
フィブラートとスタチンの併用が最も効果的なのは、高LDL-C血症と高TG血症を合併した混合型脂質異常症の患者です。日本動脈硬化学会理事長の山下静也氏は「スタチンを投与してもTGの管理目標が達成できない患者」が併用の適応だと説明しています。
参考)スタチンとフィブラート、併用が必要な患者とは:日経DI
スタチンはLDL-C値の強力な低下効果に加え、弱いながらもTG値の低下効果を有します。しかし、スタチン単剤ではTG値が目標値まで下がらないケースが少なくありません。この状態は「残余リスク」と呼ばれますが、山下氏は「"残余"ではなく、しっかり治療すべき本質的なリスク」と強調しています。
TG値の低下効果を有する薬剤としては、ニコチン酸誘導体やω3系多価不飽和脂肪酸もありますが、現在のところTG低下効果の高いフィブラート系薬が第一選択薬と位置づけられています。
臨床現場では「まずスタチンを処方して様子を見る」のがスタンダードなアプローチです。スタチン単剤で効果不十分な場合に、フィブラートの上乗せを検討するステップが推奨されています。
フィブラートとスタチンの併用において、腎機能の評価は最も重要な安全性チェックポイントです。特に注意すべきは、eGFRではなくCCR(クレアチニンクリアランス)を基準に評価することです。
参考)https://gifu-min.jp/midori/document/576/sisitu8.pdf
腎機能別の投与基準は以下の通りです。
eGFRではなくCCRを基準とする理由は、eGFRでは低体重の人の腎機能低下を見逃す恐れがあるためです。推定CCRが不明の場合は、eGFR 50mL/min/1.73m²以下で保険薬局より情報提供を行うことが推奨されています。
特に腎排泄型のフィブラート(フェノフィブラートやベザフィブラート)では、腎機能低下時に血中濃度が上昇しやすく、スタチン併用時の筋障害リスクが高まります。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/byouki_kusuri/7358
フィブラート製剤別の腎機能基準も押さえておく必要があります。
フィブラートとスタチンの併用で最も懸念される副作用は横紋筋融解症です。しかし、実際の発症頻度は非常に低いことが分かっています。
具体的な副作用の頻度について、年間1万人中0.44人というデータがあります。つまり、10万人で4人出るかどうかという低頻度です。スタチン系+フィブラート系の併用療法では22727分の1(0.0044%)と報告されています。
参考)https://memorandum-msd.com/m-q8/
2018年まではスタチン系とフィブラート系は併用禁忌とされていましたが、副作用頻度が低いため併用は問題ないと判断され、効果は高まるから併用したほうが良いという真逆の処方が適していることになりました。
厚生労働省は2018年10月、高脂血症用薬のスタチンとフィブラートの併用について、腎機能の臨床検査値に異常が認められる患者については「原則禁忌」から削除し「重要な基本的注意」とする添付文書の改訂を指示しました。
参考)「スタチン」「フィブラート」併用の原則禁忌が解除 腎機能低下…
改訂後の添付文書には以下の注意が記載されています。
「腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者に、本剤とフィブラート系薬剤を併用する場合には、治療上やむを得ないと判断される場合にのみ併用すること。急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい。やむを得ず併用する場合には、定期的に腎機能検査等を実施し、自覚症状(筋肉痛、脱力感)の発現、CK(CPK)上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇並びに血清クレアチニン上昇等の腎機能の悪化を認めた場合は直ちに投与を中止すること。」
横紋筋融解症の初期症状として、筋肉痛、だるさ、排尿時の尿の色が真っ赤になるという症状があります。スタチン服用者5万2421例、6年間の横紋筋融解症の発症率はゼロだったというデータもあります。
参考)【稿本】スタチンとフィブラートの併用、「原則禁忌」はなぜ外れ…
「スタチン不耐に関する診療指針2018」では、CK値4倍未満は継続、4-10倍は筋症状がなければ継続、筋症状があり10倍以上なら中止となっています。
フィブラートとスタチンの併用は、単剤投与に比べて脂質プロファイルを相補的に改善する効果があります。金沢大学循環器内科の川尻剛照氏は、日本心臓病学会(JCC2011)において、6人のIII型高脂血症患者に対し両剤の併用投与を試みた結果を報告しました。
参考)スタチンとエゼチミブ、フィブラートの併用は、さらなる抗動脈硬…
その結果、両剤の併用は単剤投与に比べ、総コレステロール(TC)とTGの低下、HDL-Cの増加をもたらすことが示され、両剤は相補的に脂質プロファイルを改善することが明らかになりました。
スタチン単剤に比べ、異なる作用を有する脂質異常症治療薬の併用は、動脈硬化を抑制する脂質プロファイルに貢献する可能性が高いと結論づけられています。
フィブラートの作用機序について、フィブラートは核内受容体PPARαに作用して脂質代謝を改善します。具体的には以下の効果があります。
参考)Mechanism of action of fibrate…
これらの作用により、フィブラートはTGレベルの低下、HDL-C濃度の増加、他の多くのアテローム性動脈硬化症関連の変数を改善します。
参考)スタチンとフィブラートによる併用療法は、アテローム性混合脂質…
フィブラートとスタチンの併用には、脂質プロファイル改善以外にも意外な効果があります。それが糖尿病網膜症の進行抑制です。これは多くの医療従事者が知らない重要な事実です。
ACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)研究において、シンバスタチンとフェノフィブラートの併用が、T2DM患者のスタチン単剤投与と比較して、網膜症の進行率を大幅に減少させることが示されました。
具体的には、スタチン+フィブラートで糖尿病網膜症の進行が約4割抑制されたと報告されています。 日本人の中途失明の原因の第2位と言われる糖尿病網膜症に対して、この併用療法が新たな治療オプションとなる可能性があります。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=39522
ACCORD研究の全体結果では、スタチン/フィブラートの組み合わせはT2DM患者のCVDイベントの割合を有意に低下させませんでした。しかし、TGが高くHDL-Cレベルが低い患者のサブグループで、事前に指定された分析で可能な利点を示しました。
この事実は、フィブラートとスタチンの併用を考える際に、単に脂質プロファイルの改善だけでなく、糖尿病合併症患者の網膜症進行抑制という観点からも評価すべきことを示唆しています。
厚生労働省:HMG-CoA還元酵素阻害薬とフィブラート系薬剤の原則併用禁忌に関する添付文書改訂について
腎機能に異常がある患者に対するスタチン系薬剤とフィブラート系薬剤の併用について「原則禁忌」から「重要な基本的注意」へ改訂された経緯と、併用時の注意点が記載されています。
日経メディカル:スタチンとフィブラート、併用が必要な患者とは
日本動脈硬化学会理事長の山下静也氏による、スタチンとフィブラートの併用が必要な患者像と臨床アプローチについて詳しく解説されています。
岐阜県医師会:フィブラートとスタチンの併用について
腎機能基準(CCR 50/30)と投与中止の判断基準、eGFRではなくCCRを基準とする理由について具体的な数値で示されています。
m3.com:脂質異常症:スタチン・フィブラート併用の基準は?腎機能別の対応フロー
薬剤師の実務視点で、フィブラート追加処方時の腎機能・筋症状確認フローと、CYP3A4代謝に伴う相互作用について整理されています。
糖尿病患者における脂質異常症の治療戦略と、スタチン・フィブラート併用のエビデンスについて詳しく記載されています。
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