腎血漿流量は、renal plasma flow(RPF)とも呼ばれ、両側の腎臓へ単位時間あたりに流入する「血漿」の容量を表す指標です。単位は通常mL/minで表記されます。ここで対象となるのは全血ではなく、血球成分を除いた液体成分である血漿です。腎臓に流入する血液は、腎動脈から葉間動脈、弓状動脈、小葉間動脈を経て輸入細動脈へ入り、糸球体毛細血管を灌流します。その血液のうち、糸球体濾過障壁を通過してボウマン嚢へ移動できる成分は血漿です。
健常成人では、腎臓は心拍出量のおよそ20〜25%を受け取るとされ、腎血流量は概ね1.0〜1.1L/min、腎血漿流量はおよそ600〜720mL/minとされています。ただし、これらは体格、循環動態、年齢、測定条件、ヘマトクリット値などに左右される生理学的な代表値であり、単一の数値のみで腎機能の正常・異常を判定するものではありません。腎血漿流量は、腎臓がどの程度の血漿を受け取り、濾過および尿細管機能のための基盤となる血行動態を維持しているかを理解するための概念です。
参考)Physiology, Glomerular Filtrat…
腎血漿流量を理解するうえでは、腎血流量と混同しないことが重要です。腎血流量は赤血球などの血球成分を含む全血が腎臓へ流れ込む量であるのに対し、腎血漿流量はそのうち血漿部分のみを指します。したがって、同じ患者でもヘマトクリットが変化すれば、同じ腎血流量であっても腎血漿流量は変化します。
腎血漿流量と腎血流量の関係は、ヘマトクリット(Hct)を用いて表せます。ヘマトクリットは全血に占める赤血球容積の割合であり、血漿分画は \(1-\mathrm{Hct}\) です。そのため、腎血漿流量は次式で算出されます。
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\mathrm{RPF}=\mathrm{RBF}\times(1-\mathrm{Hct})
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反対に、腎血漿流量から腎血流量を求める場合は、次の式を使います。
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\mathrm{RBF}=\frac{\mathrm{RPF}}{1-\mathrm{Hct}}
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たとえば腎血流量が1,100mL/min、ヘマトクリットが0.45なら、腎血漿流量は \(1,100\times(1-0.45)=605\)mL/minです。このように、腎臓へ豊富な血流が供給されることは、糸球体濾過、尿細管周囲毛細血管での再吸収・分泌、酸素供給、腎髄質の浸透圧勾配の維持に関連します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 腎血流量(RBF) | 腎臓へ流入する全血の量 | 赤血球などの血球成分を含む |
| 腎血漿流量(RPF) | 腎臓へ流入する血漿の量 | RBF×(1−Hct)で算出する |
| 糸球体濾過量(GFR) | 糸球体からボウマン嚢へ濾過される血漿量 | 通常はRPFの一部にとどまる |
| 濾過分画(FF) | GFR÷RPF | 流入血漿に占める濾過量の割合 |
濾過分画(filtration fraction:FF)は、腎血漿流量に対して、どれだけの血漿が糸球体で濾過されたかを示す割合です。概念的には \( \mathrm{FF}=\mathrm{GFR}/\mathrm{RPF} \) で表されます。GFRとRPFを組み合わせると、単に「濾過量が低下している」だけでは把握しにくい腎血行動態の方向性を考える手掛かりになります。たとえば輸出細動脈の緊張変化は、GFRとRPFに異なる方向の影響を及ぼし得るため、濾過分画も変化します。
なお、GFRは腎機能評価の中心的な指標であり、臨床では血清クレアチニン値から推算したeGFRが広く使用されます。一方、腎血漿流量や濾過分画は、日常診療で直接測定される機会は限られるものの、腎生理、薬理作用、腎血行動態、腎前性要因を理解する際に不可欠な概念です。
腎血漿流量の評価には、古典的にパラアミノ馬尿酸(para-aminohippuric acid:PAH)のクリアランスが用いられます。クリアランスとは、ある物質が単位時間あたりに完全に除去されたとみなせる血漿量です。一般的なクリアランスの式は、尿中濃度をU、尿量をV、血漿中濃度をPとした場合、\( \mathrm{C}_x=(\mathrm{U}_x\times\mathrm{V})/\mathrm{P}_x \) と表されます。
PAHクリアランスは、次式で表せます。
