は維持されています。 ステージ2.5では軽度のバランス障害が出現しますが、後方に押されても自力で立て直せる状態です。
中期のステージ3では、パーキンソン病の特徴的な「姿勢反射障害」が顕著になります。バランスを崩しやすくなり、転倒リスクが高まります。日常生活動作にかなり障害がみられ、一部介助が必要となる重要な転換点です。 この段階から特定疾患の医療費助成対象となるケースが多くなります。
パーキンソン病の症状進行には明確なパターンがあります。多くの場合、症状は一側の手または足から始まり、同側の足または手、そして反対側の手・足へとN字型に進行することが特徴です。
初期段階では、ドーパミン神経の変性が中脳黒質の限られた領域にとどまっているため、症状も片側に局限されます。この時期の運動症状は、レボドパ製剤などの薬物療法で十分にコントロール可能です。 患者さんは「なんとなく手が震える」「歩きにくさを感じる」程度の自覚で、日常生活に大きな支障はありません。
症状が両側に広がると、動作緩慢(無動)が顕著になり、歩行速度の低下や歩幅の減少が認められます。特徴的なのは「小刻み歩行」と呼ばれる、歩幅が小さく速い歩行パターンです。 また、姿勢が前かがみになり、腕を振らずに歩くようになります。
さらに進行すると、姿勢反射障害が出現します。これは、バランスを崩した際に体を立て直す反射機能が低下する状態です。臨床現場では「プルテスト」と呼ばれる検査で評価され、後方から軽く押された際に数歩下がったり転倒したりすると陽性と判断されます。 この障害が出現すると、転倒による骨折や外傷のリスクが急激に高まります。
意外な事実として、初発側の症状は常に反対側に比べて重く、この左右差は病期がかなり進行しても残ることが知られています。 これは、ドーパミン神経の変性が左右非対称に進行することを反映しています。
パーキンソン病の症状は、手足の震えやこわばりなどの「運動症状」だけではありません。実は、運動症状が現れる数年前から「非運動症状」が出現していることが、近年の研究で明らかになっています。
参考)症状の経過
非運動症状には以下のようなものがあります。
参考)パーキンソン病の進行度と症状の進行が早いときに考えられること…
これらの症状は、パーキンソン病に特有な運動症状が起こる以前に現れることが多く、早期診断の手がかりになります。 特に「レム睡眠行動障害」は、夢の中で行動してしまう状態で、パーキンソン病発症の10〜20年前から認められることがあり、非常に重要な前駆症状です。
参考)パーキンソン病の進行によって症状がどのように変化するかについ…
便秘についても注目すべき点があります。腸管神経系にもドーパミン神経が存在し、パーキンソン病の病理変化である「レビー小体」が実は腸から始まっているという仮説(ブレーン・ゲート仮説)も提唱されています。 つまり、腸の神経の変性が迷走神経を介して脳に広がる可能性が示唆されています。
うつ状態もパーキンソン病患者の約40%に認められ、QOL(生活の質)を大きく低下させる要因です。 ドーパミンだけでなく、セロトニンやノルアドレナリン系の神経変性も関与していると考えられています。
パーキンソン病の進行が最も重篤なステージ4〜5では、命に関わる合併症のリスクが高まります。パーキンソン病そのものが直接の死因になることは稀ですが、進行期の合併症が生命予後に影響を与えます。
最も注意すべき合併症が「誤嚥性肺炎」です。喉の筋肉の衰え(球麻痺)により、食べ物や唾液が誤って気管や肺に入り込み、細菌感染を引き起こします。 パーキンソン病患者さんの死因のなかで、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症が最も大きな割合を占めています。
嚥下障害は、食べる速度が遅くなる、むせやすくなる、食べ物が咽に残るなどの症状から始まります。進行すると、食事形態の調整(とろみ食への移行)や、嚥下訓練が不可欠になります。
もう一つの重大な合併症が「廃用症候群」です。 stage 5では自力での起立・歩行が不可能となり、寝たきり状態になることで、身体を動かさない状態が継続します。 これにより以下のような二次的障害が発生します:
これらの合併症を防ぐためには、ベッド上でのこまめな姿勢調整(ポジショニング)、介助者による他動的可動域訓練(ROM訓練)、持続的な除圧が極めて重要です。
パーキンソン病の治療は、病気の進行ステージに応じて最適なアプローチが異なります。現在のところ、パーキンソン病を完全に治す根治治療は確立されていませんが、対症療法により症状を管理し、QOLを維持することが可能です。
参考)パーキンソン病の治療 - 独立行政法人国立病院機構 宇多野病…
薬物療法の中心となるのが「レボドパ製剤」です。レボドパは脳内でドーパミンに変換され、減少したドーパミンを補います。 代表的な薬剤にはマドパ、ネオドパストンなどがあります。
その他、以下の薬剤が使用されます。
しかし、長期間レボドパを使用していると、薬の効果が切れる「ウェアリング・オフ」や、薬の効果が強すぎる「ジスキネジア」などの運動合併症が出現することがあります。
このような場合、以下の治療法が検討されます。
参考)パーキンソン病の新しい治療法と教育入院について &#8211…
重要なのは、患者さん一人ひとりにとって最適な内容、投与量を決めていく「オーダーメイド」の治療です。 薬物治療と併せて、運動機能を維持するためのリハビリテーションも効果的です。
PDネット - 症状の経過:発病後20年間のモデル例とホーエン・ヤール分類の詳細
パーキンソン病の進行ステージ:5段階の症状と余命、各ステージの対策
近畿大学病院 - パーキンソン病の治療:薬物療法と脳深部刺激療法
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