
水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))は、アルミニウムの水酸化物の一つで、ベーマイト(boehmite)としても知られる無色の結晶性化合物です。 化学式は AlO(OH) で表され、アルミナ一水和物に分類されます。
水酸化アルミニウムには複数の結晶形が存在し、それぞれ溶解度積(Ksp)が異なります。 ベーマイトの pKsp は 34.0 と報告されており、これはギブサイト(水酸化アルミニウム Al(OH)₃)とは異なる物性を示します。
参考)水酸化アルミニウムの溶解度に及ぼす影響(その1−結晶形) :…
医療分野で使用される水酸化アルミニウム製剤は、胃酸を中和することにより制酸作用を示します。 炭酸水素ナトリウムとは異なり、炭酸ガスを発生せず、二次的な胃酸分泌が少ないという特徴があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00010209.pdf
胃内でゲル状となり、胃粘膜に対し被覆保護・吸着作用をあらわします。 胃内の塩酸と反応して AlCl₃ となり収斂作用を示します。 中和反応式は以下の通りです。
\ \text{Al(OH)}_3 + 3\text{HCl} \rightarrow \text{AlCl}_3 + 3\text{H}_2\text{O} \
乾燥水酸化アルミニウムゲルとして、通常、成人 1 日 1~3g を数回に分割経口投与します。 1g は 0.1mol/L 塩酸 250mL 以上を中和する能力があります。 胃酸度を pH3.5~4.2 に維持します。
参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000000HnaJAAS
中和速度は炭酸水素ナトリウムに比べれば遅いものの、中和に当たって二酸化炭素を遊離せず、二次的な酸分泌を起こさないという利点があります。 また、吸収されることも少ないため、全身性の副作用リスクが比較的低いと言えます。
粘膜を被覆保護し、ペプシンやトリプシンなどを吸着し、それらを不活性化するなど消化性潰瘍治療に適しています。 収れん作用を呈し、胃粘膜の保護に寄与します。
ベーマイトの粒子サイズと表面積は、製剤の胃粘膜保護効果に重要な影響を及ぼします。炭酸ガス法によって生成する水酸化アルミニウムの性状を検討した研究では、沈殿物は一般に無定形であるが、温水熱成により容易にベーマイトゲルになることが示されています。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205419301632
このベーマイトゲルは粒子の小さい表面積の大きい高活性な物質です。 たとえば熟成温度 80℃で 30 分程度熟成することにより表面積は約 3 倍増加します。 微粒子の分散性のよい高活性な水酸化アルミニウムの生成条件は、低濃度のアルミン酸ナトリウム液(0.1~0.2mol/l)、反応温度 20~40℃で生成沈殿物を作り、熟成処理(80~90℃で 100 分間)した試料が最適と報告されています。
擬ベーマイト(γ'-AlOOH)は、微粒子、不完全な結晶、薄い折り畳まれた層状層を備えた水酸化アルミニウムの一種です。 その水性状態はチキソトロピー性ゲルであり、高い表面積比と大きな細孔容積が特徴です。
参考)水酸化アルミニウムと疑似ベーマイトの違いは何ですか? - ニ…
ベーマイトは層間構造水と結晶水しか持たず、表面吸着水も有さないため、擬ベーマイトとは物性および用途に大きな違いをもたらします。 擬ベーマイトとベーマイトの主な違いは、粒径にあります。
参考)https://ja.avant-al.net/news/types-of-hydrated-alumina-57166540.html
乾燥水酸化アルミニウムゲルを併用した群は投与後 4 時間まで胃障害を抑制しました。 投与後 4 時間まで胃の中に滞留していました。 このことから、AL ゲルは、胃粘膜に対して持続的な保護作用を示すことが確認されています。
参考)https://lion-corp.s3.amazonaws.com/uploads/tmg_block_page_image/file/5154/2017112801.pdf
水酸化アルミニウム製剤の副作用として、消化器症状(便秘、悪心・嘔吐)が頻度不明で報告されています。 長期投与によりアルミニウム脳症、アルミニウム骨症、貧血等があらわれるおそれがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/s0117-9d08.html
特に注意すべき点は、アルミニウムが消化管内でリン酸塩と結合し、その吸収を阻害する作用です。 リン酸塩の欠乏している患者では、この作用により低リン血症が悪化するリスクがあります。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/DrugInfoPdf/00065766.pdf
厚生労働省 制酸薬 添付文書情報
参考:制酸成分ごとの相互作用、副作用、禁忌事項が記載された公式情報
腎障害のある患者では、長期投与によりアルミニウムの体内蓄積を招き、アルミニウム脳症やアルミニウム骨症というような深刻な副作用が報告されています。 リン吸着薬としてのアルミニウム製剤は、安全性の問題から現在では限定的な使用に留められています。
参考)https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/22-2/22-2_198.pdf
透析患者におけるアルミニウムの体内蓄積リスクは特に高く、定期的なモニタリングが必要です。 高齢者でも同様のリスクが高まるため、慎重な投与管理が求められます。
日本透析医会 リン低下薬 uptodate
参考:アルミニウム製剤の長期使用による透析患者のアルミニウム蓄積リスクに関する詳細
水酸化アルミニウム製剤は、多くの薬剤と相互作用を示すことが知られています。 テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗菌剤、イソニアジド、ジギタリス製剤、フェニトイン、フェノチアジン誘導体、β-遮断剤、非ステロイド系解熱消炎鎮痛剤等の吸収を遅延又は阻害します。
この相互作用の機序は、アルミニウムイオンがこれらの薬剤と錯体を形成し、消化管からの吸収を低下させるためです。 ペニシラミン、ミコフェノール酸モフェチル、甲状腺ホルモン剤、胆汁酸製剤、キニジン等も同様の影響を受けます。
クエン酸製剤との併用により血中アルミニウム濃度が上昇するリスクがあります。 血清カリウム抑制イオン交換樹脂との併用では、併用薬剤の効果が減弱します。
臨床的には、これらの相互作用を避けるために、水酸化アルミニウム製剤と他の薬剤の投与時間を 2 時間以上離すことが推奨されます。 特に抗菌剤や抗てんかん薬、心血管系薬剤との併用では注意が必要です。
日経メディカル 合成ケイ酸アルミニウム 薬効分類・副作用
参考:アルミニウム製剤の相互作用、禁忌、副作用に関する詳細情報
非ステロイド性抗炎症薬が誘発する胃障害に対する制酸剤として乾燥水酸化アルミニウムゲルを使用する場合、NSAIDs との相互作用にも注意が必要です。 制酸作用と持続的な保護作用を確認した研究では、投与後 4 時間まで胃の中に滞留し胃障害を抑制しました。
意外な点として、水酸化マグネシウムとの配合剤では、MgO を併用した群は胃障害を抑制しませんでした。 これは、マグネシウム製剤が下痢傾向を示すため、アルミニウム製剤の便秘傾向と相補的に作用する一方で、胃粘膜保護効果自体はアルミニウム製剤単独の方が優れている可能性を示唆しています。
参考)http://qws-data.qlife.jp/meds/interview/2349101D1172/
ケアネット 乾燥水酸化アルミニウムゲル細粒「ケンエー」効能・副作用
参考:乾燥水酸化アルミニウムゲル製剤の効能効果、副作用、使用上の注意