検体検査とは、人体から採取または排出された血液、尿、便、喀痰、髄液、体腔液、組織、細胞などを対象として、成分、細胞、微生物、抗原・抗体、遺伝子、病理組織学的変化などを調べる臨床検査です。診断の補助、疾患の重症度評価、治療方針の決定、薬剤効果の確認、再発・感染の監視、健康状態の把握など、診療の幅広い局面で利用されます。
一方、生体検査または生理機能検査は、患者に直接接して身体の機能や反応を調べる検査です。代表例には心電図、呼吸機能検査、脳波、超音波検査などがあります。検体検査は採取した試料を分析するのに対し、生体検査は患者の身体機能を直接評価する点に大きな違いがあります。日本臨床衛生検査技師会は、検体検査の対象として血液、尿、喀痰、組織、細胞、体腔液などを示しており、採取から検査、結果報告に至る全工程で精度を確保する重要性を示しています。
参考)https://www.jamt.or.jp/target/general/introduction/
医療現場では、両者を対立する分類として捉えるのではなく、病態を多面的に評価するための補完的な情報源として扱います。例えば、心不全が疑われる患者では、心電図や心エコーといった生体検査に加え、BNPまたはNT-proBNP、腎機能、電解質、心筋逸脱酵素などの検体検査を組み合わせ、症候、身体所見、画像所見を含めて判断します。
日本臨床衛生検査技師会:臨床検査技師の紹介
検体検査は、臨床検査技師等に関する法律および医療法施行令上、微生物学的検査、血清学的検査、血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査、生化学的検査の6分類に整理されています。実務では、診療報酬、検査室の部門構成、院内システムの表示、外部委託先の検査案内などで、一般検査、免疫検査、輸血検査、遺伝子関連検査などのより細かな区分も併用されます。
分類を理解する際には、「何を測るか」だけでなく、「どの検体を使うか」「どの分析法を用いるか」「どの臨床課題に答える検査か」という3点を意識することが重要です。例えばCRPは炎症反応を把握する目的で測定されますが、単独で感染症の病原体や感染部位を確定するものではありません。血液培養、画像検査、症候、身体診察、培養結果などと組み合わせて解釈する必要があります。
| 分類 | 主な対象・代表例 | 臨床での主な役割 |
|---|---|---|
| 微生物学的検査 | 塗抹、培養・同定、薬剤感受性試験、病原体遺伝子検査 | 感染症の原因微生物の推定・確定、抗菌薬選択の支援 |
| 血清学的検査 | 抗原検査、抗体検査、補体、自己抗体、感染症血清診断 | 感染、免疫異常、自己免疫疾患などの評価 |
| 血液学的検査 | 血算、白血球分類、血液像、凝固検査、染色体検査 | 貧血、感染・炎症、血液疾患、出血・血栓傾向の評価 |
| 病理学的検査 | 病理組織検査、細胞診、免疫組織化学、分子病理検査 | 腫瘍診断、病変の確定、治療標的・予後因子の評価 |
| 寄生虫学的検査 | 虫卵・虫体検査、原虫検査、寄生虫抗体検査 | 寄生虫感染症の診断補助と治療効果の確認 |
| 生化学的検査 | 肝機能、腎機能、脂質、糖代謝、電解質、尿・便一般検査 | 臓器障害、代謝状態、栄養状態、慢性疾患管理の評価 |
厚生労働省の資料では、6分類の下位区分として、微生物学的検査に細菌培養同定検査・薬剤感受性検査・病原体遺伝子検査、血液学的検査に血球算定・血液像・出血凝固・染色体検査など、病理学的検査に病理組織・細胞検査・分子病理学的検査などが示されています。また、生化学的検査には生化学検査に加え、尿・糞便等一般検査が位置づけられています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000182677.pdf
厚生労働省:現行の検体検査の分類について
生化学的検査は、日常診療でもっとも接する機会が多い領域の一つです。血清または血漿を用いて、AST、ALT、ALP、γ-GT、LD、総ビリルビン、クレアチニン、eGFR、BUN、Na、K、Cl、血糖、HbA1c、LDLコレステロール、中性脂肪などを測定します。肝胆道系、腎機能、糖代謝、脂質代謝、電解質バランスなどの評価に有用ですが、臨床的な意味は項目ごとに異なり、採血条件、薬剤、食事、脱水、筋肉量、年齢などの影響も受けます。
