
「日本感染症学会 2026 抄録」でまず確認したいのは、第100回日本感染症学会総会・学術講演会と第74回日本化学療法学会総会の合同学会です。会期は2026年5月22日から24日、会場は東京国際フォーラムでした。日本感染症学会の公式「プログラム・抄録集」ページには当該学会の抄録集が掲載されていますが、閲覧にはパスワードが必要と明記されています。つまり、検索結果や二次情報だけで抄録本文を断定せず、会員・参加者として正規の閲覧経路を確保することが重要です。
抄録集のアクセス制限は単なる事務手続きではありません。演題には未公表データ、探索的な解析、企業との関係を含む臨床研究情報が混在し得るためです。医療者が院内共有用のメモやスライドを作成する際には、抄録の転載範囲、図表の利用条件、共同演者情報、利益相反開示を確認してください。抄録は査読論文ではなく、限られた文字数で研究途中の情報を提示する媒体でもあります。したがって、「学会発表で示された」ことと「診療標準として確立した」ことは分けて扱う必要があります。
また、会議録は後日、学会誌やJ-STAGEに掲載される場合があります。実例として、第95回日本感染症学会西日本地方会学術集会後抄録は、2026年の感染症学雑誌100巻2号、160~342ページに会議録として収載されています。ただし、PDF閲覧には日本感染症学会会員番号とパスワードによる認証が必要な場合があります。総会のWeb抄録、地方会の会議録、後年の論文化データは、同じ研究テーマであっても更新時点と記載内容が異なるため、引用時には資料種別と閲覧日を残すのが安全です。
公式の抄録集の掲載状況、閲覧条件、過去の学術集会への導線を確認するための参考リンクです。
第100回合同学会のプログラムからは、抗菌薬適正使用と薬剤耐性菌対策が、単発の講演ではなく複数の企画を横断する主要テーマであったことが分かります。具体的には、「薬剤耐性菌に対する次世代の感染症治療のモダリティー」、「日本版ASP実施状況の可視化と評価体系の構築」、「抗菌薬適正使用およびAST活動を的確に評価するために」、「AMR対策に必要な微生物学的検査および疫学解析」などが配置されていました。
この構成から読み取れる重要点は、AMR対策が「抗菌薬を減らす活動」だけでは測れないことです。処方量を指標にする場合も、患者背景、感染巣、培養採取率、血液培養の適正性、de-escalationの可否、治療失敗、再受診、死亡、Clostridioides difficile感染症などを併せて評価しなければなりません。特にAST活動では、感染症診療支援と薬剤部・検査部・ICTの連携がどのような臨床アウトカムにつながったのかを、抄録の方法と結果から確認します。
抄録を読む際の実務上の順序は、次のように整理できます。
意外に見落とされやすいのは、抗菌薬適正使用の成否が「処方医への助言回数」ではなく、微生物検査の質に強く依存する点です。汚染血液培養の増加や不適切検体の混入があれば、広域抗菌薬の開始・継続判断を歪めます。プログラムに「感染症診療を支える微生物検査『過去』『いま』『未来』を考える」という企画が置かれたことは、ASTを処方監査だけで完結させない必要性を示す材料になります。
2026年のプログラムでは、ワクチンと急性呼吸器感染症が複数の視点から扱われました。教育講演には小児予防接種、百日咳、ウイルス性肺炎、予防接種法制度が含まれ、シンポジウムには「ワクチン新時代~さらに進化する呼吸器感染症ワクチン~」「予防接種のこれからの100年—未来のワクチン開発に向けて—」「急性呼吸器感染症のuptodate」が組まれています。
ここで注目したいのは、ワクチンを製品比較だけで終わらせず、ライフコース、制度、実装、疾患負荷、接種アクセスまで含めて議論している点です。例えば成人の呼吸器感染症ワクチンを読む場合、「免疫原性が高い」という記述だけでは院内方針は決められません。対象年齢、基礎疾患、接種歴、流行期、同時接種、供給、患者負担、地域の接種導線を確認し、現場で接種機会を失わない設計につなげる必要があります。
百日咳のように年齢別の罹患状況、検査性能、ワクチン歴、家族内伝播の評価が絡むテーマでは、症例数だけに注目しないことが大切です。どの診断法を使ったか、検査対象をどう選んだか、医療機関受診例のみか、ワクチン歴が追跡できたかで解釈は変わります。抄録の結論が「増加」とされていても、それが真の発生増加なのか、検査件数や検査法の変化による検出増加なのかを区別します。
