トリアージ(Triage)とはフランス語の「選別・分類」を語源とし、大規模災害や多数傷病者発生時に、重症度・緊急度に応じて治療や搬送の優先順位を決定することを指します。 個々の患者に対して最善を尽くす通常医療の発想と根本的に異なり、「最も多くの命を救う」という集合的な目標が最優先されます。
参考)トリアージとは
この概念は軍事医学に起源を持ち、19世紀ナポレオン戦争時のフランス軍外科医ドミニク・ラレーが体系化したとされています。 現代の医療現場では、大規模災害だけでなく、救急外来の日常業務「院内トリアージ」にも広く応用されています。
つまり、トリアージは「誰を諦めるか」ではなく「誰を最初に救えるか」を判断するシステムです。
医療資源(スタッフ・医薬品・手術室など)が極度に限られた状況で、生存可能性が高い傷病者を優先することで、全体の救命数を最大化する点に本質的な意義があります。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00208.html
トリアージでは傷病者に4色のタグを装着し、治療・搬送の優先順位を視覚的に共有します。 色の意味は以下の通りです。
参考)【解説】トリアージとは?4色タグの優先順位・START法・企…
| タグの色 | 区分名 | 状態の目安 | 対応 |
|---|---|---|---|
| 🔴 赤(第1順位) | 最優先治療群 | 生命危機があるが、処置により救命可能 | 直ちに治療・搬送 |
| 🟡 黄(第2順位) | 待機的治療群 | 重症だが、数時間以内であれば対応可能 | バイタル監視しつつ待機 |
| 🟢 緑(第3順位) | 軽症群(歩行可能群) | 軽傷で自力歩行できる | 後回しでも対応可能 |
| ⬛ 黒(第0順位) | 不処置群・死亡群 | 死亡、または救命の見込みが極めて低い | 原則として処置せず |
黒タグは「死亡確認」とほぼ同義の判断です。 この判断は医師だけでなく、看護師・救急救命士も行えるよう訓練されており、現場では速やかな色付けが求められます。
参考)https://www.gifu-med.jrc.or.jp/file/InHospitalTriageGuidelines.pdf
現場で最も広く用いられるのは「START法(Simple Triage And Rapid Treatment)」です。 1人あたり30秒以内での評価を目標とし、以下の3ステップで判定します。
1. 歩行の可否:自力歩行できれば緑(軽症)
2. 呼吸の有無:呼吸なし→気道確保後も呼吸なし→黒。気道確保で呼吸再開→赤
3. 循環と意識:橈骨動脈触知・CRT(毛細血管再充満時間)2秒以内かつ指示に従えるか→黄、それ以外は赤
これが基本です。
院内トリアージでは「バイタルサインチェック→問診・トリアージ票記入→緊急度判定」の手順を踏み、トリアージにかける時間は1患者あたり3分を目安とします。 超緊急(CPA・ショックバイタル)は「ただちに処置」、最緊急は「15分以内」、緊急は「1時間以内」というように対応時間が明確に定義されています。
アンダートリアージとは、実際より低い緊急度に分類してしまうことです。 これは見逃し・遅延治療につながり、患者の死亡リスクを直接高める最も危険なエラーです。
参考)https://fasd.jp/files/libs/285/201511131614322136.pdf
痛いですね。逆に、オーバートリアージ(過大評価)は医療資源の無駄遣いにつながりますが、許容範囲は広いとされています。 基準値として「アンダートリアージ5%未満、オーバートリアージ50%未満」が目標として示されることがあります。
再トリアージを怠ることも重大なリスクです。状態は刻一刻と変化するため、院内トリアージでは原則60分ごとの再評価が推奨されています。 これを怠ると「黄→赤」への変化を見逃し、手遅れになるケースがあります。
アンダートリアージ防止に注意すれば大丈夫です。システマティックなチェックリストと再評価の習慣化が、最大の防止策です。
アンダートリアージのリスク管理のためには、岐阜赤十字病院などが公開しているトリアージガイドラインの「緊急度・重症度判別フローチャート」を施設単位で整備し、スタッフ全員が参照できる環境を整えることが推奨されます。
岐阜赤十字病院の救急外来トリアージガイドライン(緊急度判定フローチャートや運用手順の詳細を参照可能)。
救急外来トリアージガイドライン(岐阜赤十字病院・PDF)
「トリアージ=災害時のみ」という認識は、実務上では正確ではありません。 院内トリアージは救急外来での日常業務として定着しており、平時でも毎日行われています。
両者の違いを整理すると以下のようになります。
| 比較項目 | 災害トリアージ | 院内トリアージ |
|---|---|---|
| 実施場所 | 現場・野外 | 救急外来・院内 |
| 実施者 | 救急救命士・DMAT隊員など | 看護師・医師・コメディカル |
| 評価方式 | START法が主流 | JTAS・院独自基準など |
| 評価時間の目安 | 30秒/人 | 3分/人 |
| 再評価サイクル | 状況次第 | 原則60分ごと |
これは使えそうです。
院内トリアージは看護師だけが担うものではなく、医師・コメディカル・事務職員との「チーム医療」として機能させることが重要です。 特に夜間・休日の管理看護師(係長)がトリアージ担当となる施設では、孤立した判断にならないよう、報告・連絡体制を事前に整備しておく必要があります。
また、法的観点からも、院内トリアージで診察前に患者が急変・死亡した場合、適切なトリアージ記録があるかどうかが施設側の対応評価に直結します。 記録の正確性と保存は義務として認識する必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002umg2-att/2r9852000002umm7.pdf
記録が条件です。どの現場でも「記録なき判断は判断なし」という意識を持つことが、医療安全の基本となります。
厚生労働省の院内トリアージに関する資料(法的位置づけ・施設要件の根拠として参照可能)。
院内トリアージについて(厚生労働省・PDF)