ミダゾラムはベンゾジアゼピン系に分類される催眠鎮静剤であり、医療現場において麻酔前投薬、全身麻酔の導入及び維持、集中治療における人工呼吸中の鎮静、歯科・口腔外科領域における手術及び処置時の鎮静など、幅広い適応で使用されています。 本剤の作用機序は、脳内の GABA 受容体複合体におけるベンゾジアゼピン受容体に結合し、GABA の親和性を増強することで神経細胞の興奮性を低下させる鎮静・催眠効果をもたらします。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051825.pdf

麻酔前投薬としてのミダゾラムの標準的な投与量は、成人の場合 0.08〜0.10mg/kg を手術前 30 分〜1 時間に筋肉内注射します。 この用量設定の根拠は、国内臨床試験において手術 1 時間前に 0.1mg/kg を筋肉内投与したところ、94.7%(36/38 例)に中等度以上の鎮静効果が確認されたというデータに基づいています。
実際の臨床現場では、患者の年齢や全身状態、併用薬などを考慮して投与量を調整する必要があります。特に高齢者や衰弱患者、重症心不全患者では、作用が強くまたは長くあらわれる可能性が高いため、投与量を減量することが推奨されています。 筋肉内注射の場合、吸収は比較的速やかで、投与後 15〜30 分で効果が現れ始め、約 1〜2 時間でピークに達します。
筋肉内注射の部位は、原則として大きな筋肉(三角筋や大腿四頭筋など)を選択し、同一部位への繰り返し注射は避けることが重要です。 これは、局所の疼痛や硬結、炎症反応を最小限に抑えるためです。また、注射針を刺入した際に激痛を訴えたり血液の逆流を認めた場合は、ただちに針を抜き、部位を変更して注射を行う必要があります。
全身麻酔の導入におけるミダゾラムの標準投与量は、成人で 0.15〜0.30mg/kg を静脈内注射します。 静脈内投与の場合、必ず太い静脈を選択し、1 分間以上の時間をかけて緩徐に注射することが必須です。 急速投与は、重度の低血圧や呼吸抑制、痙攣発作を引き起こす危険性があるため、決して行ってはなりません。
導入が不十分な場合、初回量の半量ないし同量を追加投与しますが、過度の鎮静や呼吸器・循環器系の抑制に十分な注意を払う必要があります。 国内臨床試験のデータによると、0.2mg/kg の単回静脈内投与で 83.8%(62/74 例)に入眠が得られ、98.6%(73/74 例)で導入状態が「円滑」または「普通」と評価されました。
麻酔維持においては、必要に応じて追加投与を行いますが、総投与量は患者の状態や手術時間に応じて慎重に決定します。 本剤は鎮痛作用を有しないため、十分な鎮痛を得るためにはオピオイド系鎮痛薬などの併用が不可欠です。 手術中の出血量が多い患者や、多量の輸液を必要とした患者では、血圧低下や心電図異常を来しやすい傾向があるため、動脈圧および心電図の継続的なモニタリングが強く推奨されます。
小児におけるミダゾラムの投与量は、在胎週数と出生後週数の合計である「修正在胎週数」に基づいて計算します。 修正在胎 45 週以上の小児では、麻酔前投薬として 0.08〜0.15mg/kg を手術前 30 分〜1 時間に筋肉内注射します。 全身麻酔導入時には、0.05〜0.20mg/kg を少なくとも 2〜3 分以上かけて静脈内注射します。
修正在胎 45 週未満の小児、特に修正在胎 32 週未満の未熟児では、各臓器機能が未発達であり、血中の消失時間が著しく延長するため、投与量をさらに減量する必要があります。 修正在胎 32 週未満では 0.03mg/kg/h、32 週以上では 0.06mg/kg/h から持続静脈内投与を開始し、患者の鎮静状態をみながら適宜増減します。
小児における投与で特筆すべきは、幼児では小児より、小児では成人より高用量を必要とすることがあり、より頻繁な観察が必要であるという点です。 これは、小児では成人に比べて血中消失半減期が同等または短いという薬物動態の特性が背景にあります。 6 カ月未満の小児では、特に気道閉塞や低換気を発現しやすいため、少量ずつ段階的に漸増投与し、呼吸数と酸素飽和度を慎重に観察することが必須です。