呼吸器感染症の抄録では、病原体別の陽性率よりも、重症化リスク層への診療インパクトを読むと実務に役立ちます。高齢者、妊婦、乳幼児、免疫不全者、慢性呼吸器疾患患者では、同じ検査結果でも隔離、抗ウイルス薬、抗菌薬、入院判断、退院支援の意味が異なります。学会情報は、院内マニュアルを更新する前の論点抽出に使い、最終的な変更はガイドライン、添付文書、行政通知、一次論文と照合して決定する姿勢が必要です。
侵襲性真菌症と免疫不全患者の感染症は、一般病棟でも見逃しが診療遅延につながりやすい領域です。第100回合同学会では、「変貌する侵襲性真菌症」「世界の中の日本の真菌症」「免疫不全患者の感染症診療」がシンポジウムとして組まれ、結核に対する宿主指向性治療、非結核性抗酸菌症、カルバペネム耐性菌感染症などもプログラムに含まれました。
真菌症関連の抄録を読む際は、菌種や治療薬の名称に先行して、宿主因子と診断時点を確認してください。造血幹細胞移植後、血液悪性腫瘍治療中、固形臓器移植後、長期ステロイド投与中、分子標的薬・生物学的製剤使用中では、想定すべき病原体、画像所見の解釈、血清学的検査の性能、薬物相互作用、予防投与の位置付けが異なります。後ろ向き単施設研究の結果を読む場合は、診療科の専門性や検査可用性がそのまま結果に影響していないかを点検します。
特に重要なのは、抗真菌薬の「開始の早さ」と「適正な中止」の両方です。侵襲性真菌症を恐れるあまり広域治療が長期化すると、肝障害、腎機能への影響、薬物相互作用、医療費、耐性化の問題が生じます。一方で、リスク層別化と適切な検査を組み合わせれば、不要な曝露を抑えつつ治療遅延を避けられる可能性があります。抄録の評価項目に治療開始率しかない場合は、治療期間、診断確度、毒性、中止理由も確認できる論文化を追跡したいところです。
また、合同学会では「混合感染の隠れた病態増悪のメカニズム」や、多様な微生物の相互作用を扱う企画もありました。免疫不全患者では単一病原体モデルだけで判断せず、細菌・ウイルス・真菌の重複、常在菌叢、デバイス、抗菌薬曝露という背景を考える視点が必要です。
日本感染症学会 2026 抄録を最も実務的に活かす方法は、「自施設のデータで再現できる問い」に変換することです。学会抄録を読んで終わりにせず、院内の培養結果、抗菌薬使用量、検査オーダー、入院期間、再入院、院内感染サーベイランスなどと照合します。この作業は検索上位の記事では扱われにくいものの、学会知見を現場の改善に変えるうえで非常に重要です。
例えば、ある演題が血流感染症における迅速同定検査の有用性を報告していたとします。自施設で同じ施策を検討するなら、導入前に「陽性血液培養から最終同定・感受性結果までの時間」「適正治療開始までの時間」「休日夜間の運用」「結果を誰が確認し、誰が処方医に連絡するか」を測定します。迅速検査そのものを導入しても、通知先が曖昧であれば臨床アウトカムは改善しません。
| 抄録で確認する要素 | 院内で照合するデータ | 実装時の注意点 |
|---|---|---|
| 対象患者・除外基準 | 診療科、年齢、重症度、免疫不全、入院経路 | 自施設の患者構成との差を明示する |
| 介入内容 | 検査体制、AST人員、電子カルテ通知 | 誰がいつ介入するかを運用化する |
| 主要評価項目 | DOT、治療日数、培養採取率、転帰 | 処方量のみで成功と判定しない |
| 安全性・副次評価項目 | 再受診、再入院、副作用、死亡 | 介入による不利益も監視する |
第100回合同学会では、AIを感染症診療に活かす企画、感染症検査AI委員会企画、AI時代の科学論文査読を扱うワークショップも設定されていました。これはAIが診断や文献検索を代替するという意味ではなく、検査・臨床情報・サーベイランスを統合する際の評価枠組みが必要だという示唆です。
AIや自動化を院内に持ち込む場合、最初に作るべきものは高度な予測モデルではなく、データ定義書です。例えば「肺炎」「抗菌薬開始」「治療失敗」「培養陽性」をどのコード、どの検査値、どの時間幅で定義するかを合意しなければ、抄録との比較も施設内の経年比較もできません。感染症診療では、データの欠損そのものが臨床ワークフローの課題を映していることがあります。抄録を読む目的を知識収集にとどめず、次の改善テーマを発見するための設計図として扱うことが、2026年の学会情報を長く活かす方法です。
第100回日本感染症学会総会・学術講演会の講演区分、シンポジウム、ワークショップを確認するための参考リンクです。
第100回日本感染症学会総会・学術講演会|日程表・プログラム