低体温症は、深部体温が35℃未満に低下した状態です。単に手足が冷たい、寒いと訴える状態とは区別し、原則として深部体温に基づいて評価します。皮膚温、腋窩温、口腔温は環境温や末梢循環の影響を受けやすく、特に寒冷曝露後、ショック、末梢循環不全がある症例では深部体温を正確に反映しないことがあります。医療機関では、患者の状態と利用可能な機器に応じ、直腸温、膀胱温、食道温などを用いて評価します。
偶発性低体温症は冬季や屋外だけの問題ではありません。高齢者が暖房の不十分な住居で長時間過ごすケース、転倒後に動けなくなったケース、飲酒後の屋外・浴室での曝露、雨天や水没による濡れ、敗血症、低血糖、甲状腺機能低下症、副腎不全、脳血管障害、鎮静薬・睡眠薬・抗精神病薬・アルコールなどによる体温調節障害でも生じます。病歴聴取では、低温環境への曝露時間だけでなく、衣服の濡れ、栄養状態、活動不能時間、服薬内容、飲酒、基礎疾患、感染徴候を確認することが重要です。
低体温症では、体温低下に伴って中枢神経機能、呼吸、循環、代謝、凝固能が段階的に抑制されます。重症度は温度だけで決めず、意識状態、シバリングの有無、循環動態、呼吸状態、不整脈、外傷や中毒の併存、患者の脆弱性を合わせて評価します。深部体温35℃未満を低体温症とし、症状はシバリングや嗜眠から錯乱、昏睡、心停止まで進行し得ることが示されています。MSDマニュアル プロフェッショナル版:低体温症
参考)低体温症 - 22. 外傷と中毒 - MSDマニュアル プロ…
低体温症のチェックでは、「震えているから意識は大丈夫」「体温が低いから眠いだけ」と短絡的に解釈しないことが重要です。まずABCDEの考え方で気道、呼吸、循環を確認し、その上で深部体温、意識レベル、会話能力、運動失調、皮膚所見、シバリング、不整脈の有無を反復評価します。特に、会話の遅延、呂律不良、判断力低下、歩行失調は、低体温による中枢神経機能低下を示す実用的な観察所見です。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 深部体温 | 35℃未満で低体温症を疑う | 可能な限り低体温域を測定できる体温計を用いる |
| シバリング | 強い震えは初期にみられやすい | 震えの消失は改善とは限らず、重症化の可能性を考える |
| 意識・認知 | 傾眠、反応遅延、錯乱、見当識障害、昏睡 | GCS、JCS、会話内容、指示理解で経時的に記録する |
| 運動機能 | 動作緩慢、巧緻運動障害、歩行失調、転倒 | 立位・歩行を無理に行わせず、安全確保を優先する |
| 呼吸 | 呼吸数低下、浅呼吸、呼吸抑制 | パルスオキシメトリだけに依存せず、胸郭運動も観察する |
| 循環 | 徐脈、低血圧、不整脈、末梢循環低下 | 重症例では刺激により不整脈が誘発されることがある |
| 皮膚・末梢 | 冷感、蒼白、チアノーゼ、湿潤した衣類 | 凍傷、圧迫創、外傷、褥瘡、長時間臥床の所見も確認する |
初期には激しいシバリングや歯の震えがみられますが、体温低下が進むと動作は緩慢かつぎこちなくなり、反応時間の延長、思考の混濁、判断力低下が出現します。さらに進行すると、寒さの自覚が乏しくなり、震えが消失し、嗜眠、錯乱、幻覚、昏睡へ至ることがあります。呼吸と心拍も遅くなり、重症では心室細動や心静止のリスクが生じます。MSDマニュアル:低体温症の症状と診断
低体温症が疑われる患者で、意識障害、会話の成立困難、歩行不能、シバリング消失、呼吸の遅さ・浅さ、徐脈、血圧低下、胸部不快感、失神、不整脈、けいれん、外傷、溺水、重度の低血糖、薬物・アルコール中毒を認める場合は、重症化または別の重篤な病態の併存を前提に扱います。現場での観察だけで安全と判断せず、救急要請と搬送を検討すべき所見です。
重症低体温症では、心筋が刺激に対して過敏となり、不必要な移動や乱暴な体位変換が不整脈の誘因になる可能性があります。そのため、患者を歩かせない、不要な脱衣や四肢への強いマッサージを避ける、体幹を中心に保温する、継続的に意識・呼吸・脈拍を観察する、といった対応が重要です。国立病院機構岩国医療センターの資料でも、移動や着替えの際に強い刺激を避け、不整脈症状を観察する必要性が示されています。国立病院機構岩国医療センター:高齢者の偶発性低体温症
参考)https://iwakuni.hosp.go.jp/files/000245580.pdf
病院前・施設内を問わず、最初の目的は熱喪失を止め、呼吸・循環の悪化を見逃さず、安全に医療へつなぐことです。寒冷環境から移動させ、濡れた衣類を慎重に除去し、皮膚の水分を拭き取って、乾いた衣服、毛布、保温シートなどで頭部を含む全身を保温します。保温は手足だけではなく体幹を重視し、冷気・風・床面との接触を遮断します。
意識が清明で、嚥下が確実であり、嘔吐リスクが低い患者では、温かい飲み物を少量ずつ摂取させることが選択肢になります。ただし、意識低下、嚥下障害、嘔気・嘔吐、呼吸状態不良がある場合は、誤嚥を避けるため経口摂取を行いません。アルコールは末梢血管拡張、判断力低下、熱喪失の増加につながり得るため、保温目的で飲ませるべきではありません。
低体温症の診療・看護・薬剤管理では、初回測定値だけでなく、発見時刻、推定曝露時間、環境温、濡れの有無、衣服の状態、保温開始時刻、体温推移、意識レベル、呼吸数、脈拍、血圧、SpO2、心電図所見、尿量、血糖値、服薬歴、飲酒歴を時系列で記録します。復温中は、見かけ上の皮膚温上昇のみで判断せず、深部体温と循環動態の推移を確認します。
原因検索では、寒冷曝露が明白でも「環境要因のみ」と決めつけないことが大切です。低血糖、敗血症、甲状腺機能低下症、副腎不全、脳卒中、外傷、薬物中毒、鎮静薬や睡眠薬の影響、アルコール、栄養不良、脱水などが低体温の誘因または増悪因子となり得ます。とくに高齢患者では、感染症で発熱せず低体温として現れることもあるため、バイタルの異常、せん妄、食事・飲水量低下、機能低下を合わせて評価します。
退院支援や施設での再発予防では、居住環境の室温、暖房器具の安全性、寝具、衣類、入浴時の見守り、冬季の飲酒、服薬によるふらつき・眠気、認知機能、独居かどうか、緊急連絡体制を確認します。患者・家族には、「震えが止まったら回復」と誤解しないこと、ぼんやりする・受け答えが遅い・歩けない・息や脈が遅い場合は救急要請をためらわないことを具体的に伝えます。低体温症は温度の異常であると同時に、意識・循環・生活環境・基礎疾患を横断して評価するべき救急病態です。

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