血液学的検査では、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCV、白血球数、血小板数、網赤血球、白血球分類、末梢血液像などを確認します。貧血の評価では、ヘモグロビン低下のみを見るのではなく、MCV、MCH、RDW、網赤血球、鉄関連項目、ビタミンB12、葉酸、炎症所見、腎機能、出血の可能性などを併せて評価します。凝固検査では、PT、INR、APTT、フィブリノゲン、Dダイマーなどを目的に応じて測定し、抗凝固薬の使用状況、肝機能、炎症、妊娠、術後状態、血栓症リスクなどを踏まえた解釈が必要です。
免疫・血清学的領域では、CRP、プロカルシトニン、免疫グロブリン、補体、リウマトイド因子、抗核抗体、各種感染症抗原・抗体、腫瘍マーカーなどが代表的です。ただし、腫瘍マーカーは悪性腫瘍の有無を単独で確定する検査ではなく、良性疾患、炎症、喫煙、臓器障害などによる上昇もあり得ます。スクリーニング、診断補助、治療反応評価、再発監視のどの目的で測定するのかを明確にして依頼・評価することが重要です。
微生物学的検査は、感染症診療において治療選択へ直結しやすい検体検査です。グラム染色、抗原検出、培養同定、薬剤感受性試験、核酸増幅法などがあり、目的に応じた検体採取が結果の質を左右します。例えば血液培養は、抗菌薬投与前に適切なタイミングで複数セットを採取すること、皮膚常在菌混入を減らすために十分な消毒と無菌操作を行うこと、採取量を確保することが重要です。陽性結果が出た場合も、真の菌血症なのか汚染なのかを、菌種、陽性ボトル数、陽性化時間、臨床症状、血管内デバイスの有無などから評価します。
病理学的検査には、手術・生検検体を対象とする病理組織検査、剥離細胞や穿刺吸引材料を対象とする細胞検査、免疫組織化学検査、分子病理学的検査などがあります。病理診断では、採取部位、病変の大きさ、固定条件、臨床診断、画像所見、既往歴、治療歴といった臨床情報が診断精度を支えます。検体の取り違え防止、固定開始までの時間、固定液の選択、検体量の確保は、組織形態の保持だけでなく、後続する免疫染色や遺伝子検査の成否にも関わります。
遺伝子関連検査は、病原体の核酸検出、遺伝性疾患の原因検索、腫瘍の体細胞遺伝子変異の解析など、対象と目的が幅広い分野です。検査前には、検査目的、対象遺伝子、解析範囲、結果の意味、偶発的所見の可能性、家族への影響、結果説明の体制を確認する必要があります。特に生殖細胞系列の遺伝学的検査では、本人の診療だけでなく血縁者にも関連し得るため、十分な説明と適切な遺伝カウンセリング体制が重要です。
病原体遺伝子検査や腫瘍遺伝子検査は高い分析性能を持つ場合でも、前処理不良、検体量不足、腫瘍細胞含有率、採取時期、治療介入後の病原体量低下などにより、臨床的には偽陰性や解釈困難な結果が生じ得ます。検査報告書の「検出せず」を単純に「疾患なし」と同義に扱わず、検査前確率と臨床経過を踏まえて再検、別検体、別法、画像または病理的評価の必要性を検討します。
検体検査の信頼性は、分析装置や試薬の性能だけでは担保されません。検査前工程、分析工程、検査後工程を通じて管理する必要があります。検査前工程には、患者確認、採取時刻、採取部位、採血管の種類、抗凝固剤の選択、採取順序、溶血、凝固、保存温度、搬送条件、遠心までの時間などが含まれます。分析工程では、内部精度管理、外部精度評価、校正、試薬管理、装置保守、異常値の検知が重要です。検査後工程では、結果確認、緊急異常値の報告、単位・基準範囲の確認、電子カルテへの正確な反映、臨床側への適時の情報提供が求められます。
採血後の溶血は、カリウム、LD、ASTなどの測定値に影響し得ます。また、EDTA加血では血算に適した検体が得られる一方、カルシウム測定には適しません。凝固検査用のクエン酸ナトリウム加血では、規定量まで採血されない場合に血液と抗凝固剤の比率が変化し、結果に影響する可能性があります。検査項目ごとに採取容器と前処理の要件が異なるため、依頼時・採取時・受領時に確認する運用が不可欠です。
結果解釈では、基準範囲と臨床判断値を区別します。基準範囲は一般に一定の基準個体群から統計的に設定される参照区間であり、個々の患者における疾患の有無を直接判定する絶対的な境界ではありません。患者の経時的な変化、すなわち前回値との比較が、単回の基準範囲内外より有用な場合もあります。さらに、検査方法、施設、試薬、単位、基準範囲が異なれば、数値の単純比較には注意が必要です。
厚生労働省は、医療機関および衛生検査所等における検体検査について、精度確保に関する基準や関連情報を公表しています。検査部門だけでなく、検体を扱うすべての職種が、正しい患者に対して正しい検査を適切な条件で実施し、得られた結果を臨床情報と統合して活用することが、患者安全と診療の質を支える基盤となります。
参考)検体検査について|厚生労働省
厚生労働省:検体検査について