
口蓋扁桃の腫れを引き起こす扁桃炎は、その原因によって治療法が明確に異なります。医療従事者として、この鑑別を正確に行うことが適切な薬物療法の第一歩となります。
参考)急性扁桃炎
ウイルス性扁桃炎の場合、特効薬となる抗ウイルス薬は存在せず、解熱鎮痛薬による対症療法が中心となります。アセトアミノフェンやNSAIDs(ロキソプロフェンなど)で発熱や咽頭痛を緩和し、十分な水分補給と安静を保つことが回復への鍵です。
一方、細菌性扁桃炎、特にA群β溶血性連鎖球菌(GAS)による溶連菌感染症では、抗菌薬の投与が必須となります。ペニシリン系抗生物質(アモキシシリンなど)を10日間内服し、症状が改善しても処方された分を飲み切ることが重要です。
| 原因 | 治療法 | 使用薬剤 |
|---|---|---|
| ウイルス性 | 対症療法 | 解熱鎮痛薬、うがい薬 |
| 細菌性(溶連菌) | 抗菌薬+対症療法 | ペニシリン系、マクロライド系 |
抗菌薬の選択は、患者の病態、重症度、アレルギー歴を総合的に判断して決定します。第一選択薬として、ペニシリン系抗生物質のアモキシシリンが広く使用されています。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_17745
セフェム系抗菌薬(セフジトレンピボキシル、セフカペンピボキシルなど)も経口投与の選択肢となります。咽頭痛や嚥下痛が強い患者には、細粒などの剤形を選択すると服薬遵守が向上します。
マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシンなど)は、ペニシリンアレルギーのある患者や、特定の細菌が疑われる場合に考慮されます。ただし、耐性菌の増加に注意が必要です。
参考)扁桃炎とは|原因・症状・治療・投薬内容・オンライン診療の流れ…
重症例や頸部リンパ節腫脹を伴う症例では、半減期の長いセフトリアキソンなどを用いた静注治療や入院加療も考慮します。
漢方薬は、西洋医学的治療と併用することで、症状緩和や回復促進に寄与します。特に、のどの痛みや腫れに特化した処方がいくつか存在します。
参考)のどが痛い・腫れてつらい時に飲む漢方|小柴胡湯加桔梗石膏って…
桔梗湯(ききょうとう)は、『傷寒論』に記載された急性咽喉炎の処方です。桔梗と甘草の2味の生薬からなり、急性扁桃炎の初期に有効です。ぬるま湯に溶かしてうがい後に嚥下する古典的な服用法が推奨されます。
参考)のどの腫れがなかなか治らない…それ、桔梗湯でよくなるかも?
小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)は、小柴胡湯に桔梗と石膏を加味した処方で、発熱を伴う扁桃炎や扁桃周囲炎に適応します。抗炎症作用、解熱作用、免疫調整作用が期待できます。
排膿散及湯は、化膿性の炎症に用いられ、膿の排出を促す作用があります。扁桃炎でおできのような症状がある場合に検討されます。
桔梗湯(ききょうとう)|『傷寒論』の急性咽喉炎処方
このリンクには、桔梗湯の適応症や服用方法、他の漢方薬との使い分けが詳しく記載されています。
扁桃周囲膿瘍は、扁桃の周囲に膿が貯留した状態で、抗菌薬単独では治療が困難です。膿瘍腔には薬剤が十分に浸透しないため、排膿処置が最優先となります。
参考)扁桃周囲膿瘍
穿刺排膿は、局所麻酔下で針を刺して膿を吸引する方法です。膿瘍腔の径が1cm未満の場合、切開せずに穿刺のみで対応することもあります。
参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679241149184
切開排膿は、膿の量が多い場合や穿刺だけでは不十分な場合に、メスで数ミリ切開して膿の出口を確保します。この処置により、抗菌薬の効果が向上します。
抗菌薬は、クラリンダマイシン、スルバクタム/セフォペラゾン、セフェピム、カルバペネム系などが使用されます。日本の研究では、穿刺排膿後のクラリンダマイシン静注が、他の抗菌薬と同等の効果で費用対効果に優れると報告されています。
クリンダマイシン,穿刺排膿による扁桃周囲膿瘍治療
この論文には、扁桃周囲膿瘍の治療における抗菌薬の比較検討結果が記載されています。
抗菌薬の長期使用や不適切な使用は、耐性菌の出現や副作用のリスクを高めます。特に、小柴胡湯加桔梗石膏には間質性肺炎の副作用の歴史があり、1996年に緊急安全性情報が発表されました。
甘草を含有する漢方薬(桔梗湯、小柴胡湯加桔梗石膏など)の長期使用では、偽アルドステロン症のリスクがあります。高血圧、低カリウム血症、浮腫などの症状に注意が必要です。
アモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬は、アレルギー反応(発疹、アナフィラキシー)のリスクがあります。投与前にアレルギー歴を必ず確認してください。
NSAIDs(ロキソプロフェンなど)は、胃腸障害や腎機能障害のリスクがあるため、高齢者や腎機能低下患者には慎重に使用します。
軽症のウイルス性扁桃炎は、自然治癒が期待できます。通常、3〜5日程度で症状が軽減します。しかし、以下の場合は薬物療法が必要です。
高熱(38.5℃以上)が持続する場合、嚥下困難で水分摂取が困難な場合、呼吸困難や気道閉塞のリスクがある場合は、早期の医療機関受診と薬物療法が必須です。
溶連菌感染が疑われる場合(迅速抗原検査陽性、典型的な症状)、抗菌薬を10日間内服しないと、急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの重篤な合併症リスクが高まります。
反復性扁桃炎(1年に4回以上、または2年連続で3回以上)では、扁桃摘出術の適応を検討します。手術は、炎症が完全に治まったタイミング(4〜6週間後)で実施します。
キョーリン製薬 医療関係者向け情報
このリンクには、抗菌薬の適正使用の手引きや、咽頭・喉頭炎、扁桃炎への投与基準が記載されています。
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