
腕神経叢は、上肢および肩甲帯の運動・感覚支配に関わる神経ネットワークです。基本形ではC5〜T1の前枝から始まり、近位から遠位へ向かって、神経根(roots)、神経幹(trunks)、区分(divisions)、神経束(cords)、終枝(branches)の5段階で整理します。英語圏では「Roots, Trunks, Divisions, Cords, Branches」という並びで学習され、構造を追うことが腕神経叢理解の出発点になります。
参考)Anatomy, Head and Neck: Brachi…
日本語では、「根・幹・前後に分かれる・束・枝」という流れに言い換えると覚えやすくなります。すなわち、C5〜T1の神経根が3本の神経幹に集まり、各幹が前区分・後区分へ二分し、再び3本の神経束へまとまり、最後に上肢へ向かう主要末梢神経となる流れです。単語を丸暗記するより、「合流→分岐→再合流→終枝」という形態変化を頭に置くと、白紙に描き直しやすくなります。
段階名の語呂合わせとしては、「根っこから幹へ、前後に分かれて束になり、枝が出る」が実用的です。より短く唱えるなら、「根・幹・分・束・枝」と五拍で繰り返します。英語試験や英文資料を読む機会が多い場合は、「Rugby Teams Don't Cover Bruises」の頭文字、すなわちR・T・D・C・Bを利用する方法もあります。ただし、語呂は順序の補助であり、各段階の接続規則まで別途確認することが重要です。
参考)Brachial plexus: Anatomy, bran…
腕神経叢の図を読む際は、まず「C5、C6、C7、C8、T1」という5根を左側に縦に並べます。次にC5+C6、C7、C8+T1という3つのまとまりを作り、そこから前後に枝分かれさせます。この骨格さえ毎回同じ順番で描けば、細かな側枝や支配髄節を追加する際にも混乱しにくくなります。
神経根から神経幹への移行は、腕神経叢を描くうえで最初の重要ポイントです。上神経幹はC5とC6、中神経幹はC7、下神経幹はC8とT1で構成されます。「上は56、中は7、下は81」と数字でまとめると、C5〜T1が左右から合流する配置を短時間で再現できます。表記上は「56・7・81」と覚え、C8・T1を「81」と逆順にせず、書くときには必ずC8→T1の解剖学的順序に戻す習慣をつけると安全です。
臨床場面では、神経幹と根の対応を覚えることで、上位型・下位型の腕神経叢障害を整理しやすくなります。たとえば上神経幹は主としてC5〜C6、下神経幹は主としてC8〜T1を含むため、障害高位の推定を行う際の基盤になります。ただし、実際の感覚障害や筋力低下は末梢神経間の交通枝、個体差、合併損傷、疼痛による筋出力低下などにも影響されるため、語呂だけで病変部位を断定してはいけません。
| 段階 | 基準・内容 | 覚え方・臨床上の着眼点 |
|---|---|---|
| 神経根 | C5、C6、C7、C8、T1の前枝 | 「5本の根」を縦に配置して描き始める |
| 上神経幹 | C5+C6 | 「上は56」;上位腕神経叢の整理に用いる |
| 中神経幹 | C7 | 「中は7」;単独で神経幹を形成する |
| 下神経幹 | C8+T1 | 「下は81」;実際の記載はC8→T1の順に確認する |
| 区分 | 各神経幹が前区分・後区分へ二分 | 3幹×前後で計6区分となる |
神経幹は前斜角筋と中斜角筋の間を通過する領域として理解されます。その後、各神経幹は前区分と後区分に分かれ、鎖骨後方を経て腋窩方向へ向かいます。図を描くときは、神経幹を3本にまとめた直後に、それぞれを必ず二股にする工程を入れると、区分を飛ばして神経束へ接続してしまう誤りを防げます。
StatPearls:Brachial Plexus Anatomy
前区分については、「上と中の前が外側、下の前が内側」と整理します。上神経幹の前区分と中神経幹の前区分が合流して外側神経束を作り、下神経幹の前区分は内側神経束になります。このため、暗記用の短いフレーズは「後ろ全部は後、前の上中は外、前の下は内」です。方向を示す「外・後・内」は、腋窩動脈第2部に対する位置関係に基づく名称であることも一緒に理解すると、名称を単なるラベルとして覚えずに済みます。
