
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症は、メロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム薬に耐性を示す腸内細菌目細菌による感染症です。従来は「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症」と呼ばれていましたが、細菌分類の整理に伴い、現在の法令・届出票等では「腸内細菌目細菌感染症」という名称が用いられています。
本疾患は感染症法上の五類感染症(全数把握)に位置づけられています。したがって、届出対象となる確定例を診断した医師は、感染症法第12条第1項に基づき、診断後7日以内に都道府県知事へ届け出る必要があります。実務では通常、管轄保健所への届出として運用されるため、診療科、検査室、感染管理部門、医事部門の間で連絡経路をあらかじめ整備しておくことが重要です。
主な発症リスクは、感染防御機能が低下した患者、外科手術後の患者、長期の抗菌薬使用歴がある患者などで高くなります。臨床像は一様ではなく、肺炎、尿路感染症、手術部位感染、外傷部位感染、カテーテル関連血流感染症、敗血症、髄膜炎などとして発症し得ます。一方で、腸管などに無症状で保菌されることも多く、単なる保菌と、届出を要する「感染症」とを混同しないことが届出実務の出発点になります。厚生労働省:カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症の届出基準
なお、CREは薬剤耐性表現型に着目した概念であり、カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)と完全に同義ではありません。カルバペネマーゼを産生する菌であっても、薬剤感受性試験のみでは従来のCRE基準を満たさない場合がありました。この点は、後述する2025年の届出基準改正を理解するうえで重要です。
届出の基本要件は、「臨床的特徴を有する者」において、症状または所見からCRE感染症が疑われ、定められた検査所見を満たして患者と診断した場合です。耐性菌が培養で検出されたという微生物学的情報だけで直ちに届出対象となるわけではなく、検体の由来と感染症としての臨床判断を組み合わせて判定します。
現行の届出基準では、まず分離・同定により腸内細菌目細菌を検出します。そのうえで、メロペネムのMICが2μg/mL以上、またはメロペネム感受性ディスク法(KB法)の阻止円直径が22mm以下であれば、届出に必要な耐性所見を満たします。さらに、薬剤感受性試験でこのメロペネム基準を満たさない場合でも、イムノクロマト法などによるカルバペネマーゼ産生の確認、またはカルバペネマーゼ遺伝子の確認があれば届出根拠となります。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 疾病分類 | 五類感染症・全数把握 | 患者と診断した医師が届出を行う |
| 届出期限 | 診断後7日以内 | 「直ちに届出」が必要な疾患とは異なる |
| 対象菌 | 分離・同定により検出された腸内細菌目細菌 | 菌名の確定と検体情報を確認する |
| 耐性基準 | メロペネムMIC 2μg/mL以上 | またはKB法の阻止円直径22mm以下 |
| 追加の届出根拠 | カルバペネマーゼ産生または遺伝子の確認 | メロペネム耐性基準を満たさない場合も対象となる |
| 無菌検体 | 血液、腹水、胸水、髄液など | 定められた菌・耐性所見を満たせば届出判定へ進む |
| 非無菌検体 | 喀痰、膿、尿など | 分離菌が感染症の起因菌と判定されることが必要 |
検査部門では、腸内細菌目細菌の同定結果、抗菌薬感受性試験結果、MIC値またはディスク法の阻止円径、カルバペネマーゼ確認試験の結果を、診療側が参照しやすい形で報告することが望まれます。とくに、カルバペネマーゼ遺伝子検査やイムノクロマト法の結果が届出可否に影響するため、「メロペネム非耐性のため届出不要」と機械的に処理しない運用が必要です。JIHS:CRE感染症届出基準変更後の届出状況
CRE届出における実務上の重要点は、検出された検体が通常無菌的であるべき検体か、通常無菌的ではない検体かによって、届出判定の前提が異なることです。血液、腹水、胸水、髄液などの通常無菌的であるべき検体から腸内細菌目細菌が分離・同定され、耐性またはカルバペネマーゼ産生の所見を満たす場合は、当該菌の検出が臨床的に重く扱われます。
一方、尿、喀痰、膿などの通常無菌的ではない検体では、腸内定着菌や気道定着菌、採取時の混入などを考慮しなければなりません。そのため、届出には、分離菌が感染症の起因菌であると判定されることが追加で求められます。たとえば、発熱や炎症反応上昇、排尿時症状、膿尿、画像所見、カテーテル留置状況、他菌種の検出状況、抗菌薬治療への反応などを統合し、単なる尿中保菌なのか、CREを起因菌とする尿路感染症なのかを診療チームが判断します。
