内眼筋とは、眼球内部に存在し、主として瞳孔径と水晶体の屈折力調節に関わる平滑筋群を指す。一般に、瞳孔括約筋、瞳孔散大筋、毛様体筋の3つを含めて理解する。骨格筋である外眼筋とは異なり、内眼筋の運動は随意運動ではなく、自律神経系を中心に調節される。したがって、内眼筋の評価では「眼球運動の障害」ではなく、瞳孔径、瞳孔不同、対光反射、近見反応、調節麻痺といった所見が重要になる。
瞳孔括約筋は虹彩の瞳孔縁を輪状に取り囲む筋であり、収縮すると縮瞳を生じる。瞳孔散大筋は虹彩の後面に放射状に走る筋であり、収縮すると瞳孔を拡大する。毛様体筋は毛様体内に位置し、収縮によってチン小帯の緊張を低下させ、水晶体の厚みを増して近見視に適した屈折状態をつくる。すなわち、瞳孔括約筋と毛様体筋は副交感神経優位の近見反応・調節反応に関与し、瞳孔散大筋は交感神経優位の散瞳反応に関与する。
内眼筋を理解する際の重要点は、筋名だけを暗記するのではなく、「どの筋がどの自律神経で収縮するか」「節前線維と節後線維はどこで交代するか」「臨床的に障害されると瞳孔がどちらへ変化するか」を一続きの経路として把握することである。瞳孔括約筋と毛様体筋には動眼神経由来の副交感神経が分布し、瞳孔散大筋には交感神経が分布する。これは瞳孔診察と神経学的局在診断の基盤となる。動眼神経の副交感神経線維と内眼筋の解剖学的解説
瞳孔括約筋および毛様体筋に至る副交感神経経路は、臨床上もっとも重要な内眼筋支配経路である。中枢側では、中脳に位置するEdinger-Westphal核、すなわち動眼神経副核に節前副交感神経ニューロンが存在する。ここから出る線維は動眼神経第III脳神経に合流し、海綿静脈洞から上眼窩裂を経て眼窩内へ進む。
動眼神経の下枝から分かれた副交感神経節前線維は毛様体神経節に入る。毛様体神経節は眼窩後部で視神経外側付近に位置する副交感神経節であり、ここで節前線維は節後ニューロンとシナプスを形成する。節後線維は短毛様体神経に加わって眼球へ入り、瞳孔括約筋と毛様体筋に分布する。この経路の興奮により、瞳孔括約筋では縮瞳が、毛様体筋では近見調節に必要な毛様体筋収縮が起こる。瞳孔括約筋・毛様体筋への副交感神経支配は、Edinger-Westphal核から動眼神経、毛様体神経節、短毛様体神経へ続く連続した経路として整理できる。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/92_1380.pdf
対光反射では、網膜で受容された光刺激が視神経を経由して中脳の視蓋前域へ伝達され、両側のEdinger-Westphal核へ投射する。そこから動眼神経副交感神経経路を通じ、同側・対側の瞳孔括約筋が収縮する。このため、片眼への光刺激で直接対光反射と間接対光反射の双方が観察される。近見反応でも、毛様体筋収縮、瞳孔括約筋収縮、輻輳が協調するが、近見反応の中枢経路は対光反射より複雑であり、臨床的には両反射の解離が局在診断に利用される。
| 項目 | 基準・内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 中枢 | Edinger-Westphal核(動眼神経副核) | 副交感神経節前ニューロンの起始部 |
| 節前線維 | 動眼神経下枝を経て毛様体神経節へ向かう | 第III脳神経障害で影響を受けうる |
| 神経節 | 毛様体神経節 | 節前線維と節後ニューロンがシナプスする |
| 節後線維 | 短毛様体神経 | 瞳孔括約筋および毛様体筋へ分布する |
| 主な作用 | 縮瞳、毛様体筋収縮、近見調節 | ムスカリン受容体を介する反応が中心 |
瞳孔散大筋は、副交感神経ではなく交感神経の節後線維によって支配される。交感神経性散瞳経路は、視床下部から脳幹・頸髄を下行し、毛様体脊髄中枢、いわゆるBudge中枢に到達する。毛様体脊髄中枢は一般にC8からT2付近に位置づけられ、ここにある節前交感神経ニューロンからの線維が交感神経幹を上行して上頸神経節へ至る。
