
絶対値は、数直線上における0からの距離を表すため、値が必ず0以上になります。絶対値記号を外す際に確認する対象は、記号の外側ではなく中身です。中身が0以上ならそのまま、中身が負なら全体の符号を反転して外します。
\(|A|\)は次のように定義されます。
| 中身Aの条件 | 絶対値の外し方 | 例 |
|---|---|---|
| \(A\geqq 0\) | \(|A|=A\) | \(|x+2|=x+2\) |
| \(A<0\) | \(|A|=-A\) | \(|x+2|=-(x+2)=-x-2\) |
たとえば\(|x+2|\)なら、まず中身が0になる \(x=-2\) を境界として考えます。\(x\geqq-2\) では \(x+2\geqq0\) なので \(|x+2|=x+2\) です。一方、\(x<-2\) では \(x+2<0\) なので \(|x+2|=-(x+2)\) となります。「負ならマイナスを付ける」と短く覚えるだけでは、括弧を省いて \(-x+2\) と誤記しやすいため、必ず \(-(x+2)\) と書いてから展開する習慣が安全です。
絶対値の中身が0である場合は、どちらの式で処理しても値が0になります。ただし、場合分けの条件は「0以上」と「負」のように重ならない形で書くと、解の重複や取りこぼしを防げます。
絶対値の基本定義と、符号によって式を分ける考え方は、以下の解説が参考になります。
絶対値記号を含む方程式・不等式の解き方|進研ゼミ高校講座
絶対値を含む不等式では、場合分け後に通常の不等式を解くだけでは十分ではありません。各場合で設定した「中身が0以上」「中身が負」という前提条件と、計算で得た範囲の共通部分を取る必要があります。
例として、\(|x-1|<x+3\) を解きます。右辺にxを含むため、\(|x-1|<a\) の公式をそのまま使うことはできません。絶対値の中身が0となる \(x=1\) を境に場合分けします。
二つの範囲を合わせると、解は \(-1<x\) です。ここで「\(x<1\) の場合に \(x>-1\) を得たから、解は \(x>-1\)」と直ちに書くのは危険です。この例ではたまたま最終的な併合で同じ結果になりますが、個々の場合では必ず前提条件との共通部分を明示しなければなりません。
解答の流れは、「境界を出す」「範囲を分ける」「絶対値を外す」「各範囲で不等式を解く」「条件との共通部分を取り、最後に和集合としてまとめる」です。絶対値を含む不等式の標準的な手順でも、最後に各場合の範囲を統合することが重要とされています。
場合分けと共通範囲の確認を段階的に説明した資料です。
絶対値を含む方程式・不等式(基本編:1次式)|おいしい数学
絶対値不等式には頻出の公式があります。ただし、機械的に適用できるのは、右辺が正の定数である場合です。\(a>0\) のとき、次が成り立ちます。
| 不等式 | 同値な不等式 | 数直線での意味 |
|---|---|---|
| \(|x|<a\) | \(-a<x<a\) | 0からの距離がaより小さい |
| \(|x|\leqq a\) | \(-a\leqq x\leqq a\) | 端点を含む区間 |
| \(|x|>a\) | \(x<-a\) または \(x>a\) | 0からの距離がaより大きい |
| \(|x|\geqq a\) | \(x\leqq-a\) または \(x\geqq a\) | 端点を含む外側の範囲 |
重要なのは、不等号の向きではなく、解の形が「内側」か「外側」かです。\(|x|<a\) は距離が短い条件なので、解は \(-a\) と \(a\) の間に入ります。\(|x|>a\) は距離が長い条件なので、解は両端の外側に分かれ、「かつ」ではなく「または」で結びます。
また、右辺の符号を先に判定すると、計算を大幅に省略できる場合があります。たとえば \(|x-4|<-2\) は解なしです。左辺は常に0以上であり、負の数より小さくなることはありません。反対に \(|x-4|\geqq-2\) は、すべての実数xで成立します。この符号判定は、特に試験で時間を節約できる見落とされやすいポイントです。
\(|x-a|<r\)(\(r>0\))は、\(-r<x-a<r\) として \(a-r<x<a+r\) に変形できます。中心が0ではなくaに移るだけであり、数直線では「aから距離r未満の点」を表します。
絶対値を「符号を変える記号」とだけ捉えると、場合分けが増えたときに手順が崩れやすくなります。そこで、絶対値を距離として数直線に戻して確認する方法が有効です。これは計算結果の検算にもなります。
たとえば \(|x-3|\leqq2\) は、xと3の距離が2以下という意味です。3を中心に左右へ2だけ進んだ範囲なので、解は \(1\leqq x\leqq5\) と直ちに分かります。式変形でも、\(-2\leqq x-3\leqq2\) より \(1\leqq x\leqq5\) です。
一方、\(|x+1|>4\) は、xと−1の距離が4より大きい条件です。境界は \(-1-4=-5\)、\(-1+4=3\) であり、解は \(x<-5\) または \(x>3\) です。「中心から遠い」という意味に沿って、両側の外側が解になります。
医療従事者にとっては、測定値と基準値の差を扱う場面に近い考え方です。例えば、ある検査値xが基準値mから許容幅d以内にある条件は \(|x-m|\leqq d\) と表せます。これは \(m-d\leqq x\leqq m+d\) と同じです。ただし、実際の臨床判断では、基準範囲、測定誤差、単位、患者背景、検査法差を一つの不等式だけで扱うことはできません。数学上の距離モデルと、臨床的な基準値判定を混同しないことが必要です。
検索上位の解説では基本公式や場合分けが中心ですが、実務的な学習では「変形の途中でxが消えたとき」の扱いで誤答が生じやすい点にも注意が必要です。xが消えた場合、それは計算不能になったのではなく、その場合分けした範囲全体で不等式が常に真か、常に偽かを判定する局面です。
例として、\(|x-2|<x-2\) を考えます。境界は \(x=2\) です。
よって、この不等式は解なしです。直感的にも、任意の実数tについて \(|t|\geqq t\) が成り立つため、\(|x-2|<x-2\) は不可能です。等号を含む \(|x-2|\leqq x-2\) なら、\(x-2\geqq0\)、すなわち \(x\geqq2\) が解になります。
反対に、場合分け後に \(0<5\) のような常に真の命題が出たなら、その場合分けの範囲全体を解として採用します。\(0>5\) や \(0<0\) のように常に偽なら、その範囲から解は出ません。xが消えたときほど、最初に置いた範囲条件を消さずに最後まで残すことが重要です。
絶対値不等式は、計算の速さよりも「中身が0になる境界」「符号に応じた外し方」「条件との共通部分」「内側・外側の数直線による検算」の4点を一貫して確認することで、安定して解けるようになります。