感染管理上は、届出対象でない保菌者であっても、接触予防策、手指衛生、環境整備、患者移送時の情報共有、転院時の耐性菌情報の伝達などが必要になる場合があります。しかし、感染対策上の対応と感染症法上の患者届出は別の判断軸です。院内の耐性菌サーベイランスの対象であることと、医師によるCRE感染症届出の対象であることを混同しないよう、検査部・ICT・診療科で用語と判定基準を共通化しましょう。
CRE感染症の届出に必要な検査所見は、2025年4月7日に変更されました。改正前は、メロペネム耐性、またはイミペネム耐性とセフメタゾール耐性の組み合わせを確認する基準でした。改正後は、届出基準が「メロペネム耐性」または「カルバペネマーゼ産生の確認」へ整理され、従来のイミペネム・セフメタゾールによる基準は削除されています。
この変更により、現場では抗菌薬感受性結果の確認対象を明確にするとともに、カルバペネマーゼ検出の情報を届出判定に反映する必要があります。具体的には、メロペネムMICが2μg/mL未満であっても、イムノクロマト法でカルバペネマーゼ産生が確認された場合、あるいはPCR等でカルバペネマーゼ遺伝子が確認された場合には、届出基準を満たし得ます。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)が公表した基準変更後の集計では、2025年第15週から第40週までに464例のCRE感染症が報告されました。このうち、メロペネム耐性確認による届出は429例、カルバペネマーゼ産生確認による届出は104例で、両方の条件が記載された症例を含みます。カルバペネマーゼ産生確認のみで届出された症例も29例あり、メロペネム感受性結果だけで届出要否を決めると見逃しにつながることが示唆されます。
同集計では、カルバペネマーゼ産生確認で届け出られた症例における遺伝子型として、IMP型が57例、NDM型が22例、OXA-48型が9例、KPC型が1例などと報告されています。これは、耐性機序の把握が個別患者の届出実務だけでなく、地域・全国レベルの薬剤耐性菌サーベイランスにも寄与することを示しています。届出票の記載可能な項目は、検査報告書、電子カルテ、感染管理記録から正確に拾い上げる体制を作ることが重要です。JIHS:感染症発生動向調査におけるCRE感染症の届出基準変更後の状況
なお、法令・通知・届出票は改正される可能性があります。施設内マニュアルを作成する際は、古い「イミペネムMICとセフメタゾールMIC」の基準だけが残っていないかを確認し、厚生労働省およびJIHSが公表する最新の届出基準に更新することが不可欠です。
CREの届出漏れを防ぐには、検査室からの耐性菌アラート、主治医の感染症診断、感染管理部門による届出支援を、別々の業務として切り離さずに接続することが重要です。特に、非無菌検体からの検出例では、検査結果のみで届出対象かを判定できないため、最終的な患者診断を担う医師への確認が不可欠です。
実務フローの一例として、微生物検査室が腸内細菌目細菌のメロペネム耐性、またはカルバペネマーゼ産生・遺伝子確認を検出した時点で、電子カルテのアラートや電話連絡などにより主治医と感染管理部門へ通知します。次に主治医が感染症の有無、検体部位、起因菌性、診断名を確認し、届出対象と判断した場合は、届出票に必要事項を記載して保健所へ提出します。感染管理部門は、届出後に接触予防策や転院時情報提供などの院内対応が実施されているかを確認します。
届出票の作成では、患者情報、診断年月日、発病年月日、検体採取日、検体の種類、分離菌種、診断名、死亡の有無などを、診療録および検査報告書と照合します。カルバペネマーゼ産生または遺伝子確認を届出根拠とする症例では、検査法と結果を確認し、届出票に必要な情報を漏れなく反映します。検査所見や遺伝子型の未記載は、サーベイランスデータの解釈を難しくするため、記載欄がある場合には可能な範囲で正確に入力する姿勢が求められます。
届出は患者個人に対する行政手続きであると同時に、薬剤耐性菌の発生動向を把握し、地域の感染対策や公衆衛生施策に生かす基盤です。臨床現場では、「CREが出た」ことだけではなく、「感染症として診断しているか」「無菌検体か非無菌検体か」「メロペネム耐性またはカルバペネマーゼ産生確認を満たすか」「診断後7日以内か」という4点を順に確認すると、届出判定が整理しやすくなります。最終判断に迷う場合は、院内の感染管理部門、微生物検査室、管轄保健所へ早期に相談し、最新の届出基準に基づいて対応してください。
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