非アルコール性脂肪肝の食事療法と実践ポイント

非アルコール性脂肪肝(現:MASLD)の食事療法では、単なる糖質制限ではなく、総エネルギー、体重減少、脂質の質、果糖・超加工食品、併存する糖尿病やサルコペニアへの配慮を統合して考える必要があります。医療従事者は何を評価し、どのように患者へ伝えるべきでしょうか?

非アルコール性脂肪肝の食事療法と核心ガイド


脂肪肝改善へ導く食事支援
減量目標を個別に設定する

過体重・肥満例では、持続的な体重減少が肝脂肪、炎症、線維化の改善に重要であり、段階的な目標設定が必要です。

糖質量より食品の質をみる

清涼飲料水、果糖添加飲料、精製穀類、菓子類を減らし、食物繊維や不飽和脂肪酸を増やす視点が重要です。

継続可能な行動変容を支える

画一的な禁止ではなく、食習慣、勤務形態、家族環境、糖尿病治療、身体活動を踏まえた支援が継続につながります。


非アルコール性脂肪肝をMASLDとして捉え直す


非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、近年、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)という名称への移行が進んでいます。MASLDは肝細胞内への脂肪蓄積を背景に、肥満、内臓脂肪型肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧などの心代謝リスクと深く関連する疾患概念です。従来の「非アルコール性脂肪肝」という検索語は現在も患者・一般臨床で広く使われますが、医療従事者は名称変更の背景を理解し、肝臓だけではなく全身の代謝異常と心血管リスクを同時に評価する姿勢が求められます。
食事療法の目的は、検査値を一時的に下げることだけではありません。肝脂肪の減少、肝炎症の改善、線維化進展の抑制に加え、糖代謝、脂質代謝、血圧、体重、内臓脂肪、心血管リスクを包括的に改善することが重要です。そのため、「脂肪肝だから油をゼロにする」「糖質を極端に抜く」といった単純な指導は適切ではありません。総エネルギー収支を整えたうえで、炭水化物・脂質・たんぱく質の質、食事タイミング、飲酒、運動、睡眠、治療継続性までを確認する必要があります。
過体重または肥満を伴うMASLDでは、食事・行動療法による持続的な減量が中心的介入です。海外ガイドラインでは、体重減少により肝脂肪や肝障害の改善を目指すことが推奨されており、概ね体重の3~5%以上の減少で肝脂肪の改善、7~10%程度で炎症や線維化を含む組織学的改善が期待され、より進行した病態では10%以上の減量が重要となる場合があります。ただし、目標値を一律に押し付けるのではなく、年齢、BMI、フレイル、サルコペニア、糖尿病治療薬、肝線維化リスク、生活背景を踏まえて設定します。AASLDのMASLD・NAFLD診療指針


食事評価で確認したいエネルギーと減量目標

食事介入の出発点は、患者が実際に何をどの程度、いつ食べているかを具体的に把握することです。体重やBMIだけでは過剰摂取の原因を特定できません。食事記録、24時間思い出し法、写真記録、間食・飲料・外食の聴取を組み合わせ、摂取エネルギーの増加要因を可視化します。特に見逃されやすいのは、甘味飲料、加糖コーヒー飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンク、菓子パン、夜食、飲酒時のつまみ、外食の大盛り、揚げ物、加工肉、深夜勤務後の食事です。
減量が必要な患者では、急激な絶食や極端な低エネルギー食を自己判断で始めないよう伝えます。急速な体重変動は継続困難であり、筋肉量の減少、低栄養、胆石症リスク、糖尿病治療中の低血糖などにつながる可能性があります。特に高齢者、肝硬変へ進展した症例、サルコペニアが疑われる症例、摂食障害のリスクがある症例では、単純なカロリー制限を優先せず、栄養状態と身体機能の評価を並行して行います。

