リケッチア症の症状と診療時の重要ポイント

リケッチア症は発熱、発疹、刺し口を主徴とするダニ媒介感染症です。つつが虫病と日本紅斑熱を中心に、症状の違い、診察時の観察点、検査、早期治療の考え方を医療従事者向けに整理します。見逃しを減らすために何を確認すべきでしょうか?

リケッチア症の症状と診療で押さえる核心

発熱発疹患者で疑う要点
三主徴を系統的に確認

発熱、発疹、刺し口は重要な手掛かりであり、問診と全身の皮膚診察を組み合わせて評価します。

地域・季節・野外活動歴を聴取

ダニやツツガムシへの曝露は自覚されないことも多く、農作業、草むら、山林への立入りを確認します。

確定診断を待たない初期対応

臨床的に強く疑う場合は、重症化を防ぐため検査結果を待たず適切な抗菌薬治療を検討します。


リケッチア症とは何か:国内で重要な疾患と感染経路

リケッチア症は、リケッチア科などに属する偏性細胞内寄生細菌による感染症の総称です。病原体は宿主細胞の内部で増殖し、ヒトでは主にダニ、ツツガムシ、シラミなどの節足動物による刺咬を介して感染します。日本の臨床現場では、ツツガムシ病リケッチアであるOrientia tsutsugamushiによるつつが虫病と、日本紅斑熱リケッチアであるRickettsia japonicaによる日本紅斑熱を優先して想起する必要があります。
両疾患は、発熱、発疹、刺し口を代表的な三主徴とします。ただし、すべての患者で三主徴が明瞭にそろうとは限らず、刺し口は頭部、腋窩、鼠径部、陰部、背部などの確認しにくい部位に存在することがあります。ダニ刺咬の自覚がない患者も少なくないため、「刺された記憶がない」ことのみで除外しない姿勢が重要です。国立健康危機管理研究機構は、リケッチア感染症について、発熱、頭痛、倦怠感、発疹を主な症状とし、重症化すれば死亡することがあると示しています。


参考)リケッチア症|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
つつが虫病と日本紅斑熱はいずれも感染症法上の4類感染症であり、診断した医師には直ちに保健所へ届け出る義務があります。臨床像だけでは両者の確実な区別が困難な場合があるため、治療開始と並行して適切な検体採取と検査依頼を進めることが求められます。


参考)IDWR 2021年第36号<注目すべき感染症>ダニ媒介感染…
国立健康危機管理研究機構:リケッチア症


リケッチア症の主な症状とつつが虫病・日本紅斑熱の比較

リケッチア症でまず問題となるのは急性発熱です。患者は発熱に加え、頭痛、悪寒、全身倦怠感、食欲不振、筋肉痛、関節痛、悪心・嘔吐など、非特異的な症状を訴えることがあります。症候のみではインフルエンザ、COVID-19、ウイルス性発疹症、敗血症、レプトスピラ症、デング熱、SFTS、薬疹などとの鑑別が必要です。そのため、皮膚所見と曝露歴を診断プロセスの中心に置くことが重要になります。
つつが虫病では、ツツガムシ幼虫に刺されてから通常5~14日程度の潜伏期間を経て発症します。典型例では39℃以上の発熱、特徴的な刺し口、発疹がみられ、倦怠感、頭痛、肝機能障害、リンパ節腫脹を伴うことがあります。発疹は発症数日後に体幹を中心として出現し、刺し口に対応する所属リンパ節腫脹が診断の補助所見となります。治療遅延例では播種性血管内凝固や多臓器不全に至る可能性があります。


参考)つつが虫病|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
日本紅斑熱は、マダニに刺咬された後、一般に2~8日程度で頭痛、発熱、全身倦怠感を伴って発症します。発熱、発疹、刺し口は主要な徴候ですが、発疹は手足など末梢から体幹側へ広がる求心性の斑丘疹として観察されることがあります。つつが虫病に比べてリンパ節腫脹は目立ちにくい一方、DICを含む重症化に注意が必要です。


参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-23.html

項目 つつが虫病 日本紅斑熱
主な媒介節足動物 ツツガムシ幼虫 マダニ
潜伏期間の目安 5~14日程度 2~8日程度
発熱の特徴 高熱、悪寒、頭痛、全身倦怠感を伴いやすい 頭痛、全身倦怠感、高熱を伴って急性発症する
発疹の傾向 体幹・顔面に多く、発症第3~4病日頃に出現しやすい 手足など末梢部から求心性に多発することがある
刺し口・リンパ節 刺し口と所属リンパ節腫脹が重要所見 刺し口は重要だが、リンパ節腫脹は目立ちにくい
重症化時の注意点 DIC、多臓器不全、肺炎、脳炎症状 DICなどを来し、つつが虫病より重症化しやすい

日本紅斑熱の届出票記載例の集計では、発熱99%、発疹94%、肝機能障害73%、刺し口67%、頭痛30%、DIC 21%と報告されています。刺し口が確認できない症例もあるため、刺し口非確認を理由に鑑別から外すことは適切ではありません。


