
逸脱酵素とは、通常は細胞内に局在している酵素が、何らかの理由で細胞膜の透過性亢進や細胞破壊によって血液中に流出したものを指します 。この現象は「逸脱」と呼ばれ、組織や臓器に障害が生じていることを示す重要なシグナルとなります 。
臨床検査で routinely 測定される主な逸脱酵素には以下のものがあります :
参考)健康診断結果の見方シリーズ②「肝胆道系酵素」 - Onlin…
参考)LD(LDH)とは?高値の原因と臨床的意義を徹底解説|検査技…
これらの酵素は、細胞がダメージを受けると血中に逸脱するため、その濃度を測定することで臓器がどの程度ダメージを受けているかを推測することが可能です 。
各逸脱酵素の基準値は検査機関によって若干異なりますが、一般的な目安を以下に示します :
| 検査項目 | 基準値(目安) | 主な意味 | 高い場合の病態 |
|---|---|---|---|
| AST(GOT) | 13~30 U/L | 肝臓・心臓・筋肉に存在 | 肝細胞障害、心筋梗塞、筋疾患 |
| ALT(GPT) | 7~23 U/L | 肝臓に特異的 | 脂肪肝、薬剤性肝障害、肝炎 |
| LDH(LD) | 124~222 U/L | 全身の細胞に存在 | 肝疾患、心筋梗塞、悪性腫瘍、血液疾患 |
| CK(CPK) | 男性:38~196 U/L 女性:30~172 U/L |
筋肉・心臓に存在 | 筋疾患、横紋筋融解症、心筋梗塞 |
| ALP | 38~113 U/L | 肝胆道系・骨代謝 | 胆道系疾患、骨疾患、薬剤性肝障害 |
| γ-GTP | 9~32 U/L | 肝臓・胆道系 | 飲酒、脂肪肝、胆道系疾患 |
基準値の解釈においては、単に上限を超えているかどうかだけでなく、上限の何倍に達しているかも重要なポイントとなります 。例えば、ASTやALTが基準上限の5倍を超える場合は、より迅速な評価が必要とされます 。
参考)LDH・ALPが高いと言われたら|基準値と肝臓・骨の見分け方…
また、2020年にALPの測定法が変更され、IFCC法による新しい基準範囲が採用されています 。このため、過去のデータと比較する際には測定法の違いに注意が必要です。
ASTとALTがともに上昇している場合は肝臓由来の可能性が高いですが、ASTのみが上昇しALTが正常というパターンでは、筋肉由来や溶血の可能性を考慮する必要があります 。
筋肉由来のパターン:
肝臓由来のパターン:
参考)https://note.com/salinejapan/n/n5b22e28acbe8
溶血の影響:
意外な事実として、健康な人でも激しい運動後にASTやLDHが一時的に上昇することがあり、これは筋肉の微細な損傷によるものです 。そのため、採血前の運動歴を確認することは重要です。
LDHやCKにはアイソザイム(同工酵素)が存在し、これらを解析することでより詳細な臓器特異性が得られます 。
参考)LD<sub>1</sub>アイソザイム (臨床検査 40巻…
LDHアイソザイム:
LDHは5種類のアイソザイム(LDH1~LDH5)から構成され、それぞれ異なる臓器に特異的に分布しています :
LDH1アイソザイムは急性心筋梗塞の診断において特に有用で、発症後12時間以内の診断率はLD1/LD総比の方がLD1単独よりも優れています 。また、LD1は心筋壊死量と相関性が高く、再灌流の影響を受けにくいという特徴があります 。
CKアイソザイム:
CKにもCK-MM(骨格筋)、CK-MB(心筋)、CK-BB(脳)の3種類のアイソザイムがあります。CK-MBは心筋梗塞の診断に用いられますが、近年はトロポニン測定が主流となっています。
逸脱酵素の上昇には、疾患以外にも様々な要因が関与しています。以下に、あまり知られていない意外な情報をいくつか紹介します。
1. 採血前の運動の影響:
健診でAST・LDHが高いと肝臓の異常と思いがちですが、筋トレやジョギング後の数値上昇は筋肉の微細な損傷が原因です 。特に、普段運動していない人が急に激しい運動をした場合、CKが1,000 U/Lを超えることもあり、ASTやLDHも同時に上昇します 。
2. 溶血によるアーチファクト:
採血時の溶血(赤血球の破壊)により、ASTやLDHが偽高値を示すことがあります 。ASTは赤血球内に特に多く含まれているため、溶血の影響を強く受けます 。このため、「ASTとLDHが高いのにALTは正常」というデータを見たら、まず溶血を疑う必要があります 。
参考)【連載:肝機能完全攻略①】ASTとALT、どっちが高い?「A…
3. 薬剤の影響:
特定の薬剤(スタチン系降脂薬、抗生物質、抗てんかん薬など)は、肝逸脱酵素を上昇させることがあります 。また、ALPは薬剤性肝障害でも上昇することがあります 。
4. 栄養状態の影響:
臓器の萎縮や栄養欠損状態では、逸脱酵素の数値は低下します 。これは、酵素を産生する細胞自体が減少しているためです。
5. 生理的な変動:
ALTの基準値は5-40 IU/L程度ですが、51以上になると精密検査が必要と判定され、特に100以上の場合は早急な受診が必要とされます 。また、ASTの基準範囲は検査機関によって8-33 U/L、10-40 U/L、5-35 U/Lなど様々で、性別別の範囲を設けている場合もあります 。
6. LDHとALPの組み合わせ:
LDHとAST・ALTが上がるなら肝障害、LDHとCKが上がり筋肉痛や激しい運動歴があるなら骨格筋、LDHと貧血所見が重なるなら血液由来を優先します 。発熱、息苦しさ、胸部症状、リンパ節腫脹、体重減少などがあれば肺疾患、感染症、血液疾患なども候補になります 。
逸脱酵素 - Wikipedia(逸脱酵素の基本的な定義と一覧)
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