「総義歯 保険点数」を調べる際、最初に区別したいのは、総義歯そのものの製作に対する点数と、製作前後の診療プロセスで算定する点数です。保険診療における総義歯は、有床義歯に区分され、上下顎をそれぞれ独立した装置として取り扱います。したがって、上下顎の総義歯を同時に新製するケースでは、原則として各顎の義歯製作に係る診療行為を個別に確認する必要があります。
令和8年度診療報酬改定の情報では、総義歯に関連する評価体系として、補綴時診断、印象採得、咬合採得、仮床試適、装着、新製有床義歯管理料、歯科口腔リハビリテーション料1などが関係します。患者へ「保険の総義歯はいくらか」と説明する場面でも、義歯本体だけを単純に10円換算して終えるのではなく、診察料、検査、画像、必要な処置、材料、人工歯料、各種管理料などを含めた総額が症例ごとに異なることを明確にすることが重要です。診療報酬では、算定された総点数に10円を乗じた額が医療費の基礎となり、患者負担は保険負担割合に応じて決まります。
また、総義歯の製作は、無歯顎という歯数分類だけでは十分に把握できません。残根の処置、抜歯後の治癒状況、顎堤形態、粘膜の状態、顎間関係、咬合高径、旧義歯の使用状況、顎関節症状、口腔機能低下、介護状況などを診査し、補綴計画を立案する必要があります。請求実務においても、各診療行為の算定根拠が診療録上で確認でき、実施内容とレセプト記載に矛盾がない状態を保つことが基本です。
厚生労働省「歯科診療報酬点数表に関する事項」
令和8年度改定では、有床義歯管理の評価体系が見直されました。特に実務上の重要点は、新製有床義歯管理料の算定単位が「1口腔につき」から「1装置につき」へ変更されたことです。新製した有床義歯を装着した月に、当該義歯を製作した保険医療機関が、義歯の取扱いについて患者または家族等へ必要な説明を行い、その内容を文書で提供した場合に、1回に限り算定します。局部義歯・総義歯のいずれも140点です。
従来の管理料では、適合性等の検査と、取扱い・保存・清掃方法などの指導を一体として整理する運用でした。令和8年度改定後は、新製有床義歯管理料で評価する説明内容と、歯科口腔リハビリテーション料1における口腔機能の回復または維持を主眼とした調整・指導とを区別する考え方がより明確になっています。新製義歯の着脱、保管などの説明にとどまらず、咬合、疼痛、咀嚼、発音、使用感などに関する調整・機能訓練を行う場合は、要件を満たす範囲で歯科口腔リハビリテーション料1の算定を検討します。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 補綴時診断料 | 新製の補綴時診断は1装置につき90点 | 新製以外の補綴時診断は70点 |
| 新製有床義歯管理料 | 総義歯は1装置につき140点 | 装着月に1回限り。説明と文書提供が必要 |
| 歯科口腔リハビリテーション料1 | 有床義歯の場合は1口腔につき月1回114点 | 調整または指導内容の要点を診療録に記載 |
| 3次元プリント有床義歯 | 1顎につき4,000点 | 届出施設での新設評価。通常の総義歯とは別区分 |
| 歯科技工所ベースアップ支援料 | 1装置につき15点 | 届出・委託条件などの要件確認が必要 |
なお、上表のうち3次元プリント有床義歯は、コンピュータ支援設計・製造ユニットおよび液槽光重合方式の製作装置を用いて設計・製作・装着する場合の新設区分です。通常のレジン床総義歯と同一の算定構造ではなく、必要な施設基準、製作方法、包含される技術料を個別に確認しなければなりません。3次元プリント有床義歯では、製作時に実施する印象採得、咬合採得、仮床試適、装着などの基本的技術料は所定点数に含まれ、別算定できないとされています。
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要(歯科)」
総義歯新製の請求では、来院日ごとに「何を実施したか」を起点として点数を組み立てます。補綴時診断では、欠損補綴を行うための診察・診断・治療計画を整理し、新製の場合は1装置につき90点が示されています。上下顎総義歯を製作する場合でも、同じ日に診断を行ったからといって、各装置に係る診断内容が曖昧にならないよう、対象装置、補綴計画、患者への説明事項を診療録に明確に残すことが必要です。