評価項目 基準・内容 備考
体重変化 開始時体重、過去6~12か月の変化、週単位の変動を確認する 急激な減量よりも持続可能な減量を重視する
減量目標 過体重・肥満例では体重の3~5%以上を初期目標とし、病態に応じて7~10%以上を検討する 肝脂肪、肝炎症、線維化の程度や併存症に応じて調整する
総エネルギー 食事内容、間食、飲料、飲酒、外食を含めて過剰摂取源を確認する 一律の摂取エネルギー設定ではなく個別化する
筋肉量・身体機能 高齢者、低BMI例、体重減少例では筋力、歩行速度、骨格筋量も評価する サルコペニアを伴う場合は過度な制限を避ける
代謝合併症 2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群などを確認する 多職種・他科との連携が治療効果を左右する

食事療法では、エネルギー赤字をつくること自体が重要ですが、特定の栄養素だけを悪者にしない説明が必要です。たとえば糖質を減らしても、揚げ物、バター、脂身の多い肉、菓子類、アルコール、超加工食品の摂取が多ければ、総エネルギーや飽和脂肪酸の過剰を招く可能性があります。逆に、主食を適量に保ちながら、野菜、豆類、全粒穀物、魚、適切なたんぱく質源を組み合わせるほうが、長期的には実行しやすい患者も少なくありません。


優先して見直す食品と栄養素の質

MASLDの食事支援では、「何を減らすか」と「何に置き換えるか」を必ずセットで示します。最優先で確認したいのは、砂糖を加えた飲料です。清涼飲料水、加糖炭酸飲料、果汁飲料、甘い缶コーヒー、乳酸菌飲料、エナジードリンクなどは、満腹感につながりにくい一方で、短時間に糖質とエネルギーを摂取しやすい食品群です。果糖を多く含む飲料や菓子類の過剰摂取は避けるべきであり、飲料は水、無糖茶、無糖コーヒーなどへの置換を基本とします。
脂質については、総量だけでなく質の改善が重要です。ラード、バター、生クリーム、脂身の多い肉、加工肉、揚げ物、菓子パン、洋菓子、ショートニングやマーガリンを用いた食品などは、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸、過剰なエネルギー摂取につながりやすいため、頻度と量の見直しを勧めます。一方で、青魚、ナッツ類、種実類、オリーブ油などに含まれる不飽和脂肪酸を、総エネルギーを超過しない範囲で活用する考え方が有用です。ナッツ類は健康的な食品であっても高エネルギーであるため、「手のひらに軽くのる程度」など、患者がイメージしやすい量の目安を提示すると実践につながります。

  • 加糖飲料、果汁飲料、甘い缶コーヒー、スポーツドリンクを日常的に飲む習慣を確認し、水または無糖飲料へ置き換える
  • 菓子パン、スナック菓子、洋菓子、インスタント食品などの超加工食品は、常備・習慣化を避けて頻度を下げる
  • 白米、白いパン、麺類を大量に食べる習慣がある場合は、量の適正化と野菜・たんぱく質の先行摂取を検討する
  • 魚、大豆製品、鶏肉、赤身肉などを活用し、脂身の多い肉や加工肉への偏りを減らす
  • 野菜、海藻、きのこ、豆類、全粒穀物などから食物繊維を確保し、満腹感と血糖管理を支える
  • 揚げる調理法が多い場合は、蒸す、ゆでる、焼く、煮る、網焼きに置き換える

地中海食に近い食事パターンは、MASLDにおける食事の質を改善する実践的な枠組みとして注目されています。日本の食文化では、野菜、海藻、きのこ、豆類、大豆製品、青魚、適量の主食を基盤にし、肉の脂身・加工肉・菓子類・加糖飲料を控える形で応用できます。オリーブ油を必須と考える必要はなく、患者の嗜好、家計、調理環境に合わせ、飽和脂肪酸を減らし不飽和脂肪酸と食物繊維を増やすという原則を伝えることが重要です。EASL-EASD-EASOのガイドラインでも、食事の質の改善、超加工食品の制限、糖加飲料の回避が推奨されています。EASL-EASD-EASO MASLD診療ガイドライン


