糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症の一つであり、適切な食事管理が疾患の進行を大きく左右します。 腎機能の低下度合いに応じて、たんぱく質・エネルギー・塩分・カリウムなどの栄養素制限が段階的に必要となり、各ステージに合わせたきめ細かな対応が求められます。
参考)https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/leaf_dkd_st3.pdf

糖尿病性腎症の病期分類は、日本腎臓学会のガイドラインに基づき、第1期(腎症前期)から第5期(透析療法期)まで5段階に分類されます。 各病期における栄養管理の基準は以下の通りです。
参考)腎・高血圧内科|糖尿病腎症|順天堂大学医学部附属順天堂医院
| 病期 | エネルギー (kcal/kg/日) | たんぱく質 (g/kg/日) | 食塩 (g/日) | カリウム (g/日) |
|---|---|---|---|---|
| 第1期(腎症前期) | 25~30 | 制限せず | 制限せず | 制限せず |
| 第2期(早期腎症期) | 25~30 | 1.0~1.2 | 制限せず | 制限せず |
| 第3期(顕性腎症期) | 25~35 | 0.8~1.0 | 6未満 | 制限せず |
| 第4期(腎不全期) | 30~35 | 0.6~0.8 | 6未満 | 1.5 |
| 第5期(透析療法期) | 透析基準に準ずる | 透析基準に準ずる | 透析基準に準ずる | 透析基準に準ずる |
第1期から第2期までは、糖尿病食を基本とし、血糖コントロールを最優先します。 ただし、たんぱく質の過剰摂取は避け、摂取エネルギー量の20%以下に抑えることが推奨されています。 高血圧を合併している場合は、この段階から食塩を6g/日未満に制限する予備教育が効果をあげます。
第3期以降では、腎機能の低下に伴い、たんぱく質制限が本格的に必要となります。 第3期では0.8~1.0g/kg体重/日、第4期では0.6~0.8g/kg体重/日と、段階的に制限を強化します。 これは、たんぱく質の代謝産物が腎臓に負担をかけるため、摂取量を抑制することで腎機能の低下を遅らせる狙いがあります。
エネルギー管理は、糖尿病性腎症の食事療法において最も基本的かつ重要な要素です。 標準エネルギー量は、25~35kcal/kg体重/日が目安とされ、年齢・活動量・栄養状態に応じて個別に設定します。
エネルギー不足になると、体内のたんぱく質が分解されてエネルギー源として利用されるため、かえって腎臓への負担が増大します。 したがって、たんぱく質制限を行う際は、十分なエネルギーを確保することが不可欠です。 不足するエネルギーを補うには、澱粉製品や油脂類を活用するのが効果的です。
たんぱく質管理のポイント。
参考)https://healthy-food-navi.jp/?post_type=read&p=5375
参考)https://miyazaki.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2019/08/Diabetic_nephropathy.pdf
意外な事実として、たんぱく質制限を厳格に行うほど、必ずしも予後が改善するわけではありません。 2024年のCKD栄養管理ガイドラインでは、過度なたんぱく質制限による栄養不良のリスクが指摘されており、0.6g/kg/日未満の制限は慎重に行うべきとされています。
参考)https://jsn.or.jp/data/gl2024_ckd_ch08.pdf
日本腎臓学会 成人CKD患者への栄養管理ガイドライン(2024年版)
このリンクには、最新のCKD栄養管理の基準とエビデンスが詳細に記載されています。
食塩制限は、糖尿病性腎症の進行阻止において、血糖コントロールと並ぶ重要な柱です。 高血圧は腎機能低下を加速させるため、第3期以降では食塩を6g/日未満に管理することが強く推奨されます。
日本高血圧学会のガイドラインでは、1日6g未満の食塩摂取が目標とされていますが、実際の平均摂取量は10g前後と、目標を大きく上回っています。 したがって、意識的な減塩対策が不可欠です。
減塩の実践テクニック。
第4期以降では、腎機能の低下に伴いナトリウム排泄障害が進行するため、より厳格な食塩制限(5~7g/日)が必要となります。 浮腫や心不全を合併している場合は、水分制限も併せて行う必要があります。
カリウム制限は、第4期(腎不全期)から本格的に必要となる栄養管理です。 腎機能の低下により、カリウムの排泄が障害され、高カリウム血症をきたすリスクが高まります。 高カリウム血症は不整脈や心停止を引き起こす危険な状態であるため、注意深い管理が求められます。
カリウム制限の基準。
カリウムを多く含む食品の例。
カリウム制限の工夫。
多くの患者さんは、第3期(顕性腎症期)以降に本格的な食事制限が必要になると認識していますが、実際には第1期・第2期の段階から、たんぱく質の過剰摂取を避け、食塩制限の予備教育を行うことが、その後の腎機能低下速度を大きく左右します。
この論文には、病期別の栄養基準と早期介入の重要性に関するエビデンスが記載されています。
最後に、各ステージで実践できる具体的なメニュー例と調理法を紹介します。
【第1期・第2期(腎症前期・早期腎症期)のメニュー例】
ポイント。
【第3期(顕性腎症期)のメニュー例】
ポイント。
【第4期(腎不全期)のメニュー例】
ポイント。
日本糖尿病協会 糖尿病腎症の食事療法リーフレット
このリンクには、病期別の具体的な食事例と調理法が詳しく記載されています。