区分は解剖図上で存在感が薄く、神経束や終枝ほど個別の名称が目立ちません。しかし、前区分と後区分の概念は、屈筋群・伸筋群に関する大まかな理解にもつながります。教育上は、前区分を主に前方・屈筋コンパートメント、後区分を主に後方・伸筋コンパートメントに関連づけて覚えると整理に役立ちます。ただし、最終的な筋支配は個々の末梢神経と枝の走行で判断し、単純化した原則だけで例外を除外しないようにします。
腕神経叢の主要な終枝は、筋皮神経、腋窩神経、橈骨神経、正中神経、尺骨神経の5本です。「筋・腋・橈・正・尺」と並べて唱えると、五大終枝を漏れなく列挙できます。英語名ではMusculocutaneous、Axillary、Radial、Median、Ulnarであり、頭文字を使った「MARMU」という覚え方も知られています。
参考)Brachial Plexus Anatomy
ただし、終枝名の列挙だけでは診察や試験問題に十分対応できません。必ず「どの神経束から出るか」を対にして覚えます。外側神経束の主終枝は筋皮神経、後神経束の終枝は腋窩神経と橈骨神経、内側神経束の主終枝は尺骨神経です。正中神経は例外的に外側神経束由来の外側根と内側神経束由来の内側根が合流して形成されるため、「正中は外と内の共同作業」と覚えると、由来を取り違えにくくなります。
終枝の接続関係は、「外は筋、後は腋と橈、内は尺、正中は外内」という語呂にすると実用的です。白紙に腕神経叢を描く場合は、外側束の終端に筋皮神経、後束の終端に腋窩神経と橈骨神経、内側束の終端に尺骨神経を置きます。その後、外側束と内側束から斜めに線を1本ずつ出して正中神経で合流させると、典型図の構造を再現できます。
なお、神経束からは終枝以外にも短枝が出ます。たとえば後神経束からは肩甲下神経や胸背神経、外側・内側神経束からは胸筋神経や内側上腕皮神経、内側前腕皮神経などが分岐します。まず五大終枝と神経束の関係を固め、次の段階で短枝を追加する順番にすると、初学時の認知負荷を抑えられます。
腕神経叢の語呂合わせは、短時間で順番を再生するためには有効ですが、語呂だけでは臨床で必要となる病変局在、支配筋、感覚領域、鑑別まで扱えません。定着には、「唱える」「描く」「逆向きにたどる」「症例に当てはめる」という4段階の復習が有効です。特に、終枝から神経束、区分、神経幹、神経根へ逆方向にたどる練習をすると、神経損傷を考える場面で情報をつなげやすくなります。
たとえば、腋窩神経を見たら「後神経束」、さらに「3本の後区分が合流した束」と逆算します。尺骨神経であれば「内側神経束」、その近位は「下神経幹の前区分」とたどれます。正中神経では「外側束と内側束の両方から根を受ける」という例外性を思い出します。このように、各終枝を入口にして腕神経叢全体へ戻れるかを確認すると、単なる図形記憶から臨床推論の土台へ近づきます。
復習用には、毎回同じ形式で1分程度の白紙描画を行う方法が適しています。最初にC5〜T1を5本、次に「56・7・81」で上・中・下の3幹、各幹を前後へ分岐、続いて「後ろ全部は後、前の上中は外、前の下は内」で3束を作ります。最後に「外は筋、後は腋と橈、内は尺、正中は外内」を追加します。描けなかった箇所だけを確認して再描画することで、苦手な接続点を可視化できます。
臨床教育では、腕神経叢損傷を疑う外傷、牽引機転、肩周囲手術後の神経症状、上肢の筋力低下や感覚障害などを扱う際に、語呂合わせで得た全体地図が役立ちます。ただし、症状がある患者の評価では、語呂からの推測だけで判断せず、病歴、視診、徒手筋力検査、感覚評価、腱反射、画像検査、電気生理学的検査などを統合し、専門的な診断プロセスに従うことが必要です。腕神経叢は個体差もあり、臨床では解剖学的基本型を出発点として慎重に解釈します。
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