
薬剤性汎血球減少症の発症機序は、大きく2つの経路に分類されます。1つ目は、血幹細胞から成熟血球にいたる分化・増殖過程が、薬剤自体またはその代謝産物によって直接障害される場合です。このタイプは用量依存性を示すことが多く、抗がん剤が代表例です。抗がん剤は造血幹細胞や造血前駆細胞の分化・増殖を障害し、血球減少を引き起こします。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f03-r03.pdf
2つ目は、成熟血球が薬剤自体またはその代謝産物によって惹起される免疫学的機序によって破壊される場合です。このタイプは特異体質による非可逆性の反応を示すことがあり、投与開始から3週~5ヶ月で発症した報告が多く見られます。
特にクロラムフェニコールによる汎血球減少は、用量依存性の可逆性のタイプと、特異体質による非可逆性タイプの両方が知られており、最もよく研究されている薬剤の一つです。用量依存性の場合には、その多くは投与開始から6~10週以内に発症します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0322-10c_03.pdf
抗菌薬は薬剤性汎血球減少症の主要な原因薬剤の一つです。特にクロラムフェニコールは、薬剤性再生不良性貧血の代表例として知られています。
参考)https://himeji.jrc.or.jp/data/media/himeji-jrc/page/diagnosis/naika/20211109-2.pdf
その他の抗菌薬でも汎血球減少症が報告されています。具体的には、テトラサイクリン、ST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール)、フルシトシンなどが挙げられます。特にST合剤は、長期投与や高用量投与時にリスクが高まることが知られています。
抗菌薬による汎血球減少症では、投与開始から数週間以内に発症することが多く、発熱、感染徴候、出血傾向などの臨床症状を呈します。早期発見のためには、長期投与時には定期的な血液検査が不可欠です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0322-10c_04.pdf
抗けいれん薬と抗甲状腺薬も、薬剤性汎血球減少症の重要な原因薬剤です。
抗けいれん薬では、カルバマゼピン、ヒダントイン(フェニトイン)などが汎血球減少症を引き起こすことが報告されています。カルバマゼピンによる汎血球減少症は、免疫機序、薬物による細胞障害(中毒性)、造血障害など複数の発症機序が関与していると考えられています。
抗甲状腺薬では、メチマゾール、プロピルチオウラシル、メチルチオウラシルなどが汎血球減少症の原因となります。特にプロピルチオウラシルによる汎血球減少症は、重篤な副作用として知られており、投与開始後数週間から数ヶ月で発症することがあります。
抗甲状腺薬による汎血球減少症の発症機序は、免疫学的機序が主に関与していると考えられています。患者の遺伝的背景や免疫応答の個人差が、発症リスクに影響を与える可能性があります。
参考)http://www.procomu.jp/jsoea2012/pdf/jsoea_site_0615/s1_2_akiyama.pdf
薬剤性汎血球減少症の診断は、臨床所見、血液検査、骨髄検査の組み合わせによって行われます。
臨床所見としては、貧血、出血傾向、ときに発熱を認めます。これらの症状は、それぞれ赤血球減少、血小板減少、白血球減少(特に好中球減少)によるものです。
血液検査では、以下の基準で汎血球減少を定義します。
さらに、以下の検査所見が加われば診断の確実性が増します。
骨髄穿刺所見では、有核細胞数の減少、特に巨核球の減少とリンパ球比率の増加が特徴的です。血球の形態には、異形成を認めないことが、骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別点となります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1f01.pdf
薬剤性汎血球減少症の治療で最も重要なことは、疑わしい医薬品の服用を直ちに中止することです。それと同時に、強力な支持療法を血球減少の程度に応じて開始します。
薬剤性汎血球減少症の予防と早期発見のためには、定期的な血液検査によるモニタリングが不可欠です。
再生不良性貧血の副作用報告がある医薬品については、投薬中は4週間に1回、定期的に白血球分画を含めた血液検査を実施することが望ましいとされています。特に長期投与が必要な薬剤や、既往に血液障害の報告がある薬剤では、より頻回なモニタリングが推奨されます。
汎血球減少による貧血、出血傾向、感染症などがみられた場合には、血液検査によって本症が発見されます。本症の原因となりうる医薬品、そうでなくても長期間医薬品を投与する場合には、定期的に血液検査をおこなうことで、症状が出現する前に本症を発見することが可能です。
臨床検査(血液検査等)を頻回に行うなど、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には、減量、休薬又は投与を中止する等、適切な処置を行うことが重要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000069697.pdf
汎血球減少症を引き起こす薬剤は、抗菌薬や抗けいれん薬、抗甲状腺薬だけではありません。意外な事実として、日常的に使用されるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や抗ヒスタミン薬も原因となることがあります。
NSAIDsでは、インドメタシン、イブプロフェン、スリンダク、アスピリンなどが汎血球減少症の報告があります。特にインドメタシンは、他のNSAIDsと比較して汎血球減少症のリスクが高いとされています。
抗ヒスタミン薬では、シメチジン、ラニチジン、クロルフェニラミンなどが汎血球減少症の原因となります。シメチジンとラニチジンはH2受容体拮抗薬として胃酸分泌抑制に使用されますが、長期投与時には血液検査によるモニタリングが推奨されます。
その他の薬剤では、アロプリノール、金製剤、ペニシラミン、トルブタミド、アセタゾラミド、リチウム、キニジン、D-ペニシラミン、クロロキンなども汎血球減少症の原因となることが報告されています。
これらの薬剤は、日常的に使用される頻度が高く、汎血球減少症のリスクが認識されていない場合もあります。長期投与時や高用量投与時には、血液検査による定期的なモニタリングが重要です。
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 再生不良性貧血 - 発症機序と診断基準の詳細
PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル - 薬剤性血液障害の臨床対応
シスメックス:汎血球減少症 - プライマリケアにおける診断アプローチ

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