
ランダム化比較試験は、randomized controlled trialの訳語であり、一般にRCTと略されます。対象者を介入群と対照群へ無作為に割り付け、あらかじめ定めたアウトカムを比較して、介入と結果の因果関係を検証する研究デザインです。日本語では「無作為化比較試験」や「ランダム化対照試験」と表記されることもあります。
重要なのは、「治療を受けた患者の転帰が改善した」ことだけではRCTの結論にならない点です。自然軽快、疾患の変動、回帰効果、併用療法、治療を受けようとする患者の特性などでも転帰は変わります。対照群を置くことで、介入がなかった場合にどの程度の改善・悪化が起こったかという反実仮想に近づき、両群の差を治療効果として推定しやすくなります。
対照群は必ずしもプラセボ群ではありません。疾患の重症度、既存治療の有無、倫理性、試験目的により、以下のように設定されます。
たとえば降圧薬のRCTで、介入群の平均血圧が12 mmHg低下し、対照群でも生活指導によって7 mmHg低下したなら、比較すべき基本の値は「12 mmHg」ではなく群間差の5 mmHgです。臨床的意義をみるときは、さらにイベント抑制効果、有害事象、患者負担、費用も併せて評価します。
ランダム化比較試験は因果推論に強い研究デザインですが、「最も上位だから結論を無条件で信じる」という意味ではありません。研究課題に合った対照群か、計画どおりに実施されたか、解析が適切かによって、エビデンスの確実性は大きく変わります。
RCTの基本定義と比較研究の考え方は、日本理学療法士協会のEBPT用語解説でも確認できます。
日本理学療法士協会|ランダム化比較試験(RCT) randomized controlled trial
無作為化の目的は、年齢、重症度、併存疾患、予後、治療への期待といった要因を、平均的には介入群と対照群へ均等に分配することです。既知の交絡因子だけでなく、測定していない未知の因子にも対応できることが、観察研究との大きな違いです。ただし、無作為化は各因子が必ず同数になることを保証するものではなく、特に小規模試験では偶然の不均衡が起こり得ます。
代表的な割付方法には、単純無作為化、ブロック無作為化、層別無作為化、最小化法があります。単純無作為化はコイン投げの反復に近い考え方ですが、少数例では群間の症例数が偏ることがあります。ブロック無作為化は各ブロック内の割付数を整えやすく、層別無作為化は施設、病期、ベースラインリスクなど、結果に強く影響する因子を層として扱います。
ここで混同されやすいのが、無作為化と「割付の隠蔽」です。無作為化は予測不能な割付順を作る工程であり、割付の隠蔽は、登録を決める担当者が次の患者の割付先を事前に知れないようにする運用です。たとえ乱数表を用いていても、次の割付が見えていれば、研究者が無意識に患者の登録時期を調整する余地が生まれ、選択バイアスが混入します。
割付の隠蔽には、中央割付システム、Web登録、電話自動応答、第三者が管理する連番付き不透明封筒などが用いられます。封筒法は簡便ですが、透明な封筒、開封痕、連番管理の不備があれば破綻します。「封筒を使った」とだけ記載してある論文は、隠蔽が十分だったとは判断できません。
CONSORTでは、無作為割付順の作成方法、割付の型、割付順を隠蔽する機構、実際に誰が割付を実施したかの報告を求めています。割付の隠蔽は盲検化とは別物であり、盲検化できない手術・リハビリテーション研究でも、原則として実施可能です。
参考)https://www.bmj.com/content/340/bmj.c869
盲検化(masking、blinding)は、治療の割付後に、患者、医療者、評価者、解析者などが割付情報を知ることによって生じる偏りを抑える方法です。単盲検、二重盲検、三重盲検という呼び方は、誰が盲検化されているかが論文ごとに異なるため、実務では「患者、介入担当者、アウトカム評価者、データ解析者のうち誰を盲検化したか」を具体的に読む必要があります。
盲検化が不足すると、複数のバイアスが入り得ます。
| バイアス | 起こる場面 | 臨床試験での例 |
|---|---|---|
| パフォーマンスバイアス | 介入担当者や患者が割付を知る | 新薬群だけに生活指導や受診支援が手厚くなる |
| 検出バイアス | 評価者が割付を知る | 疼痛スコア、画像判定、機能評価が期待方向へ偏る |
| 選択バイアス | 登録前に次の割付が予測できる | 予後不良例の登録が一方の群に偏る |
| 報告バイアス | 結果を見てから評価項目を選ぶ | 有意差が出た副次評価項目だけを強調する |
一方で、盲検化が困難な介入は少なくありません。手術手技、運動療法、栄養指導、デジタル治療、看護ケアでは、患者と実施者の盲検化が現実的でないことがあります。その場合に「盲検化できないからRCTとして弱い」と一律に判断するのではなく、評価者を独立させる、中央判定を用いる、客観的なハードエンドポイントを設定する、標準化された手順書で介入量を揃えるなど、残余バイアスをどこまで減らしたかを確認します。
