「二尖弁」という語は文脈によって意味が異なります。解剖学的には、左心房から左心室への血流を制御する僧帽弁を二尖弁と呼ぶことがあります。一方、循環器診療や画像診断の文脈で「二尖弁タイプ」「二尖弁の分類」と表現される場合、多くは先天性の大動脈二尖弁(bicuspid aortic valve:BAV)を指します。本稿では後者、すなわち大動脈弁が通常の3弁尖ではなく、実質的に2つの弁尖として機能する病態を扱います。
大動脈二尖弁は先天性心血管異常のなかでも頻度が高く、無症候のまま健診や心雑音精査、胸部画像検査、他疾患の術前評価などを契機に見つかることがあります。重要なのは、「弁尖が2枚である」という一点だけで病態を完結させないことです。弁尖の融合部位、ラフェ(raphe)の有無、交連の対称性、石灰化、狭窄・逆流の程度に加え、大動脈基部、Valsalva洞、上行大動脈の形態を一体として評価します。大動脈二尖弁は大動脈弁狭窄症、大動脈弁逆流症、大動脈拡張、大動脈瘤、大動脈解離などと関連し得るため、形態記載は単なる画像所見ではなく、その後のフォロー計画や治療判断の基盤になります。
参考)大動脈二尖弁 - 19. 小児科 - MSDマニュアル プロ…
若年者では弁機能が保たれていても、加齢とともに弁尖の変性、石灰化、狭窄あるいは逆流が進展することがあります。また、弁病変が軽度であっても大動脈拡張を伴う例があり、弁口だけを評価して「問題なし」と結論付けない姿勢が必要です。初回診断時には、心エコーで弁形態と機能を確認し、描出が不十分な場合や大動脈の全体像が必要な場合には、心電図同期CTまたはMRIを適切に組み合わせます。
参考)https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0000000000001106
従来、二尖弁タイプの記載にはSievers分類が広く用いられてきました。この分類は主としてラフェの数に基づくもので、Type 0はラフェを認めない二尖弁、Type 1はラフェを1本認める二尖弁、Type 2はラフェを2本認める形態です。実臨床ではType 1が多く、右冠尖と左冠尖の融合を示すR-L fusion、右冠尖と無冠尖の融合を示すR-N fusion、左冠尖と無冠尖の融合を示すL-N fusionを続けて記載する方法が理解しやすいでしょう。
| 分類・タイプ | 基準・内容 | 臨床記載のポイント |
|---|---|---|
| 融合型(fused BAV) | 3つの弁尖のうち2尖が融合し、二交連性の弁として機能する形態 | R-L、R-N、L-Nの融合部位、ラフェの有無・高さ・石灰化、対称性を記載する |
| 2洞型(2-sinus BAV) | 大動脈洞が2つで、ラフェを伴わない二尖弁形態 | 左右配置型または前後配置型を確認し、交連位置と弁尖の対称性を評価する |
| 部分融合型(partial-fusion BAV) | 3交連性に見えるが、交連基部に限局した融合を伴うforme fruste型 | 通常の短軸像のみでは見逃し得るため、高画質TTE、TEE、CT、MRIを状況に応じて検討する |
| Sievers Type 0 | ラフェを認めない形態 | 二交連性、弁尖の対称性、交連の配置をあわせて記載する |
| Sievers Type 1 | ラフェを1本認める形態 | 融合部位をR-L、R-N、L-Nとして明記し、ラフェ石灰化を評価する |
| Sievers Type 2 | ラフェを2本認める形態 | 稀な形態であり、弁尖構造と交連、逆流機序を詳細に把握する |
二尖弁タイプの評価では、経胸壁心エコー検査(TTE)が基本となります。とくに収縮期の傍胸骨短軸像で、弁口が魚口状に開放する所見、二交連性、ラフェ、弁尖の可動性を確認します。ただし、成人では石灰化、肥満、胸郭条件、画像解像度などによって形態診断が難しい場合があります。拡張期像だけで弁尖数を判断すると誤認するおそれがあり、収縮期・拡張期の連続観察と複数断面による確認が重要です。
弁の形態に加え、ドプラ法を用いて狭窄と逆流の重症度を定量します。大動脈弁狭窄症では最大流速、平均圧較差、連続の式による大動脈弁口面積、左室駆出率、1回拍出量などを統合して解釈します。大動脈弁逆流症では、カラードプラによる逆流ジェットだけでなく、vena contracta、下行大動脈の拡張期逆行性血流、左室径・左室容積、左室収縮能などを総合評価します。二尖弁では偏心性ジェットを生じることがあり、単一の指標に依存せず複数指標で重症度を判断することが必要です。
大動脈の評価は、弁輪、大動脈洞、洞管接合部、上行大動脈を原則として連続的に確認します。TTEで評価が不完全な場合、または上行大動脈以遠までの広がりを把握する必要がある場合には、CTまたはMRIが有用です。CTは空間分解能に優れ、石灰化、弁形態、胸部大動脈径、手術前解剖の把握に役立ちます。MRIは放射線被曝を避けつつ大動脈形態、左室容量、逆流量を評価でき、若年者や長期フォローで特に検討価値があります。
二尖弁の形態分類は、それ自体を診断名として記録するためだけに行うものではありません。臨床では、弁機能障害の進行、大動脈拡張の部位と程度、拡大速度、家族歴、血圧、年齢、妊娠希望、結合組織疾患を示唆する所見、手術適応の可能性などを統合して、個別の追跡計画を組み立てます。とくに大動脈二尖弁関連大動脈症では、大動脈基部優位の拡張か、上行大動脈優位の拡張か、あるいは両者に及ぶかを明確にします。
ACC/AHAの大動脈疾患ガイドラインでは、大動脈二尖弁患者に対し、TTEで大動脈弁機能、大動脈基部、上行大動脈、および大動脈縮窄症の有無を評価することを重視しています。TTEで大動脈径や形態が十分に把握できない場合には、心電図同期CTまたはMRIでの評価が適応となります。また、大動脈二尖弁を有し大動脈基部または上行大動脈の拡張を伴う患者では、第一度近親者に対するTTEスクリーニングが推奨されています。
経時的評価では、単回の大動脈径だけでなく、同じモダリティ、同様の測定法、可能であれば同一断面で比較することが望まれます。BAV関連大動脈症において、急速な大動脈拡大は年間0.3cm以上と定義されており、測定誤差との区別を含めて慎重な再評価が必要です。弁の狭窄や逆流が軽度でも、大動脈拡張が進行する場合にはフォロー間隔や画像モダリティを見直します。
二尖弁タイプの記載は、「BAVあり」だけでは不十分です。紹介先で再評価する医師、経過を引き継ぐ医療者、外科的治療やカテーテル治療を検討するチームが、画像を見直さなくても病態の骨格を把握できるように記録します。とくに、弁タイプ、融合部位、ラフェ、弁機能、大動脈径、大動脈症の分布、関連病変、画像の限界を分けて記載すると、再現性と臨床的有用性が高まります。
記載例としては、「大動脈二尖弁:融合型、右冠尖・左冠尖融合(R-L fusion)、ラフェあり。二交連性で弁尖は軽度非対称。石灰化軽度。大動脈弁狭窄は軽度、大動脈弁逆流は軽度。Valsalva洞径○mm、上行大動脈径○mm。大動脈縮窄を示唆する所見なし。上行大動脈はTTEで描出範囲内の評価であり、遠位部の詳細評価にはCTまたはMRIを検討する」といった構成が実用的です。