特許が切れていても、あなたが処方したネシーナは2029年まで後発品に切り替えられません。

ネシーナ(一般名:アログリプチン安息香酸塩)は、帝人ファーマが製造販売する選択的DPP-4阻害薬です。DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)を選択的に阻害することで、GLP-1などのインクレチンの血中濃度を上昇させ、血糖濃度依存的にインスリン分泌を促進・グルカゴン分泌を抑制するという作用機序を持ちます。
参考)https://shoku.zenhp.co.jp/neshinanojienerokkyonosaishinjouhou.html
もともとは武田薬品工業が創薬・販売していた製品でしたが、2021年4月に帝人ファーマへ販売移管されました。 その移管価格は1,330億円という規模であり、糖尿病領域における重要製品であることの証左といえます。規格は6.25mg・12.5mg・25mgの3種類があり、2025年4月改定後の薬価はそれぞれ45.3円・84円・156.7円です。
食事の有無に関わらず服用できる1日1回製剤のため、服薬コンプライアンスを維持しやすい点が臨床現場で評価されています。 半減期は約21時間と安定しており、食後高血糖の抑制にも有効です。これが基本です。
他のDPP-4阻害薬と比較した際に際立つのが、CYP代謝をほとんど受けない点です。 肝臓でほぼ代謝されないということは、多剤服用患者や肝機能懸念例でも薬物相互作用のリスクが低く処方しやすいことを意味します。ポリファーマシーが問題になりやすい高齢糖尿病患者に選択しやすい根拠の一つです。
また、EXAMINE試験(大規模RCT)ではアログリプチンが主要心血管イベントに対してプラセボ非劣性を示しており、心血管安全性が科学的に裏付けられています。 心血管リスクを持つ2型糖尿病患者でも安全に使用できるエビデンスがあります。これは使えそうです。
| 規格 | 薬価(2025年4月〜) | 主な適応用量 |
|---|---|---|
| ネシーナ錠 6.25mg | 45.3円/錠 | 高度腎機能障害・透析患者 |
| ネシーナ錠 12.5mg | 84円/錠 | 中等度腎機能障害患者 |
| ネシーナ錠 25mg | 156.7円/錠 | 通常成人(標準量) |
「特許が切れたらすぐに後発品が出る」と考えている医療従事者は少なくありません。しかしこれは正確ではありません。ネシーナ(アログリプチン安息香酸塩)の物質特許(特許番号:3895349)の本来の20年満了日は2024年12月17日でした。 ところが薬機法に基づく特許権存続期間の延長登録制度により、各承認ごとに複数の延長登録がなされています。
延長後の特許権の存続期間は2028年4月〜2029年12月まで継続することが確認されています。 つまり、少なくとも2028年以降にならなければ、アログリプチン単剤(ネシーナ錠)への後発品参入は法的に困難な状況です。特許延長登録が鍵ということですね。
配合剤であるイニシンク配合錠(アログリプチン+メトホルミン)・リオベル配合錠(アログリプチン+ピオグリタゾン)についても同様の延長登録がなされており、こちらは2029年12月まで保護が及ぶとされています。 配合剤も含めて確認が必要です。
一方、同じDPP-4阻害薬でも状況は様々です。
各DPP-4阻害薬の後発品事情は大きく異なります。患者への説明や処方切り替えを検討する際には、最新の収載状況を厚生労働省の薬価基準収載品目リストで確認することが鉄則です。
KEGG MEDICUS:アログリプチン安息香酸塩 商品一覧(先発品・後発品の最新薬価確認に有用)
将来ネシーナの後発品が登場した際、先発品と同じ適応症が後発品にもすべて含まれると思い込むのは危険です。 後発品の適応症が先発品の一部に限定される「虫食い効能(効能の欠落)」という問題が、近年の後発品市場で現実に起きています。
2024年12月に収載されたイグザレルト(リバーロキサバン)の後発品では、先発品が持つ5つの適応症に対し、オーソライズドジェネリック(AG)は2適応症のみ、通常の後発品はさらに1適応症のみという状況になりました。 意外ですね。
ネシーナの場合、配合剤(イニシンク・リオベル)の後発品が登場した際に単剤とは適応が異なる可能性があります。 こうした差分は添付文書を精査しないと気づきにくく、薬剤師の服薬指導場面で誤認が生じるリスクにつながります。後発品への切り替え案内の前には、以下の3点を添付文書ベースで確認することが原則です。
