
効率化とは、時間、労力、人員、費用、設備といった投入資源に対し、得られる成果の比率を高めることです。言い換えれば、「同じ成果をより少ない資源で達成する」、または「同じ資源からより大きな成果を得る」ために、仕事の流れを見直す活動を指します。一般的な業務改善では、無駄・無理・むらを見つけ、手順、役割、情報、道具を整えることが中心になります。
参考)業務における効率化の意味とは?効率化の方法やポイントを解説
ただし、医療従事者が扱う成果は、件数や処理速度だけでは測れません。診察・ケア・検査・調剤・説明・記録には、患者の理解、意思決定の支援、急変の予兆への気付き、他職種間の連携といった、数値化しにくい価値が含まれます。そのため医療における効率化は、「早く終えること」ではなく、必要な臨床判断と患者対応に時間を戻すことと捉えるのが実践的です。
例えば、問診票を電子化して入力時間を短縮しても、患者が入力方法を理解できず受付で滞留し、重要な症状が拾えなくなれば、全体としては効率化とはいえません。逆に、入力項目を事前に整理し、患者が答えやすい表現へ修正し、緊急性の高い回答だけが速やかに担当者へ通知される設計なら、待ち時間、確認作業、見落としのリスクを同時に下げられます。
業務効率化と業務改善は近い言葉ですが、着眼点には違いがあります。効率化は主に投入と成果の比率を高めること、業務改善は課題を把握して仕事の品質・安全・働きやすさをより良くすることまで含む広い概念です。医療現場では、効率だけを先行させず、業務改善の目的を明文化してから手段を選ぶ必要があります。
最初に確認したいのは、「何を減らし、何を守り、何を増やすか」です。たとえば外来の待ち時間を短くしたい場合、受付から会計までの総時間だけを見ると、診察時間を短くする案が浮かびます。しかし、診察を急ぎすぎれば説明不足や再受診、電話照会、服薬アドヒアランス低下につながる可能性があります。むしろ、予約枠、問診、検査導線、診察前準備、会計処理、情報共有のどこに滞留があるかを分けて観察することが重要です。
改善対象を一つに絞る際は、業務を「患者に直接価値を生む作業」「安全上不可欠な確認」「重複・待機・探索などの見直し候補」に分けます。確認作業は一見すると時間を使いますが、患者誤認、検体取り違え、投薬エラーを防ぐために不可欠な場合があります。削減対象は確認そのものではなく、転記、二重入力、最新版が分からない帳票、探しにくい保管場所など、確認の質を上げない作業です。
改善の目標は、「残業を月○時間減らす」だけで終わらせず、「診療録の未完了を減らす」「検査前説明の漏れを減らす」「患者からの同一内容の問い合わせを減らす」のように、質と安全を含めて設定します。厚生労働省も、業務のDX化では労働時間の変化に加え、医療の質・安全や経営状況への影響に関するデータを収集し、効果のエビデンスを蓄積する必要性を示しています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001599189.pdf
医療DXと業務効率化の評価に必要な視点が整理されています。
厚生労働省「業務効率化・職場環境改善の更なる推進に関する方向性」
生産性向上を「患者数を増やすこと」とだけ理解すると、医療では危険な判断になり得ます。患者数、検査件数、処方箋枚数などの量的な指標は必要ですが、それだけでは説明の十分性、治療継続率、再来・再検査の発生、職員の疲弊、医療安全への影響を把握できません。医療におけるアウトプットは、適切な診断・治療・ケアが、患者ごとの状況に応じて安全に届けられた状態として評価する必要があります。
実務では、改善前後を比較できるよう、少数の指標を決めます。時間に関する指標だけでなく、品質指標と負担指標を必ず並べると、局所最適化を防ぎやすくなります。例えば病棟の記録業務を見直すなら、「記録に要した時間」「記録の修正・差戻し件数」「勤務終了後の記録件数」「看護師が患者のそばで過ごした時間」「職員の主観的負担」を同じ期間で確認します。
| 見る領域 | 指標の例 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 時間 | 処理時間、待ち時間、残業時間 | 本当に滞留が減ったか |
| 品質 | 差戻し、記載漏れ、再検査、問い合わせ | 速さと引き換えに精度が落ちていないか |
| 安全 | ヒヤリ・ハット、誤認防止手順の実施率 | 新しい手順がリスクを生んでいないか |
| 患者価値 | 待ち時間、理解度、満足度、苦情内容 | 患者にとって利便性が上がったか |
| 職員負担 | 中断回数、心理的負担、欠勤・離職傾向 | 負担が別の職種・時間帯へ移っていないか |
