肺炎球菌感染症ワクチンの医療従事者向け完全ガイド:接種対象と効果

肺炎球菌感染症ワクチンの種類、接種対象、効果、副反応を網羅的に解説。医療従事者が患者に正確な情報を提供するために必要な最新知見をまとめました。どのワクチンを選ぶべきか、明確な基準がありますでしょうか?

肺炎球菌感染症 ワクチンの基礎知識と核心ガイド

肺炎球菌ワクチンの核心ポイント3選
ワクチン種類の最新動向

PCV20・PCV21が主流となり、高齢者定期接種は2026年4月以降PCV20のみ使用可能

接種対象者の明確基準

65歳全員と60~64歳の基礎疾患保有者が定期接種対象。小児は生後2ヶ月から4回接種

臨床効果と安全性

侵襲性感染症を3~4割予防。副作用は注射部位の痛みや発熱など軽微なものが中心


肺炎球菌感染症の病態と臨床的意義


肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、髄膜炎、重症肺炎、敗血症、中耳炎、副鼻腔炎など多岐にわたる感染症を引き起こす主要な細菌病原体です。 特に免疫機能が低下している高齢者、2歳未満の乳幼児、および慢性基礎疾患を有するハイリスク集団において、侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)の発症リスクが顕著に高まります。


参考)肺炎球菌ワクチン - 16. 感染症 - MSDマニュアル家…
日本における死因統計では肺炎が第5位を占めており、その中で肺炎球菌による肺炎は重要な位置を占めています。 抗菌薬耐性株の増加も懸念されており、ペニシリン耐性株を考慮したバンコマイシン+第3世代セファロスポリン系薬による初期治療が推奨されるケースが増加しています。 この病態の重篤さと抗菌薬耐性の問題を背景に、予防的アプローチとしてのワクチン接種の臨床的意義は極めて重要です。


参考)侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococc…


使用可能なワクチンの種類と特徴

現在日本では、肺炎球菌ワクチンとして複数の製剤が使用可能です。大きく分けて、多糖体ワクチン(PPSV23)と結合型ワクチン(PCV13、PCV15、PCV20、PCV21)の2種類に分類されます。


ワクチン種類 血清型カバー率 投与方法 主な対象
PCV20(20価結合型) 20血清型 0.5mL 筋注 全年齢・高齢者定期接種
PCV21(21価結合型) 21血清型 0.5mL 筋注 成人(ハイリスク者含む)
PCV15(15価結合型) 15血清型 0.5mL 筋注 全年齢・小児定期接種
PPSV23(23価多糖体) 23血清型 0.5mL 筋注/皮下注 2歳以上・高齢者

2026年4月以降、高齢者に対する定期接種に用いるワクチンは沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)のみとなり、その他のワクチンは定期接種としては使用できません。 ハイリスク者に関しては、PPSV23は2歳以上、PCV15とPCV20は全年齢、PCV21は成人に対して適応があります。 推奨される接種パターンは、PCV20またはPCV21の単独接種、あるいはPCV15を1回接種した後にPPSV23を接種する連続接種です。


参考)肺炎球菌ワクチンの国内導入経過(2025年12月現在)|国立…
厚生労働省 高齢者の肺炎球菌ワクチン


接種対象者と接種スケジュール

接種対象者は年齢と基礎疾患の有無によって明確に定義されています。


  • 小児(18歳未満):肺炎球菌ワクチンの接種は定期予防接種に組み込まれており、生後2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、12~15ヶ月の計4回接種が標準スケジュールです。

  • 高齢者(65歳以上):65歳に到達した方は1回接種が可能。60~64歳で心臓、腎臓、呼吸器、免疫機能などの一定の基礎疾患を有する方も対象となります。

  • 参考)高齢者の肺炎球菌ワクチン|厚生労働省

  • 成人(19~64歳):慢性心疾患、慢性肺疾患、糖尿病、慢性肝疾患、アルコール依存症、喫煙者、人工内耳装着者、髄液漏のある患者など、侵襲性肺炎球菌感染症のリスクが高いハイリスク集団が接種対象です。

PCV15とPPSV23を連続接種する場合、PPSV23の接種はPCV15の接種から1年以上経過後に行うべきです。ただし、易感染状態にあるか、人工内耳を使用している、または髄液漏がある成人では、PCV15からPPSV23までの接種間隔を最短で8週間に短縮することが考慮できます。 PPSV23を再接種する場合は、前回の接種日より5年以上あけて接種する必要があります。


参考)肺炎球菌ワクチン - 13. 感染性疾患 - MSDマニュア…


臨床効果と予防効果のエビデンス

肺炎球菌ワクチンの予防効果については、複数の大規模研究でエビデンスが確立されています。 沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)は、血清型に依らない侵襲性肺炎球菌感染症全体に対して3~4割程度の予防効果があるという研究結果が報告されています。


参考)肺炎球菌ワクチンについて
長崎大学の研究では、23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)により、23種類の血清型による肺炎球菌性肺炎を33.5%減少させ、全肺炎球菌性肺炎を27.4%減少させることが明らかにされました。 さらに、日本国内の研究では、23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)はプラセボに比べ、医療介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia: NHCAP)における肺炎球菌性肺炎と肺炎全体の発症率を有意に抑制し、死亡率も低下させたことが確認されています。


結合型ワクチン(PCV)は、多糖体ワクチン(PPSV)に比べて免疫記憶を誘導する能力に優れており、より持続的な免疫応答が期待できます。特に小児においては、結合型ワクチンの導入により侵襲性肺炎球菌感染症の発生率が劇的に減少したという実データが国内外から報告されています。



副反応と安全性プロファイル

肺炎球菌ワクチンの安全性は高く、重篤な副反応は極めて稀です。 最も頻度の高い副反応は注射部位の局所反応で、痛み、発赤、腫脹などが報告されます。 これらの局所反応は通常軽度で、数日以内に自然に消退します。


全身性の副反応としては、倦怠感、筋肉痛、頭痛、関節痛、発熱、易刺激性、眠気、食欲不振、嘔吐などが挙げられます。 PCV15接種後に1つ以上の有害事象を経験するケースも報告されていますが、その多くは軽度から中等度です。


重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)は極めて稀ですが、結合型ワクチンPCV13、PCV15、PCV20、PCV21のいずれかの成分に対して、またはジフテリアトキソイド(DTaPなど)を含有するいずれかのワクチンに対して生命を脅かす重篤なアレルギー反応を起こしたことがある人は、このワクチンを接種するべきではありません。 同様に、PPSV23ワクチンの成分に対して、または前回このワクチンを接種したときにアナフィラキシー反応を起こしたことがある人も接種禁忌です。


厚生労働省は、予防接種の意義、有効性、副反応等に関する国民の皆様の疑問に的確に対応するため、「感染症・予防接種相談窓口」を開設しています(電話番号: 0120-995-956、午前9時~午後5時、土日祝日・年末年始を除く)。 医療従事者は、患者からの質問に対して正確な情報を提供し、不安を軽減する役割を担っています。





どう診る肺炎!? 画像が(ちょっと)苦手でもできる診療術