
猫のケトアシドーシスは、インスリンの絶対的または相対的不足により引き起こされる重篤な代謝異常です。 通常、細胞はグルコースをエネルギー源として利用しますが、インスリンが不足するとグルコースが細胞内に取り込まれなくなります。 この状態では、猫は生存のために脂肪分解に依存せざるを得なくなり、脂肪酸からATPを生成する過程で副産物としてケトン体が大量に産生されます。
ケトン体が体内に蓄積することで体液が酸性に傾き、代謝性アシドーシスという危険な状態を招きます。 過剰なケトン体は消化器症状や神経症状の原因となり、さらに脱水、代謝性アシドーシス、そして血糖上昇ホルモンや炎症サイトカインを誘導して病態を悪化させる悪循環を形成します。
ケトアシドーシスを発症した猫には、以下のような特徴的な症状が現れます。 初期段階では糖尿病の典型的な症状である多飲多尿、食欲増加が見られますが、病状が進行すると食欲減少、体重減少、毛艶の悪化が観察されます。
参考)【獣医師監修】猫の糖尿病性ケトアシドーシス 考えられる原因や…
全身症状として特に重要なサインは以下の通りです。
これらの症状がみられた場合は、速やかに高度で適切な集中治療を施す必要があります。 処置が遅れた場合は死に至るため、できるだけ早く動物病院へ連れて行くことが重要です。
また、猫においては長期の高血糖が続くと後肢の麻痺を特徴とした神経症状を起こす症例も存在します。 ジャンプをしなくなった、高い所へ登らなくなったなどという変化を感じる飼い主もおり、これらの変化はケトアシドーシス発症の前兆となる可能性があります。
参考)猫の糖尿病
猫のケトアシドーシスの診断には、以下の3つの基準をすべて満たす必要があります。
1. 持続的な高血糖(通常250 mg/dL以上)
参考)DKA による猫の危険因子と転帰予測因子 VETgirl ポ…
2. 尿中ケトン体陽性
3. 代謝性アシドーシス
血液ガス分析が可能な場合、静脈pHが7.2未満、または7.35未満という基準が用いられます。 アニオンギャップ(AG)が30以上の場合もケトアシドーシスと診断されます。 血液ガス検査がない場合は、低ナトリウム、低カリウム、低クロールと全身症状があればケトアシドーシスとみなすことができます。
糖尿病性ケトアシドーシスの特徴的な血液所見は以下の通りです。
尿検査では尿糖やケトン尿が出ます。 ただし、重要な注意点として、尿試験紙では猫で増加する主要なケトン体であるβヒドロキシ酪酸は検出できないため、偽陰性になることもあります。 このため、尿中ケトン体が陰性でも臨床症状が強く疑われる場合は、血清ケトン体測定や血液ガス分析を行う必要があります。
日本臨床獣医学フォーラム 猫の糖尿病
参考: 猫の糖尿病の基本的な症状とケトアシドーシスの診断基準について詳しく記載
ケトアシドーシスの治療は、以下の優先順位で進められます。
参考)糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を読み解く|病態から治療戦…
1. 脱水・電解質異常・アシドーシスの是正
2. インスリン投与によるケトン産生・糖新生の抑制
3. ケトーシスの解消(36〜48時間)
4. 血糖コントロール(150〜300mg/dL)と自発摂食の回復(約12時間)
優先すべき治療は脱水の改善と電解質の補正です。 半日ほどかけてそれらを補正した上で、インスリンを打ち始めます。 輸液剤は生理食塩水が一般的であり、それに加えてカリウムを補正していきます。 リンも低下していくことがあるため、リンの補正もしていく必要があります。
特に重要な点は、インスリン投与を始める前に十分な輸液を行い、電解質を補正することです。 まずリン(P)、カリウム(K)、水分を血管内へ十分補給し、細胞外液へ材料を補充します。 これは入院中、インスリン治療中も数値を見ながら、さじ加減で調節します。
ケトアシドーシスは単独で発症するだけでなく、様々な合併症を引き起こす可能性があります。 重度の脱水やナトリウム喪失は、腎血流量減少と血液粘稠度増加を引き起こすため、腎不全や血栓塞栓症などの合併症を引き起こすリスクにもなります。
参考)http://tckw.sunnyday.jp/maono_bing_yuan/tang_niao_bingno_guan_li.html
特に注目すべき合併症として、肝リピドーシスがあります。 糖尿病の治療中にみられる緊急疾患は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、高血糖性高浸透圧症(HHS)、インスリン誘発性低血糖症です。 これらすべての病態は集中治療処置が必要ですが、適切な治療を受けたとしても致命的結末に至る可能性があります。
これら病態に肝リピドーシスを併発した場合、さらに回復は困難となります。 糖尿病性ケトアシドーシスの猫でおこる合併症は肝リピドーシス、急性膵炎、細菌・ウイルス感染症、腫瘍が挙げられます。
健康そうな猫でも45%は、膵炎を発症しているという報告があり、膵炎は、しばしば炎症性腸疾患・胆管肝炎(あわせて「猫の三臓器炎」と言われています)、糖尿病、肝リピドーシスといった様々な疾患と併発します。 糖尿病などの併発疾患のある猫では、膵炎の管理は困難なことがあり、急性膵炎と肝リピドーシスを併発している猫では、肝リピドーシス単独の猫よりも予後が悪いことが分かっています。
意外な事実として、2025年のiCatCareコンセンサスガイドラインでは、SGLT2阻害薬という新しい経口薬が猫の糖尿病管理に使用されるようになりました。 これは従来のインスリン療法とは異なるアプローチで、尿中へのグルコース排泄を促進することで血糖値を下げます。 ただし、この薬剤を使用している猫ではケトアシドーシスのリスクが異なる可能性があり、注意深いモニタリングが必要です。
参考)https://abvp.com/wp-content/uploads/2026/02/2026-03-March-Feline-icc-DM.pdf
もう一つの意外な点は、猫ではストレスによる血糖上昇もあるため、自宅での管理の方が良好なことがあるという事実です。 病院という環境自体が猫にストレスを与え、血糖値を実際よりも高く見せてしまう可能性があります。 このため、無症状で食欲がある場合は、通常の糖尿病の管理から開始し、慎重に経過を観察することが推奨されます。
参考: 猫の糖尿病性ケトアシドーシスの認識と必須治療戦略に関する詳細な論文
猫のケトアシドーシスを理解する:包括的ガイド - PetsCare.com
参考: 猫のケトアシドーシスの症状、診断、治療、予防に関する包括的な情報
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