患者指導では飲酒・食行動・合併症を一体で扱う

「非アルコール性」という旧称から、患者が少量飲酒を問題視しないことがあります。しかし、脂肪肝を有する患者の飲酒については、肝障害の程度、線維化リスク、糖尿病、肥満、服薬状況、飲酒パターンを踏まえて慎重に評価する必要があります。毎日少量であっても、飲酒に伴うエネルギー摂取、つまみの過食、食事の乱れ、睡眠の質低下などが体重・代謝管理を妨げる場合があります。進行した線維化や肝硬変が疑われる場合、飲酒量が多い場合、飲酒コントロールが困難な場合には、禁酒を含めて専門的支援を検討します。
食行動の聴取では、栄養素の量だけでなく、食べる時刻と状況を確認します。夜遅い夕食、就寝前の間食、仕事中のつまみ食い、ストレス時の過食、休日のまとめ食い、飲酒後の麺類や米飯の追加摂取は、患者自身が「食事」として認識していないことがあります。夜勤者では一般的な朝昼夕の食事モデルをそのまま当てはめず、勤務前・勤務中・勤務後の摂取内容、眠気対策の甘味飲料や菓子、コンビニ食の選択を具体的に聞き取ります。
2型糖尿病を合併する患者では、食事療法を肝臓のためだけの制限として伝えず、血糖、体重、脂質、血圧、心血管リスクを同時に改善する治療として説明します。インスリン、スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬などを使用している患者では、食事量の急な減少による低血糖にも注意が必要です。糖尿病専門医、管理栄養士、薬剤師、看護師と連携し、薬物療法と食事内容の変更を安全に調整します。
また、標準体重または低体重でも脂肪肝を呈する患者がいます。非肥満MASLDでは、内臓脂肪、糖代謝異常、食事の質、遺伝的背景、運動不足などを評価しつつ、安易な減量目標を設定しないことが重要です。低BMI、高齢、筋肉量低下、食欲不振を伴う場合には、筋肉を保つためのたんぱく質摂取やレジスタンス運動も含めた支援へ軸足を置きます。


継続できる食事療法へ多職種でつなげる

MASLDに対する食事療法の成否は、正しい情報を一度説明したかではなく、患者が日常生活の中で無理なく続けられる行動に落とし込めたかで決まります。「甘い飲み物を毎日2本から週2本へ減らす」「夕食後の菓子を果物や無糖ヨーグルトへ変更する」「週3回の揚げ物を週1回にする」「外食時は大盛りを避け、主菜を魚・豆腐・鶏肉中心にする」など、具体的で測定可能な小目標を患者と共有します。
初回指導では多くの変更を求めすぎず、最もエネルギー寄与度が高い行動を一つから二つ選びます。たとえば、毎日の加糖飲料を中止するだけで摂取エネルギーが大きく変わる患者もいれば、夕食後の飲酒とつまみが主因となっている患者もいます。食事写真、体重記録、歩数、腹囲、飲酒日記などを活用し、責めるためではなく、患者とともにパターンを把握するためのツールとして用いることが大切です。
食事療法は運動療法と切り離せません。身体活動は減量を補助するだけでなく、体重が大きく変化しない場合でも、インスリン抵抗性や肝脂肪の改善に寄与する可能性があります。有酸素運動とレジスタンス運動を、身体機能、関節疾患、心血管疾患リスク、勤務形態に応じて組み合わせます。運動が苦手な患者には、「昼食後に10分歩く」「エレベーターを一部階段にする」「テレビを見ながら椅子から立ち座りを行う」といった開始可能な行動を提案します。
医療従事者は、肝機能値の変化だけに注目せず、体重、腹囲、血圧、HbA1c、脂質、飲酒、食行動、身体活動、筋肉量、生活の質を経時的に確認します。ALTが正常化しても線維化リスクが消失したとは限らないため、必要に応じて血小板数、FIB-4 index、腹部超音波、エラストグラフィなどを用いたリスク層別化につなげます。食事療法を「我慢の治療」ではなく、肝疾患の進行と心血管イベントを抑え、長期的な健康を守る包括的治療として支援することが、非アルコール性脂肪肝患者の継続的な行動変容につながります。日本消化器病学会の患者向け資料でも、3食のバランス、食べ過ぎの回避、果糖を多く含む清涼飲料水の制限、動物性脂肪やトランス脂肪酸を含む食品への注意、青魚や緑黄色野菜の摂取、夜遅い食事を控えることが示されています。患者さんとご家族のためのNAFLD/NASHガイド




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