小児にアスピリンを使うと、わずか1週間ほどで命に関わる重い肝障害が起こることがあります。

アスピリンを含むサリチル酸系製剤は、水痘やインフルエンザにかかっている15歳未満の小児には投与しないことが原則とされています。これは昭和57年(1982年)に米国で報告された疫学調査がきっかけです。当時、サリチル酸系製剤の使用とライ症候群との関連性が疑われたことから、厚生省(当時)が調査研究を開始しました。
参考)(参考)医薬品・医療用具等安全性情報167号(報道発表資料)…
ライ症候群とは、ウイルス感染症の後に急性脳症と肝機能障害を併発する重篤な疾患です。発症のタイミングはインフルエンザや水痘の感染から5〜7日後が目安です。突然の激しい嘔吐から始まり、意識障害やけいれんへと進行します。
参考)ライ症候群 - 23. 小児の健康上の問題 - MSDマニュ…
致死率は重症度によって大きく異なります。軽症(ステージI)なら2%未満ですが、深い昏睡(ステージIVまたはV)に至ると80%以上に跳ね上がります。イメージとしては、軽い風邪と命に関わる重症の差ほど開きがあるということです。怖い数字ですね。
平成10年(1998年)12月、厚生省は15歳未満の水痘・インフルエンザ患者への投与を原則禁忌とする措置を行いました。それでもなお、サリチル酸系製剤との因果関係が否定できないライ症候群症例が複数報告され、平成13年に改めて注意喚起が行われています。つまり、保護者への説明だけでなく、医療従事者自身が処方歴を確認する習慣が重要だということです。
ライ症候群以外にも、アスピリンには小児で注意すべき副作用があります。代表的なものが血小板機能低下による出血傾向です。皮膚の異常出血(斑状出血、紫斑等)や胃腸出血が報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00000699.pdf
重篤な血液の異常がある患者には、そもそも投与しないことが禁忌とされています。これは血小板機能障害がさらに悪化するおそれがあるためです。出血傾向に加え、過敏症(蕁麻疹、発疹、浮腫、鼻炎様症状)や肝臓系の数値上昇(AST、ALT上昇)も報告されています。
腎機能障害のある小児への投与も避けるべきとされています。腎機能障害をさらに悪化させるおそれがあるためです。多面的な副作用が報告されているということですね。問診時に既往歴を漏れなく確認することが、トラブル回避の近道になります。
ここが医療従事者でも誤解しやすいポイントです。実は川崎病の急性期治療では、小児にアスピリンが標準的に使用されています。一般的な「小児=禁忌」というイメージとは正反対の運用です。
参考)https://jspccs.jp/wp-content/uploads/kawasakiguideline2012.pdf
具体的な用量は、急性期有熱期間にアスピリンとして体重1kgあたり1日30〜50mgを3回に分けて経口投与します。体重10kgの乳児なら1日300〜500mgという計算になり、想像以上にしっかりした量です。解熱後の回復期から慢性期にかけては、用量を減らして継続する形が一般的です。
なぜ川崎病ではこのリスクを取ってまで使うのでしょうか?それは、川崎病による冠動脈病変(血管の炎症によるこぶ状の変化)を防ぐ抗炎症・抗血小板作用が、アスピリンの大きなメリットだからです。リスクとベネフィットを天秤にかけた結果、川崎病治療では使用が優先されるということです。
ただし注意点もあります。川崎病でアスピリンを長期服用中の患児が、途中でインフルエンザや水痘に感染するケースです。この場合、ライ症候群のリスクが再浮上するため、一時的にアスピリンを中止しなければならない場合があります。自己判断での中止や継続は避け、必ず主治医の指示を仰ぐよう保護者に伝える必要があります。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/kv1bvc-_j
小児ライ症候群症例の詳細と厚労省の注意喚起内容はこちら(PMDA安全性情報167号)
アスピリンの禁忌・用法用量・副作用の添付文書情報はこちら(日本薬局方アスピリン)
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