その後、印象採得、咬合採得、仮床試適、義歯製作、装着という補綴治療の流れへ進みます。総義歯は症例により来院回数が大きく異なりますが、再診料の扱い、同日に行った複数行為、実施した検査や処置、装着時の確認事項を混同しないことが大切です。とくに、抜歯後の創傷治癒や義歯床下粘膜の状態が安定していない場合、急いで最終義歯を製作するよりも、治療計画全体を再評価するほうが、患者安全と長期予後の観点で適切なことがあります。
臨床的には、上顎総義歯では辺縁封鎖、後堤、床縁形態、発音への影響などが、下顎総義歯では顎堤吸収、舌房、顎舌骨筋線、レトロモラーパッド、舌位、咬合平面などが問題となりやすい領域です。単に「痛いので削った」「当たるので調整した」と記載するのではなく、部位、粘膜所見、調整部位、咬合状態、指導内容、次回確認事項などを記録することで、継続管理と請求の双方に資する診療録となります。
新製有床義歯管理料は、新製義歯を装着した月に、当該義歯を製作した医療機関で1回に限り算定する評価です。算定には、患者または家族等に対して義歯の取扱いについて必要な説明を行い、その内容を文書提供することが求められます。総義歯では、着脱方法、保管方法、洗浄方法、就寝時の取扱い、破損時の対応、痛みや緩みが出た場合の受診目安などを、患者の理解力や生活環境に合わせて説明することが実務上有用です。
一方、歯科口腔リハビリテーション料1の有床義歯に係る評価は、義歯による口腔機能の回復または維持を主眼とする調整または指導です。令和8年度改定後は1口腔につき月1回114点となり、新製有床義歯管理料を算定した同月であっても、当該義歯の調整または指導を行った場合には、同日であっても算定して差し支えない取扱いが示されました。ただし、両者を機械的に併算定するのではなく、管理料における取扱い説明と、リハビリテーション料における機能改善のための調整・指導が、それぞれ実際に行われ、記録されていることが前提です。
例えば、装着日に新製総義歯の着脱・保管・清掃について文書を交付し、新製有床義歯管理料を算定することは可能です。同日に、咬合時疼痛や咀嚼困難を訴える患者に対し、咬合接触を確認して義歯床または咬合面を調整し、咀嚼時の注意点や義歯使用訓練について指導した場合は、歯科口腔リハビリテーション料1の算定を検討します。この際は、調整・指導の内容、患者の状態、口腔機能上の目的を診療録に残すことが不可欠です。
なお、義歯の調整は「装着直後だけ」の行為ではありません。顎堤の変化、体重減少、粘膜の炎症、唾液量の変化、手指巧緻性の低下、認知機能の変化などにより、以前は安定していた総義歯でも不適合や咀嚼障害が生じます。患者の主訴だけでなく、義歯の維持・安定、床下粘膜、咬合関係、清掃状態、食形態、誤嚥リスクなどを含めて評価し、必要に応じて修理、床裏装、再製作、口腔機能管理を検討します。
総義歯に関する請求では、点数そのものだけを確認しても十分ではありません。診療報酬請求は、診療録、歯式、画像、技工指示書、患者提供文書、レセプト摘要欄の情報が相互に整合していることが重要です。とくに、補綴処置は診療期間が複数月にわたることも多いため、開始時の計画と装着時の内容、途中で発生した治療方針の変更を追跡できる記録が求められます。
令和8年度の通知では、新製有床義歯管理料または歯科口腔リハビリテーション料1を算定している患者に対して継続的な口腔管理を行った場合、歯科疾患管理料を算定できることが示されています。また、有床義歯に係る口腔管理のみを行った場合には、診療報酬明細書の摘要欄にその旨を記載する取扱いが示されています。これは、義歯管理と、う蝕・歯周病・口腔粘膜疾患・口腔機能低下などを含む総合的な継続管理との関係を整理するうえで重要なポイントです。
医療機関内では、歯科医師、歯科衛生士、受付・医療事務、歯科技工所の間で情報の断絶が起きないようにしましょう。たとえば、患者に渡した義歯取扱い文書の控えが診療録に保管されているか、歯科衛生士が行った指導内容が主治医の指示・報告とつながっているか、技工物の種類と技工指示書の内容が診療録・請求内容と整合しているかを、院内チェックの対象にします。
総義歯の保険点数は改定ごとに見直される可能性があります。ウェブ上の早見表や過去の解説記事のみを根拠にせず、算定時点で有効な告示、通知、疑義解釈、地方厚生局の案内、自院が契約するレセプトコンピュータの更新情報を確認する運用が安全です。とくに新設項目、施設基準が伴う項目、材料料、装置単位・口腔単位の違い、併算定可否は、旧制度の記憶による誤入力が起こりやすいため、院内マニュアルも改定ごとに更新する必要があります。

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