特に注意したいのは、効率化で空いた時間を直ちに別業務で埋め尽くすことです。余白は非効率ではありません。急変対応、予定外の相談、教育、振り返り、連携のための余力は、医療のレジリエンスを支える資源です。稼働率を常に100%へ近付けるほど、予定外の事象が起きたときの遅延や安全リスクは大きくなります。
業務効率化の有力な手段が、タスク・シフト/シェアです。タスク・シフトは、ある職種が担っていた業務を、適切な教育・体制のもとで別の職種へ移管する考え方です。タスク・シェアは、同一職種内または複数の職種間で業務を共同化・分担する考え方です。単なる「仕事の押し付け」ではなく、各職種が専門性を発揮できるよう役割を再設計することが目的です。
厚生労働省は、医師の働き方改革に関する資料で、診療録等の代行入力、臨床写真・画像の取り込み、カンファレンス・回診記録の記載、各種サマリーの修正、検査オーダーの代行入力などを、現行制度の下で検討可能な具体例として示しています。ただし、実施範囲、最終確認者、教育、責任の所在、電子カルテの権限設定を曖昧にしたまま始めることはできません。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001167628.pdf
安全に進めるには、業務を「判断」「実施」「記録」「最終承認」に分解します。たとえば代行入力を導入する場合、誰がどの情報を入力し、誰がいつ内容を確認し、修正が必要な場合にどう連絡するかを決めます。入力を移管しても、医学的判断や最終責任の範囲が自動的に移るわけではありません。職種ごとの法令、施設基準、院内規程、委員会承認を確認し、試行期間中は例外事例を必ず記録します。
タスク・シフト/シェアの推進で示されている考え方と具体例を確認できます。
厚生労働省「働き方改革の推進について(その2)」
効率化で見落とされやすい独自の視点が、中断コストです。医療現場では、電話、ナースコール、口頭照会、緊急対応、システム通知などにより、作業が頻繁に中断されます。中断後に元の作業へ戻る際には、どこまで確認したかを思い出し、患者情報を再確認し、判断を再開する時間と認知的負荷が発生します。この「戻る時間」は勤務表や作業手順書に現れにくく、個人の要領の問題として扱われがちです。
中断をゼロにすることは現実的ではなく、緊急連絡を止めるべきでもありません。重要なのは、緊急度の低い中断を減らし、緊急度の高い情報を埋もれさせない設計です。例えば、物品の定位置化、問い合わせ先の一本化、申し送りの定型化、共有チャットの利用ルール、電子カルテ内テンプレートの整理は、小さな変更でも「探す」「聞き直す」「入力し直す」を減らします。
意外に効果が出やすいのは、業務を観察して中断の種類を数えることです。1週間だけでも、誰が、何時ごろ、何のために作業を止めたかを簡単に記録すると、電話が多い時間帯、所在確認が集中する物品、判断者不在による待機、二重連絡の発生源が見えてきます。改善の対象は職員個人ではなく、情報が必要な場所に届かない仕組みです。
医療安全では、個人の注意力だけに依存せず、人と機器、人と情報、人と環境の関係として失敗要因を捉える人間工学的な視点が重要です。繁忙、知識不足、通常と異なる心理的条件、システムや機器の問題など、複数の条件が重なって事故につながり得ることが指摘されています。
医療安全とヒューマンファクターの関係を学ぶ際の参考資料です。
効率化は、大規模なシステム導入から始める必要はありません。むしろ、対象業務を狭く定め、小さく試し、結果を確認して修正する方法が適しています。最初から全病棟・全診療科へ展開すると、例外対応や教育不足の影響を切り分けにくくなります。「1つの帳票」「1つの時間帯」「1つの患者導線」のように、改善単位を小さく設定します。
進め方は、現状把握、問題の特定、仮説づくり、試行、評価、標準化の順が基本です。現状把握では、担当者への聞き取りだけでなく、実際の業務を観察します。手順書上は5分の作業でも、端末待ち、物品探索、確認待ち、例外処理を含めれば15分かかることがあります。作業時間の平均だけでなく、最も時間がかかる場面と、その理由を確認することが改善の入口です。
効率化の成否は、ツールの性能だけでは決まりません。現場が「なぜこの変更が必要なのか」を理解し、例外時に安全に戻れる状態を作れるかが重要です。時間短縮を成果として祝う前に、患者に必要な説明が保たれたか、記録の信頼性が保たれたか、負担が別の職種へ移っていないかを確認してください。医療における本来の効率化とは、忙しさを圧縮することではなく、専門職が患者にとって価値の高い仕事へ集中できる仕組みをつくることです。