体循環と肺循環は、心臓を中心に連続して働く二つの血流回路である。両者を最も簡潔に区別すると、体循環は「左心室から全身へ血液を送り、右心房へ戻す回路」、肺循環は「右心室から肺へ血液を送り、左心房へ戻す回路」である。心拍出量は原則として二つの回路を直列に通過するため、片方の循環障害は時間経過とともにもう一方の負荷やうっ血にも影響する。
体循環は大循環、肺循環は小循環とも呼ばれる。ただし、小循環という名称は機能的重要性が低いことを意味しない。肺循環は、右心室から送り出された混合静脈血を肺胞毛細血管へ運び、酸素の取り込みと二酸化炭素の排出を可能にする。ここで酸素化された血液が左心系に戻り、体循環を介して全身の細胞へ供給される。したがって、呼吸・循環・組織代謝を一つの流れとして把握するうえで、二つの循環を分けて理解することが重要である。
循環路の基本は、血液が左心室から大動脈を通って全身へ向かい、上大静脈・下大静脈を介して右心房へ戻り、次いで右心室から肺動脈を通って肺へ向かい、肺静脈から左心房へ戻るという連続経路である。MSDマニュアルは、肺循環を右心系・肺・左心房を結ぶ回路、体循環を左心系・全身の大部分・右心房を結ぶ回路として説明している。MSDマニュアル:心臓の生物学
参考)心臓の生物学 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニュ…
体循環の経路は、左心室から大動脈へ駆出された血液が、太い動脈、中小動脈、細動脈、毛細血管、細静脈、静脈を通過し、最終的に上大静脈・下大静脈から右心房へ戻る流れである。全身の毛細血管床では、組織が必要とする酸素と栄養素を供給し、二酸化炭素や代謝産物を回収する。臓器ごとに血流調節の様式は異なるが、体循環全体としては臓器灌流圧の維持と血流分配が重要になる。
肺循環の経路は、右心室から肺動脈幹、左右肺動脈、肺内の肺動脈枝、肺胞周囲毛細血管、肺静脈を経由して左心房へ戻る流れである。肺胞毛細血管では、肺胞気と血液の間で酸素と二酸化炭素が拡散し、静脈血は動脈血へと酸素化される。看護roo!は、肺循環を右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房、体循環を左心室→大動脈→全身→上大静脈・下大静脈→右心房と整理している。看護roo!:肺循環と体循環の違いは?
参考)肺循環と体循環の違いは?
| 項目 | 体循環 | 肺循環 |
|---|---|---|
| 別名 | 大循環 | 小循環 |
| 出発点 | 左心室 | 右心室 |
| 主な流出血管 | 大動脈 | 肺動脈幹・肺動脈 |
| 主な到達部位 | 全身の臓器・組織の毛細血管床 | 肺胞周囲の毛細血管床 |
| 心臓への帰着点 | 右心房 | 左心房 |
| 主目的 | 組織灌流、酸素・栄養供給、代謝産物回収 | 酸素化、二酸化炭素排出、ガス交換の維持 |
| 圧・抵抗の特徴 | 高圧・高抵抗の回路 | 低圧・低抵抗の回路 |
| 代表的な病態 | 高血圧、末梢循環不全、左心不全 | 肺高血圧、肺うっ血、右心不全 |
体循環と肺循環を学ぶ際に混同しやすいのが、「動脈・静脈」と「動脈血・静脈血」の違いである。動脈と静脈は、酸素濃度ではなく、血液が心臓から出る方向か、心臓へ戻る方向かで命名される。すなわち、心臓から血液を運び出す血管が動脈、心臓へ血液を戻す血管が静脈である。
この原則により、肺動脈は右心室から肺へ向かうため動脈だが、通常は酸素濃度が低く二酸化炭素を多く含む静脈血を運ぶ。一方、肺静脈は肺から左心房へ戻るため静脈だが、肺で酸素化された動脈血を運ぶ。この「肺動脈は静脈血、肺静脈は動脈血」という組み合わせは、教育場面だけでなく、血液ガス、カテーテル検査、先天性心疾患、人工呼吸管理を理解する土台になる。
臨床では、「動脈血=動脈内を流れる血液」と短絡しないことが大切である。たとえば肺動脈カテーテルで得られる混合静脈血酸素飽和度は、右心系から肺動脈に至る血液の酸素需給バランスを反映する。一方、橈骨動脈などから採取する動脈血は、肺でのガス交換を経た後に左心系から体循環へ送られる血液であり、呼吸状態や酸素化の評価に用いられる。
体循環と肺循環は、同じ心拍出量を受け入れる直列回路でありながら、圧と血管抵抗の性質が大きく異なる。体循環では左心室が高い圧を発生させ、全身に張り巡らされた比較的高抵抗の血管系へ血液を駆出する。左心室は壁が厚く、全身の灌流を維持するために高い後負荷へ対応する構造をもつ。
これに対し、肺循環は低圧・低抵抗・高コンプライアンスの回路である。右心室は薄い壁であっても、通常は低い肺血管抵抗に対して十分な血流を送ることができる。肺血管床は血流増加に対して血管のリクルートメントや拡張を通じ、過度な圧上昇を抑えながら対応する。この性質は、運動時に心拍出量が増えても肺動脈圧が一律に大きく上昇しない背景の一つとなる。
体循環と肺循環の違いを理解すると、左心不全、右心不全、肺高血圧、呼吸不全における所見を機序から整理しやすくなる。左心室のポンプ機能低下、左室充満圧上昇、僧帽弁疾患などによって左心系からの流出または左房への流入に問題が生じると、その圧負荷は肺静脈側から肺毛細血管側へ伝わる。結果として肺うっ血、呼吸困難、起坐呼吸、湿性ラ音、ガス交換悪化などが問題となりうる。
一方、肺血管抵抗の上昇、肺血管閉塞性病変、慢性低酸素、肺疾患、肺血栓塞栓症などによって肺循環の後負荷が高まると、右心室に負担がかかる。右心室は急激な後負荷増大への耐性が左心室ほど高くないため、急性肺塞栓症のような状況では右室拡大、心拍出量低下、低血圧へ進行することがある。慢性的な肺高血圧では右室肥大や右心不全に至り、頸静脈怒張、下腿浮腫、肝うっ血、腹水など、体静脈系うっ血の所見が前景化しうる。
ベッドサイドでは、SpO2、呼吸数、血圧、脈拍、尿量、四肢冷感、意識状態、頸静脈怒張、浮腫、肺音などを個別に見るだけでなく、「どの回路で流入・流出・抵抗・うっ血が起きているか」という位置関係を意識する。たとえば低酸素血症は肺胞換気、拡散、換気血流不均衡、シャントなど肺循環と呼吸の接点を示唆する一方、低血圧や乏尿は体循環側の有効灌流低下を示唆する。両者を結び付けて評価することで、単一の数値だけでは捉えにくい循環動態の変化をより立体的に把握できる。
重要なのは、体循環と肺循環を別々の器官系として扱わないことである。右心室が肺循環へ送り、肺で酸素化された血液を左心室が体循環へ送り出すため、右心・肺・左心・全身は直列につながる。一方の障害が他方のうっ血や低灌流を引き起こす可能性を踏まえ、症状、身体所見、画像、血液ガス、心電図、心エコーなどの情報を統合して判断することが、医療従事者に求められる循環評価の基本となる。

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