
ワークフローとは、仕事が開始してから完了するまでの一連の業務の流れです。単に「作業の順番」を並べたものではありません。「誰が担当するのか」「何を入力・確認するのか」「どの条件で次の担当者へ渡すのか」「承認されなかった場合にどう戻すのか」まで含めて設計します。
語源はWork(仕事)とFlow(流れ)です。実務では、稟議、休暇申請、経費精算、物品購入、契約締結など、複数人が関与し、確認や決裁が必要な業務で使われることが多い言葉です。一方で、ワークフローは事務手続きだけの概念ではありません。採用、製造、顧客対応、診療、服薬指導、検査依頼などにも存在します。
例えば、医療機関で「院内採用薬の追加」を検討する場合、現場からの要望、必要性の確認、薬事委員会資料の作成、審議、採用決定、マスタ登録、職員への周知という連続した作業が生じます。この流れを担当者・期限・判断基準とともに定義したものがワークフローです。
ワークフローを「手順書の図版」と狭く捉える必要はありません。手順書が作業方法を詳しく説明する文書であるのに対し、ワークフローは業務全体のつながり、役割分担、情報の移動を示す設計図です。まず全体像を共有し、その後に各作業のマニュアルを整備すると、教育資料としても使いやすくなります。ワークフローは、業務の手順・担当者・必要情報の流れを整理して見える化する基盤と説明されています。
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ワークフローと業務フローは似た言葉ですが、実務上は焦点が少し異なります。業務フローは、業務を完了するまでに人、物、情報、書類がどのように動くかを広く示す言葉です。対してワークフローは、申請、確認、承認、決裁、通知のように、担当者間で仕事が受け渡される手続きに重点が置かれやすい概念です。
| 項目 | ワークフロー | 業務フロー |
|---|---|---|
| 主な対象 | 申請・承認・決裁を含む仕事の流れ | 業務全体における人・物・情報の流れ |
| 重視する点 | 担当、権限、判断、引継ぎ | 作業順序、処理内容、部署間の連携 |
| 代表例 | 休暇申請、購入申請、電子稟議 | 患者受付から会計まで、検査から報告まで |
| 可視化方法 | 承認経路図、申請画面、状態遷移図 | フローチャート、スイムレーン図、工程表 |
ただし、両者を完全に分ける必要はありません。現場では「業務フローを可視化し、その中で申請・承認が発生する箇所をワークフローとして設計する」と考えると実用的です。たとえば「疑義照会」なら、処方内容の確認、医師への照会、回答の記録、処方変更の確認、患者への説明までが業務フローであり、照会記録を誰が確認し、どの条件で責任者へエスカレーションするかがワークフローになります。
用語の混乱を避けるには、図の冒頭に目的を書きます。「電子承認を速くするためのワークフロー」なのか、「患者待ち時間を短縮するための業務フロー」なのかを明記しましょう。目的が違えば、収集すべき情報も変わります。前者では権限や承認経路、後者では移動、待機、作業時間が重要です。
業務フローは人・モノ・時間・場所・データや書類の流れを含み、それを図式化したものが業務フロー図と説明されています。
参考)業務フロー図で仕事を可視化!わかりやすく書き方と具体例を紹介…
ワークフロー作成で最初にすべきことは、理想の運用を描くことではなく、現場で実際に起きている「現状」を確認することです。規程にはない電話確認、口頭での補足、特定職員だけが知る判断、Excelの二重入力などは、業務を止めないための工夫である一方、属人化や事故の芽にもなります。
図は、担当部署や職種ごとに横または縦のレーンを分ける「スイムレーン形式」が便利です。受付、看護師、医師、薬剤師、事務などのレーンを作ると、情報がどこで止まるか、同じ確認を複数職種が行っていないかを発見しやすくなります。矢印は情報や依頼の移動、ひし形は判断、四角は作業として、記号の意味を統一すると読み手の負担を減らせます。
意外に見落とされがちなのが、「作業時間」と「待ち時間」を分けて記録することです。帳票入力が3分でも、確認待ちが2日なら、改善対象は入力速度ではなく承認経路や代理承認のルールかもしれません。業務改善では、忙しい作業を自動化する前に、待ち時間の発生地点を特定することが重要です。
医療の業務プロセス可視化では、現状の標準を可視化して実施・改善し、新たな標準としてPDCAを回すことが質保証の基盤になるとされています。
参考)https://tqm1.mgmt.waseda.ac.jp/wp-content/uploads/2025/02/endo.pdf
ワークフロー改善の目的は、単純に工程数を減らすことではありません。安全性、品質、法令・院内規程への適合、現場の負担、患者・利用者への影響を保ちながら、無駄な確認や手戻りを減らすことです。「最短ルート」だけを追うと、必要なダブルチェックまで削ってしまうおそれがあります。
見直すべき代表的な問題は、次のとおりです。
改善案を出す際は、「廃止」「統合」「順序変更」「標準化」「自動化」の5方向で考えると整理しやすくなります。例えば、添付書類を減らせない場合でも、入力項目を申請内容に応じて自動表示する、承認額によって経路を分ける、進捗を申請者が確認できるようにする、といった改善は可能です。
電子ワークフローシステムは便利ですが、複雑な紙の運用をそのまま画面に移すだけでは、使いにくい仕組みになります。導入前に、不要な承認、重複する確認、誰も参照しない帳票を整理することが先決です。システム選定では、承認経路を柔軟に変更できるか、代理承認を設定できるか、差戻し履歴を追えるか、権限管理と監査ログを確認できるかを評価しましょう。
医療機関においても、ICT機器などによる業務効率化・職場環境改善を通じ、効率的で質の高い医療提供体制を構築する取組が示されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001656395.pdf
医療分野の業務効率化・職場環境改善支援事業の目的や対象経費は、厚生労働省の通知で確認できます。
厚生労働省「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」
医療現場のワークフローでは、「通常どおりに進む手順」以上に、「通常どおりに進めてはいけない条件」を明示することが重要です。患者取り違えが疑われる、検査値が緊急報告域にある、ハイリスク薬の用量に疑問がある、アレルギー情報が不明である。このような場面では、通常の承認ルートを速く回すことよりも、いったん停止し、確認し、責任者へ連絡する経路が必要になります。
ここで有用なのが、「止める権限」をワークフローに書くという発想です。医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、事務職員を問わず、定めた安全条件に該当した場合には業務を中断して確認できる、と明文化します。現場で声を上げる個人の勇気に依存せず、仕組みとして行動を支えるためです。
また、標準化は患者ごとの個別性を無視することではありません。標準ルートに「例外を検討する判断点」を組み込めば、むしろ個別対応の根拠と記録を残しやすくなります。例えば、退院時服薬指導で理解度や支援者の有無を確認し、通常説明、追加説明、多職種連携へ分岐させる設計は、画一化ではなく適切な支援のための標準化です。
さらに、ワークフローを教育に使う場合は、完成図を配布するだけでは十分ではありません。新人や異動者に「この分岐で何を確認するのか」「誰に連絡するのか」「記録がなければ何が起こるのか」をケースで考えてもらうと、暗記ではなく判断の理解につながります。厚生労働科学研究でも、業務フローの可視化・標準化・共有は、職種ごとの役割や責任権限、情報交換を明らかにし、医師・看護師などの教育・研修ツールとして利用できると報告されています。
参考)業務フロー図に基づく医療の質向上と安全確保を目指した多職種協…
医療の質向上と安全確保を目的とした、多職種協働での業務フロー図活用に関する研究成果です。
厚生労働科学研究成果データベース「業務フロー図に基づく医療の質向上と安全確保」