参考)IASR 41(8), 2020【特集】日本紅斑熱 1999…
厚生労働省:つつが虫病
厚生労働省:日本紅斑熱


診察時に確認する問診項目と皮膚所見

急性発熱患者を診察する際、発疹や血小板減少、肝逸脱酵素上昇を認めた場合には、リケッチア症を鑑別に含めます。特に、春から初夏、または秋から初冬にかけての発症、農作業、草刈り、狩猟、登山、キャンプ、犬の散歩、畑や河川敷への立入り、野生動物との接触といった情報は重要です。居住地だけでなく、発症前2週間程度の旅行先、出張先、野外活動場所も具体的に聴取します。
皮膚診察は、衣服に覆われた部位まで含めた全身観察が原則です。刺し口は黒色から褐色の痂皮を伴うことがあり、周囲の発赤、硬結、潰瘍性病変として捉えられる場合もあります。頭髪内、耳介後部、頸部、腋窩、乳房下、背部、臀部、鼠径部、陰部、膝窩などは見落としやすく、プライバシーに配慮しながら系統的に確認します。痂皮の存在は診断上有用ですが、確認できない場合でもリケッチア症は否定できません。


参考)リケッチア感染症 (治療 107巻6号)

  • 発症前2週間程度の草地、山林、畑、河川敷、藪、動物との接触歴
  • ダニや虫に刺された自覚、皮膚のかゆみ、局所の痛み、刺し口に気付いた時期
  • 発熱開始日、最高体温、頭痛、悪寒、倦怠感、消化器症状、意識変容の有無
  • 発疹の出現日、初発部位、拡大方向、掻痒感、紫斑、水疱、壊死性変化の有無
  • 高齢、妊娠、免疫抑制、基礎疾患、抗菌薬投与歴、地域の流行情報

検査所見としては、血小板減少、肝逸脱酵素上昇、CRP上昇、低ナトリウム血症、尿蛋白や尿潜血などがみられることがあります。ただし、これらは特異的ではありません。発熱、発疹、刺し口という身体所見、曝露歴、地域性、季節性を統合して臨床的に疑うことが、早期診療につながります。


参考)亀田感染症ガイドライン:リケッチア感染症 - 亀田総合病院 …


検査の考え方と確定診断前に行う初期対応

リケッチア症の確定診断には、血清学的検査や遺伝子学的検査が用いられます。つつが虫病では、間接蛍光抗体法や免疫ペルオキシダーゼ法による血清診断が主に行われます。急性期の抗体価のみでは判断が困難なことがあるため、可能な限り急性期と回復期のペア血清を確保し、抗体価の上昇を評価します。


参考)つつが虫病(詳細版)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提…
皮膚所見がある患者では、痂皮や皮疹部からのPCR検査が診断に有用となる可能性があります。検体の有用性は一般に痂皮、皮疹部皮膚生検、全血、血清の順に高いとされ、病変の有無を丁寧に確認する意義は大きいといえます。検体採取の可否、保存方法、搬送方法、依頼先は、施設内の検査部門、保健所、地方衛生研究所、地域の感染症専門施設と早めに連携して確認します。


参考)https://www.hosp.u-fukui.ac.jp/wp-content/uploads/r-tebiki20190422.pdf
重要なのは、検査結果を待つ間に治療介入が遅れないようにすることです。臨床的にリケッチア症を強く疑い、発熱、発疹、刺し口、曝露歴、血小板減少、肝機能障害などが整合する場合には、確定診断を待たずに治療を開始する判断が必要になります。日本紅斑熱では重症化やDICのリスクがあるため、意識障害、呼吸不全、循環不全、著明な血小板減少、腎機能障害、肝障害、凝固異常を伴う場合は、入院管理と高次医療機関への相談を速やかに検討します。
同時に、ダニ媒介感染症以外の重症感染症や、敗血症、髄膜炎・脳炎、ウイルス性出血熱を含む鑑別疾患の評価も並行します。リケッチア症が疑われるからといって、患者の病態全体を単一疾患で説明しようとせず、バイタルサイン、臓器障害、意識状態、出血傾向、呼吸状態を反復評価することが安全な診療につながります。


治療・重症化予防と患者指導の実際

ダニ媒介性リケッチア症では、テトラサイクリン系抗菌薬が治療の基本です。つつが虫病では、早期に適切な抗菌薬を投与することが極めて重要とされ、第一選択はテトラサイクリン系抗菌薬です。βラクタム系抗菌薬は有効性が期待できないため、一般的な市中感染症を想定して経験的に投与した薬剤で改善しない急性発熱例では、診断の再検討が必要です。


日本紅斑熱についても、第一選択薬はドキシサイクリンやミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬とされています。投与経路、投与量、治療期間、妊娠中・授乳中・小児・重症患者における薬剤選択は、重症度、併存疾患、薬剤禁忌、地域の専門家や感染症専門医の助言を踏まえ、添付文書および最新の診療情報に基づいて個別に判断します。


参考)日本紅斑熱 – バイオテロ対応ホームページ
治療後は、解熱の推移だけでなく、血小板数、肝腎機能、CRP、凝固系、尿量、意識状態、皮疹の変化を確認します。迅速な解熱・改善がみられることは臨床的な支持所見となり得ますが、改善が乏しい場合は、診断の見直し、薬剤投与状況の確認、合併症評価、他の感染症や非感染性疾患の再評価を行います。DIC、多臓器不全、肺炎、脳炎症状を示唆する所見があれば、集中治療を含む対応を検討します。
予防では、ダニやツツガムシに刺されないことが最も重要です。野外活動時には長袖・長ズボンを着用し、足首や首元などの露出を減らします。忌避剤を適切に使用し、帰宅後は衣類や身体を確認して早期にダニを発見・除去するよう指導します。患者や家族に対しては、野外活動後に発熱、発疹、頭痛、強い倦怠感が出現した場合、刺し口が明瞭でなくても、早めに医療機関で曝露歴を伝えるよう説明します。国内で承認されたリケッチア症ワクチンはなく、曝露予防と早期受診が重症化予防の中心となります。