日本ジェネリック製薬協会が定期的に「効能効果・用法用量等に違いのある後発医薬品リスト」を公表しているため、このリストを活用するのが実務的な対策として有効です。 一覧を確認するだけで問題を事前に防げます。
また、後発品が収載された際は薬価が先発品の約40〜50%程度になるケースが多く(7社以上の参入で0.4掛けルールが適用)、患者負担の大幅軽減が見込まれます。 ネシーナ錠25mgであれば156.7円/錠 → 推定60〜80円/錠前後になる可能性があり、月30錠服用の患者(3割負担)では月額薬剤費が約1,400円程度から600〜700円程度に軽減される計算になります。これは使えそうです。
日本ジェネリック製薬協会:効能効果・用法用量等に違いのある後発医薬品リスト(最新版は同協会サイトで公開)
ネシーナは腎排泄が主体の薬剤です。腎機能低下患者では血中濃度が上昇するため、中等度以上の腎機能障害患者には必ず減量が必要です。 これは必須の知識です。
参考)ネシーナ錠25mgの基本情報・添付文書情報 - データインデ…
| 腎機能の状態 | 目安(Ccr・eGFR) | 推奨用量 |
|---|---|---|
| 腎機能正常〜軽度低下 | Ccr ≧ 50mL/min | 25mg 1日1回 |
| 中等度腎機能障害 | 30 ≦ Ccr < 50mL/min | 12.5mg 1日1回 |
| 高度腎機能障害・透析患者 | Ccr < 30mL/min | 6.25mg 1日1回 |
同じDPP-4阻害薬でも、トラゼンタ(リナグリプチン)は胆汁排泄が主体のため腎機能低下時でも用量調整が不要です。 一方、ネシーナ・シタグリプチン・アナグリプチンなどは腎排泄主体のため調整必須です。使い分けの基準として覚えておくべき点です。
服薬指導の場面で押さえておくべき実践的なポイントを整理します。
参考)https://www.shirasagi-hp.or.jp/goda/fmly/pdf/files/1368.pdf
腸閉塞については高齢患者や便秘傾向のある患者で特に観察が必要です。 自覚症状を患者自身が軽視しがちなため、「激しい腹痛や嘔吐が続く場合はすぐに受診を」と具体的に伝えることが服薬指導のポイントです。
eGFRが低下してきた患者では適宜用量見直しを検討することが安全な治療継続につながります。 腎機能のモニタリング結果を処方医にフィードバックできる体制を整えておくことが、薬剤師として求められる役割の一つです。
2024年10月1日から導入された「長期収載品の選定療養制度」は、後発品が存在する先発品を患者が希望する場合に適用されます。 現在のネシーナには後発品がないため、この制度の対象外です。なら問題ありません。
制度の仕組みは以下のとおりです。後発品が存在する先発品を患者の希望で処方する場合、先発品と最も高い後発品との薬価差額の4分の1相当を患者が自己負担します。 後発品が存在しないネシーナは、今のところこの負担は発生しません。
一方で、同じDPP-4阻害薬であるエクア(ビルダグリプチン)やオングリザ(サキサグリプチン)には後発品が存在するため、これらを処方されている患者が先発品にこだわる場合は選定療養の対象です。 患者への説明が必要な場面は現場で確実に増えています。
ネシーナから同系統のDPP-4阻害薬へ処方変更を検討する際には、以下の点を考慮した情報提供が有用です。
薬剤師として患者の希望・コスト意識・服薬コンプライアンスを総合的に考慮した上で、医師への情報提供を行う役割が今後ますます重要になります。 特にネシーナのジェネリックが登場する2028〜2029年ごろ以降は、処方切り替えの議論が現場で活発になると予想されます。最新の薬価収載情報・制度変更を定期的にチェックする習慣が、医療従事者として適切な患者サポートに直結します。
将来ネシーナの後発品が収載された際、薬価が推定60〜80円/錠前後になるとすれば、月30錠服用・3割負担の患者の月額自己負担はおよそ700〜800円軽減される計算です。 患者への「将来的な選択肢」として情報提供しておくことも、長期的な服薬継続支援につながる一つのアプローチです。
厚生労働省「長期収載品の選定療養」制度詳細(患者負担の計算方法・対象品目を確認可能)
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