また、小児等において、激越、不随意運動(強直性・間代性痙攣、筋振戦を含む)、運動亢進、敵意、攻撃性などの逆説反応が起こりやすいとの報告があります。 このため、小児への投与は、小児の処置・管理に熟練した医療従事者が行うことが強く推奨されます。
集中治療室(ICU)における人工呼吸中の鎮静では、成人の場合、初回投与として 0.03mg/kg を少なくとも 1 分以上かけて静脈内注射します。 より確実な鎮静導入が必要な場合でも、初回投与量は 0.06mg/kg までとし、必要に応じて 0.03mg/kg を少なくとも 5 分以上の間隔を空けて追加投与します。 初回投与および追加投与の総量は、0.30mg/kg までを上限とします。
維持投与では、通常 0.03〜0.06mg/kg/h より持続静脈内投与を開始し、患者の鎮静状態をみながら 0.03〜0.18mg/kg/h の範囲で適宜増減します。 国内臨床試験のデータでは、0.03mg/kg/h を持続静脈内投与し、Ramsay の鎮静レベル 4(大声や叩打に素早く反応する)を維持すべく 0.015〜0.3mg/kg/h の範囲で投与速度を調節したところ、86.3%(69/80 例)で該レベルを 70% 以上の時間維持できました。
本剤を長期間(100 時間を超える)にわたって投与する場合は、患者の状態をみながら投与量の増加あるいは鎮痛剤の併用を検討する必要があります。 これは、長期投与により効果が減弱する(耐性が生じる)との報告があるためです。 持続投与期間が 24 時間を超える場合は、覚醒が遅延する可能性があるため、十分な患者管理のできる状態で使用することが必須です。
ICU での鎮静管理においては、Ramsay の鎮静スケールや Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)などの評価尺度を用いて、適切な鎮静レベルを客観的に評価することが重要です。 鎮静薬の投与中は、パルスオキシメーターや血圧計等を用いて、患者の呼吸及び循環動態を継続的に観察することが強く推奨されます。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/sedation_2018/05_05.pdf
歯科・口腔外科領域における手術及び処置時の鎮静では、成人の場合、初回投与として 1〜2mg をできる限り緩徐に(1〜2mg/分)静脈内注射します。 必要に応じて 0.5〜1mg を少なくとも 2 分以上の間隔を空けて追加投与しますが、初回の目標鎮静レベルに至るまでの総量は 5mg までを上限とします。
目標とする鎮静レベルは、呼びかけに応答できる程度とし、過度の鎮静(呼びかけに対する応答がなくなる程度)を避けることが重要です。 低体重の患者では、過度の鎮静になりやすい傾向があるため、投与量に特に注意を要します。 目標とする鎮静レベルに達した後の追加投与については、更なる鎮静が明らかに必要な場合にのみ、患者の状態を考慮して、必要最小限を投与することが原則です。
歯科・口腔外科処置における特筆すべき点は、術野と気道が同一部位であり、器具等の使用により口腔内に水分等が貯留しやすいことから、誤嚥や気道閉塞を起こしやすいというリスクです。 このため、過度の鎮静および呼吸器・循環器系の抑制を避けるために、歯科・口腔外科処置を行う医師・歯科医師とは別に、呼吸および循環動態を観察できる医療従事者を配置し、パルスオキシメーターや血圧計等を用いて手術・処置中の患者を観察することが強く推奨されます。
上気道閉塞に関連する疾患(高度の肥満症、小顎症、扁桃肥大、睡眠時無呼吸症候群等)を有する患者では、気道閉塞を起こしやすく、マスク換気や気管挿管による気道確保の操作が困難であるため、特に慎重な対応が必要です。
