
インフェクション(infection)とは、医学的に「病原微生物が生体の体内もしくは表面に寄生し、増殖するようになる事、またその過程」を指します。 英語の"infection"は、日本語では「感染」と訳され、医療現場で日常的に使用される重要用語です。
具体的な定義をみると、以下の要素が含まれます。
この定義から分かるように、単に病原体が体表に付着しているだけではインフェクションとはみなされません。体内に侵入し、増殖可能な状態になることが必要です。
医療現場では、インフェクションという言葉は「感染」だけでなく、「伝染病」「感染症」の意味でも使用されます。 例えば「尿路インフェクション(urinary tract infection)」のように、特定の部位の感染症を指す場合や、「院内インフェクション(nosocomial infection)」のように、感染が発生した環境を特定する場合など、文脈によって使い分けられます。
医療現場においてインフェクションという用語が特に重要視されるのが、院内感染(医療関連感染)対策の文脈です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0202-1a.html
院内感染とは、「医療機関において患者が原疾患とは別に新たにり患した感染症、または医療従事者等が医療機関内において感染した感染症」を指します。 世界的には「医療関連感染(healthcare-associated infections; HAIs)」という用語が使用されることが多いです。
厚生労働省が示す感染防止の基本方針では、以下の対策が求められています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2005/02/tp0202-1.html
標準予防策の基本概念は、「感染症の有無にかかわらず、すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物、傷のある皮膚・粘膜を感染性のあるものとみなす」ことです。 この考え方は、1996年にCDC(米国疾病予防管理センター)が発表した医療施設における隔離予防策に由来し、現在では日本の医療機関でも広く採用されています。
意外な事実として、院内感染は「入院後48時間以降に発症した感染症」と定義されることが一般的ですが、これは潜伏期間を考慮した実務的な基準です。 病原体によって発病までの潜伏期間が異なるため、厳密には「病院内で曝露されて生じた感染」すべてが院内感染となります。
参考)院内感染
厚生労働省:医療施設における院内感染の防止について(詳細な対策方針)
一般社団法人 日本環境感染学会:用語集(感染関連用語の公式定義)
インフェクション(感染)が成立しても、必ずしも症状が現れるわけではありません。この点を理解することは、臨床現場で非常に重要です。
不顕性感染(inapparent infection)
顕性感染(apparent infection)
この区別が重要な理由は、不顕性感染者が「無症状病原体保有者」として、知らずに感染拡大の原因となる可能性があるからです。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で、この概念は一般にも広く知られるようになりました。
参考)不顕性感染(フケンセイカンセン)について 【病院検索ホスピタ…
感染症法第6条第11項では、「無症状病原体保有者」が法律用語として定義されており、医学用語の不顕性感染と実質的に同じ意味を持ちます。 ただし、医学判断と法律判断が異なる結果になる場合があるため、臨床現場では注意が必要です。
医療現場で特に重要でありながら、意外に理解されていない概念が「インフェクション(感染)」と「コロニゼーション(colonization:定着)」の区別です。
コロニゼーション(定着)の定義
インフェクション(感染)の定義
この区別が臨床的に重要な理由は、抗菌薬の適正使用に関わるからです。 創面から細菌が検出されただけで「感染している」と判断して抗菌薬を投与するのは誤りです。創傷治療の専門家によると、「炎症の四徴候(発赤、腫脹、熱感、疼痛)がなければ感染(化膿)はしていない」と判断します。
実際の臨床現場では、以下の基準で感染と定着を区別します。
| 項目 | コロニゼーション(定着) | インフェクション(感染) |
|---|---|---|
| 微生物の存在 | あり | あり |
| 増殖 | あり | あり |
| 宿主反応 | なし | あり(免疫応答) |
| 臨床症状 | なし | あり(発熱、炎症など) |
| 組織侵入 | なし | あり |
| 治療必要 | 通常不要 | 抗菌薬など必要 |
この区別を理解していないと、MRSAや緑膿菌などの耐性菌が創面から検出されただけで「感染」と誤判断し、不必要な抗菌薬使用につながります。 抗菌薬耐性(AMR)対策の観点からも、この概念の正確な理解が医療従事者に求められます。
参考)http://www.wound-treatment.jp/wound014.htm
創傷治療:InfectionとColonization(創傷感染の正しい理解)
PubMed: Infection versus colonization in the critical care unit(集中治療室での感染と定着の区別)
インフェクションが成立すると、生体は病原体に対して免疫反応を引き起こします。この反応の一部が「炎症」です。
炎症とは、「生体が傷害を受けた際に引き起こす一連の生体反応であり、異物や壊死した細胞を排除して生体恒常性を維持しようとする防御反応」です。 細菌やウイルス感染においては、以下の機序で炎症が引き起こされます。
1. 病原体の構成成分(PAMPs:病原体関連分子パターン)を、宿主のパターン認識受容体(PRRs)が感知
2. 自然免疫系が活性化され、炎症性サイトカインや炎症性メディエーターが産生
3. 好中球、マクロファージ、樹状細胞などの自然免疫担当細胞が動員
4. 「炎症」反応が引き起こされ、獲得免疫系も活性化
この機序を理解すると、なぜ感染と炎症が密接に関連しているかが分かります。ただし、注意すべき点は「炎症=感染」ではないことです。 外傷や熱傷、自己免疫疾患など、感染以外の原因でも炎症は起こり得ます。
医療現場で意外に誤解されている事実として、「創面から細菌が検出=感染」という考え方がありますが、これは前述の通り誤りです。 炎症の四徴候(発赤・腫脹・熱感・疼痛)がなければ、細菌が存在していても感染とは判断しません。