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\mathrm{C}_{\mathrm{PAH}}=\frac{\mathrm{U}_{\mathrm{PAH}}\times\dot{\mathrm{V}}}{\mathrm{P}_{\mathrm{PAH}}}
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ここで、\( \mathrm{U}_{\mathrm{PAH}} \) は尿中PAH濃度、\( \dot{\mathrm{V}} \) は単位時間あたりの尿量、\( \mathrm{P}_{\mathrm{PAH}} \) は血漿PAH濃度です。抽出率をEとすると、真の腎血漿流量は \( \mathrm{RPF}=\mathrm{ERPF}/E \) と補正できます。たとえばPAHクリアランスが540mL/min、PAH抽出率が0.90なら、推定RPFは600mL/minです。
StatPearls:GFRと腎血漿流量の解説
PAHの濃度が高すぎる場合は注意が必要です。PAHの尿細管分泌には輸送担体の飽和があり、血漿PAH濃度が上昇して分泌能を超えると、十分なPAH除去ができなくなります。この状況ではPAHクリアランスは低下し、RPFやERPFの推定値として妥当性が損なわれます。そのため、PAHクリアランスを生理学的評価に使用する場合は、分泌系が飽和しない低濃度域で定常状態を維持することが前提になります。
腎血漿流量は、全身の血行動態と腎内の血管抵抗によって動的に変化します。特に重要なのは、輸入細動脈および輸出細動脈の緊張です。輸入細動脈が収縮すると糸球体へ流入する血液量が減少し、一般にRPFとGFRの両方を低下させる方向に働きます。一方、輸出細動脈が収縮すると、程度によっては糸球体内圧が上昇してGFRを一時的に保つことがある一方、RPFは低下し得ます。
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系では、アンジオテンシンIIが輸出細動脈を相対的に強く収縮させる作用を持ちます。循環血液量低下時などに、糸球体濾過圧を維持する代償機構として働く一方、過度の活性化は腎血流低下や腎虚血に関与する可能性があります。ACE阻害薬やARBは、輸出細動脈の収縮を緩和することで糸球体内圧を低下させ、状況によっては開始後にeGFRが低下することがあります。この変化は薬剤の腎保護作用と矛盾するものではありませんが、脱水、両側腎動脈狭窄、進行した心不全など、腎灌流圧への依存性が高い状況では慎重な評価が必要です。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、腎臓でのプロスタグランジン産生を抑制します。プロスタグランジンは、とくに有効循環血漿量が低下した状況で輸入細動脈を拡張し、腎血流を維持する方向に働くため、NSAIDsによる抑制は輸入細動脈収縮、RPF低下、GFR低下につながり得ます。利尿薬による体液量減少、ACE阻害薬またはARBによる輸出細動脈拡張、NSAIDsによる輸入細動脈収縮が重なる、いわゆる「トリプルワーミー」の状況は、急性腎障害のリスクを考える際に腎血行動態の観点が役立ちます。
また、交感神経活性化、出血、重症感染症、心不全、肝硬変、脱水などでも腎灌流が低下し得ます。一方、妊娠や食事内容、体液量、血管作動性物質、全身血圧の変動なども腎血行動態に影響します。ただし、RPFは単独で解釈するのではなく、血圧、尿量、体液量、血清クレアチニン、電解質、尿所見、薬剤使用歴、画像所見などと統合して評価することが大切です。
腎血漿流量は、日常診療において血液検査のように頻繁に直接測定する項目ではありません。しかし、腎機能が低下した患者で「腎前性の灌流低下が主なのか」「糸球体内血行動態が変化しているのか」「薬剤がGFRにどのような影響を及ぼしているのか」を考える際の土台となります。医療従事者は、GFRが腎臓の濾過機能を示す一方で、RPFは濾過前段階の血漿供給を表すという違いを明確に意識すると、病態生理を整理しやすくなります。
また、腎血漿流量は両腎全体の流量を示す概念であり、局所的な腎血流分布や髄質の微小循環を直接表すものではありません。腎皮質と腎髄質では血流量や酸素環境が異なり、全体のRPFが保たれていても、局所レベルの低酸素や微小循環障害が存在することはあります。したがって、RPFの理解は腎循環の入口であり、単独の診断指標として過度に扱うものではありません。
実務上は、腎血漿流量を「腎臓に届く濾過可能な血漿の供給量」、GFRを「実際に糸球体を通過して濾過された量」、濾過分画を「供給された血漿のうち濾過に回った割合」と整理すると分かりやすくなります。PAHクリアランスはこの腎血漿流量を推定する代表的手法ですが、得られるのは原則としてERPFであり、PAH抽出率、尿細管分泌の飽和、腎機能障害や腎循環障害の影響を踏まえて解釈する必要があります。