高齢者におけるミダゾラムの代謝・排泄は、健常成人に比べて有意に低下します。 薬物動態の研究では、高齢者群の消失半減期は非高齢者群に比較して有意に延長し(5.6 時間 vs 2.1 時間)、クリアランスは有意に低下した(4.41mL/min/kg vs 7.75mL/min/kg)というデータがあります。 このため、高齢者では少量ずつ分けて投与するか、投与速度を減じることが強く推奨されます。 低換気、気道閉塞、無呼吸等の危険性が高く、また作用の発現が遅延する可能性があるため、十分な観察が必要です。
肝機能障害患者でも、ミダゾラムの代謝・排泄が遅延し、作用が強くまたは長くあらわれるおそれがあります。 アルコール性肝硬変患者に 0.075mg/kg を静脈内投与した研究では、健常被験者群に比較して半減期は延長し、クリアランスは約 50% 減少し、分布容積は約 20% 増加したという報告があります。 このため、肝機能障害患者では投与量を減量し、慎重に患者の状態を観察することが必須です。
重症心不全患者においても、うっ血性心不全患者に冠動脈造影の前投薬として 5mg を静脈内投与したときの半減期は健常被験者の約 2 倍(6.5 時間 vs 2.8 時間)に延長したという報告があります。 重症心不全等の心疾患のある患者では、必ず動脈圧および心電図をモニターし、昇圧剤等の蘇生に必要な薬剤を準備したうえで使用することが強く推奨されます。
腎機能障害患者では、代謝・排泄が遅延する可能性がありますが、慢性腎不全患者に 0.2mg/kg を単回静脈内投与した研究では、健常被験者群に比較してクリアランスおよび分布容積は 2 倍に増加しましたが、半減期に変化は認められなかったというデータもあります。 それでも、腎機能障害患者では作用が強くまたは長くあらわれるおそれがあるため、投与量の調整と慎重な観察が推奨されます。
過量投与により、過鎮静、傾眠、錯乱、昏睡等が起こる可能性があります。 過量投与が明白または疑われた場合には、必要に応じてフルマゼニル(ベンゾジアゼピン受容体拮抗剤)の投与を考慮します。 ただし、フルマゼニルの作用持続時間は本剤よりも短く、鎮静等の本剤の作用が再度あらわれるおそれがあるため、十分な観察と管理が必要です。
重大な副作用として、無呼吸、呼吸抑制(頻度不明)、舌根沈下(0.1〜5% 未満)が報告されています。 その他、アナフィラキシーショック(頻度不明)、心停止(頻度不明)、心室頻拍、心室性頻脈(いずれも頻度不明)などの循環器系への影響にも注意が必要です。 依存性(頻度不明)も報告されており、連用により薬物依存を生じることがあるため、投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うことが重要です。
本剤は主として CYP3A4 で代謝されるため、CYP3A4 阻害剤との併用により、本剤の血中濃度が上昇する可能性があります。 併用禁忌となる薬剤として、HIV プロテアーゼ阻害剤(リトナビルを含有する薬剤、ホスアンプレナビル、ダルナビルを含有する薬剤)、コビシスタットを含有する薬剤、ニルマトレルビル・リトナビル、ロナファルニブが挙げられます。 これらの薬剤による CYP3A に対する阻害作用により、本剤の血中濃度が上昇し、過度の鎮静や呼吸抑制を起こすおそれがあるため、併用は避けなければなりません。
その他の併用注意薬剤として、中枢神経抑制剤(フェノチアジン誘導体、バルビツール酸誘導体、麻薬性鎮痛剤等)、CYP3A 阻害剤(カルシウム拮抗剤、アゾール系抗真菌剤、マクロライド系抗生物質等)、CYP3A 誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)が挙げられます。 これらの薬剤との併用により、本剤の作用が増強または減弱する可能性があるため、十分な注意と用量調整が必要です。
医薬品インタビューフォーム 催眠鎮静剤 ミダゾラム注射液「サンド」(詳細な添付文書・薬物動態データ)
日本緩和医療学会 鎮静ガイドライン 2018 年版(持続的鎮静の実際的投与方法と評価)
強ミヤリサン 錠 330錠 [指定医薬部外品]