上頸神経節でニューロンを交代した節後交感神経線維は、内頸動脈に沿う内頸動脈神経叢を経て頭蓋内・眼窩内へ進行する。その後、眼神経の枝である鼻毛様体神経に合流し、主として長毛様体神経を経由して瞳孔散大筋へ到達する。瞳孔散大筋の収縮は瞳孔径を増大させる散瞳として現れ、暗所への適応、覚醒、情動反応、疼痛などに伴う瞳孔反応に関わる。
ここで注意したいのは、毛様体神経節を通過する交感神経線維が存在しても、交感神経線維は同神経節内でシナプスを形成しないことである。上頸神経節ですでに節後線維となった交感神経は、毛様体神経節を通過しうるものの、瞳孔散大筋への主要な経路としては鼻毛様体神経から長毛様体神経へ向かう流れが重要である。瞳孔散大筋の交感神経支配は、毛様体脊髄中枢、上頸神経節、内頸動脈神経叢、鼻毛様体神経、長毛様体神経という順序で把握すると整理しやすい。
参考)https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/2328667/pa137.pdf
内眼筋の神経支配を臨床に結び付けるには、各筋の収縮時の変化と、受容体・薬剤との関係を同時に整理することが有用である。瞳孔括約筋では副交感神経終末から放出されるアセチルコリンが主としてムスカリンM3受容体を刺激し、筋収縮と縮瞳を生じる。毛様体筋も同様にムスカリン受容体を介した副交感神経作用で収縮し、チン小帯の張力が減少するため、水晶体はより厚く・丸くなり、近方への調節力が増す。
一方、瞳孔散大筋では交感神経終末からのノルアドレナリンが主としてα1受容体を刺激し、放射状に走る筋線維を収縮させる。結果として瞳孔は散大する。散瞳薬・縮瞳薬を使用する場面では、対象筋と神経支配を混同しないことが重要である。抗ムスカリン作用を持つ薬剤は瞳孔括約筋と毛様体筋の副交感神経作用を抑制し、散瞳および調節麻痺を起こしうる。逆にムスカリン受容体刺激により瞳孔括約筋を収縮させる薬剤は縮瞳を誘発する。
内眼筋の神経支配を用いると、瞳孔不同の評価において「どちらの瞳孔が異常なのか」を光所見と暗所見で見分けやすくなる。明所で瞳孔不同が増大する場合、大きい瞳孔が十分に縮瞳できていない可能性があり、副交感神経系、瞳孔括約筋、あるいはその周辺の障害を考える。具体的には、動眼神経麻痺、毛様体神経節障害、短毛様体神経障害、薬剤性散瞳、虹彩の器質的異常などが鑑別に入る。
動眼神経麻痺に瞳孔散大を伴う場合は、外眼筋麻痺、眼瞼下垂、複視、眼痛・頭痛の有無を速やかに評価する。副交感神経線維は動眼神経の表層側を走行するとされ、圧迫性病変で瞳孔所見が早期に目立つことがあるためである。ただし、瞳孔所見のみで病変原因を断定してはならない。糖尿病などの微小血管障害に関連する動眼神経麻痺でも例外的に瞳孔異常がみられることがあり、症候、発症様式、神経学的所見、画像評価を統合して緊急度を判断する必要がある。
暗所で瞳孔不同が増大し、小さい瞳孔の散大が不十分であれば、交感神経経路の障害を考える。代表例がホルネル症候群であり、患側縮瞳、軽度眼瞼下垂、場合により顔面発汗低下を伴う。交感神経経路は長く、病変は視床下部、脳幹、頸髄、肺尖・縦隔、頸部、内頸動脈周囲、海綿静脈洞、眼窩などに及びうる。急性発症の有痛性ホルネル症候群では、内頸動脈解離を含む血管性病変を念頭に、臨床状況に応じた緊急評価が重要となる。
瞳孔診察では、室内照明だけで判断せず、明所・暗所の両方で瞳孔径を比較し、直接対光反射、間接対光反射、近見反応、眼球運動、眼瞼位置、顔面の発汗状態、薬剤曝露歴を系統的に確認する。内眼筋の支配神経を「副交感神経は瞳孔括約筋と毛様体筋、交感神経は瞳孔散大筋」と整理し、さらに各経路を中枢から末梢まで追えるようにすることが、神経眼科診療における安全な初期評価につながる。