造血細胞移植後は、移植前に獲得した免疫が低下または消失しやすいため、再接種を前提に考えるのが基本です。不活化ワクチンは移植後3か月から6〜12か月を目安に、慢性GVHDの増悪がないことを確認して開始します。生ワクチンは原則として移植後24か月以降で、免疫抑制剤が終了し、慢性GVHDがなく、輸血やガンマグロブリン製剤の影響がないことが条件です。日本造血・免疫細胞療法学会の案内には、実地で参照すべき基本方針が整理されています。
参考)移植患者に対するワクチン接種について|一般社団法人日本造血・…接種は原則として不活化ワクチンから始めます。代表例として、DPT-IPV、肺炎球菌、Hib、B型肝炎、インフルエンザワクチンがあり、流行状況に応じて優先順位を調整します。第4版では、感染流行状況によっては不活化ワクチンを移植後3か月程度へ早める考え方も示されています。接種量や接種回数は健常者と基本的に同じで、個々の免疫回復を見ながら進めるのが要点です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588418.pdfワクチン適応を考えるうえで、慢性GVHDと免疫再構築の見極めは重要です。自然免疫は比較的早く回復しますが、獲得免疫の回復は数か月から数年かかり、特にT細胞やB細胞の再構築が遅い症例では抗体応答も鈍くなります。移植細胞源、年齢、ATG使用、GVHD、免疫抑制療法は回復速度に影響します。抗体価だけでなく、全体の免疫状態を見て判断する視点が必要です。
接種後の評価では、抗体価を参考にしつつも、それだけで発症予防を断定しないことが大切です。麻しん、風しん、水痘、ムンプス、肺炎球菌、HBVなどで検査法や解釈が異なるため、検査法ごとの特性を理解しておく必要があります。造血細胞移植患者手帳を活用すれば、接種歴や次回予定を整理しやすく、再接種の抜け漏れを減らせます。必要なら抗体陰性後の再接種や追加接種も検討します。
見落とされやすい論点は、再接種が個人予防だけでなく周囲への感染連鎖を断つ意味も持つことです。移植後患者では持続感染や抗体低下が起こりやすく、集団内の免疫の穴を埋める役割もあります。さらに、インフルエンザワクチンやSARS-CoV-2ワクチンは流行状況に応じた優先接種が実務上重要で、同時接種や間隔の扱いにも注意が必要です。臨床では「いつ打つか」だけでなく、「何を先に打つか」を設計する発想が重要です。