意外に見落とされるのが、プラセボが生理学的に完全な「無作用」ではない点です。期待、通院頻度、医療者との接触、服薬行動の変化は転帰に影響し得ます。したがってプラセボ対照試験は、薬効成分の差を評価するうえで有用ですが、「治療を受けない場合」と完全に同じ状態を表すわけではありません。
報告の透明性を確認する際は、CONSORT 2010のチェックリストとフローダイアグラムが有用です。登録、割付、追跡、解析の各段階で何人が除外・脱落したかを追うと、結果の解釈が変わることがあります。
BMJ|CONSORT 2010 Explanation and Elaboration: updated guidelines for reporting parallel group randomised trials
RCTの信頼性は、無作為化の成否だけで決まりません。研究開始前に、対象集団、介入、比較対照、評価項目、観察期間、解析方法を明確化する必要があります。とくにエンドポイントは、統計学的な有意差だけでなく、患者にとっての意味を反映しているかが重要です。
死亡、脳卒中、入院、骨折といったハードエンドポイントは解釈が比較的明確です。一方、バイオマーカーや画像所見、症状スコアは早期に評価しやすい反面、それ自体の改善が患者重要アウトカムの改善につながるとは限りません。代理エンドポイントを用いる試験では、代理指標と真の臨床転帰との関係が妥当かを別途確認する必要があります。
解析ではITT(intention-to-treat)原則が基本です。ITT解析は、割り付けられた群に従って対象者を解析する考え方で、途中で服薬を中止した、別治療へ切り替えた、アドヒアランスが低下したという事情があっても、原則として最初の割付群に残します。これは無作為化によって得られた群間の比較可能性を保持するためです。
ただし、ITTは「欠測を無視してよい」という意味ではありません。脱落が多い場合や、欠測理由が予後と関連する場合には、結果が偏るおそれがあります。欠測データの取扱い、感度分析、プロトコル逸脱の定義、per-protocol解析やas-treated解析を補助的にどう位置づけたかを読む必要があります。
近年は、治療中止、救済治療、死亡などのintercurrent eventsをどう扱うかを含め、推定したい治療効果そのものを事前に定義するestimandの考え方が重視されています。たとえば「治療中止後も含めた治療方針としての効果」と、「治療を継続できたと仮定した場合の薬理学的効果」は同じではありません。ICH E9(R1)は、治療、対象集団、変数、集団レベルの要約、intercurrent eventsの扱いを明確にして臨床上の問いと解析を整合させる枠組みを示しています。
参考)https://database.ich.org/sites/default/files/E9-R1_Step4_Guideline_2019_1203.pdf
ランダム化比較試験の独自視点として重要なのは、内的妥当性が高い結果を、そのまま目の前の患者へ適用できるとは限らない点です。無作為化は「試験内での因果効果」の推定を強くしますが、試験参加者が日常診療の患者集団を代表しているかという外的妥当性は、別に検討しなければなりません。
たとえば高齢、多剤併用、腎機能低下、フレイル、認知機能低下、妊娠、重度併存疾患をもつ患者は、薬剤のピボタル試験から除外されやすい集団です。厳格な適格基準、頻回の受診、専門施設での介入、研究スタッフによる高い支援は、治療効果を明瞭にする反面、一般診療と乖離することがあります。
論文を患者へ適用する前には、次の観点を確認します。
相対リスク低下だけをみると、効果を大きく感じやすくなります。対照群のイベント率が2%で、介入群が1%なら相対リスク低下は50%ですが、絶対リスク低下は1%、NNTは100です。逆に高リスク患者では同じ相対効果でも絶対利益が大きくなります。RCTの結果を診療へ翻訳する際は、平均的な相対効果に加え、患者個人のベースラインリスクと価値観を重ねて判断することが重要です。
なお、日本で特定臨床研究を行う場合は、研究計画書に基づくモニタリングなど、対象者保護と研究の信頼性確保のための体制整備が求められます。モニタリングは進捗や計画書遵守を確認する調査であり、直接担当した業務を同じ担当者がモニタリングすることはできません。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab6260&dataType=0&pageNo=1dataType=0href="https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab6260&dataType=0&pageNo=1">https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80ab6260&dataType=0&pageNo=1pageNo=1" target="_blank" rel="noopener">・臨床研究法施行規則(◆平成30年02月28日厚生労働省令第…
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