
褐色細胞腫は副腎髄質のクロム親和性細胞に由来する腫瘍であり、副腎外の傍神経節に生じるパラガングリオーマと合わせて、褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)として扱われる。臨床上の問題は、腫瘍から分泌されるカテコールアミンが持続的とは限らず、発作性に変動することである。
ノルアドレナリン高値はPPGLを疑う重要な手掛かりである。しかし、ノルアドレナリンが高いという事実のみで褐色細胞腫を確定してはならない。疼痛、急性疾患、精神的緊張、低血糖、心不全、睡眠時無呼吸、腎機能低下、薬剤などでも交感神経系が活性化し、血中ノルアドレナリンは上昇し得るからである。
診断は、単一の数値ではなく、以下の3層を組み合わせて進める。
従来の本邦診断基準では、腫瘍の存在に加え、尿中アドレナリンまたはノルアドレナリン高値、尿中メタネフリンまたはノルメタネフリン高値、あるいはクロニジン試験陽性のいずれかを生化学的陽性所見として位置づけている。近年は、カテコールアミンそのものよりも代謝産物であるメタネフリン分画を重視する考え方が中心になっている。
参考:旧版ガイドラインの診断基準、診断アルゴリズム、機能診断・画像診断・遺伝子解析の全体像を確認できる。
(旧版)褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018|Minds
ノルアドレナリンは交感神経終末およびPPGLから放出されるカテコールアミンである。一方、ノルメタネフリンはノルアドレナリンがカテコール-O-メチル転移酵素(COMT)により代謝されて生じる物質である。PPGLの機能診断では、この「腫瘍内で継続的に産生される代謝産物」という性質が、ノルメタネフリンの大きな利点となる。
ノルアドレナリンは発作時に著増し得るが、非発作時には基準範囲内となることがある。血中カテコールアミンは短時間で変動し、採血時の姿勢、穿刺時の緊張、移動、喫煙、疼痛などの影響を受けやすい。このため、「発作症状があるのにノルアドレナリンが正常だからPPGLではない」と短絡することは危険である。
これに対して、メタネフリンおよびノルメタネフリンは腫瘍細胞内で比較的持続的に生成される。腫瘍が血中へカテコールアミンを大量放出していない時間帯でも異常を捉えられる可能性があるため、スクリーニングおよび除外診断の精度を高めやすい。
| 検査項目 | 主な長所 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 血中ノルアドレナリン | 発作時の著明高値を把握しやすい | 姿勢、疼痛、ストレス、薬剤などで変動しやすい |
| 尿中ノルアドレナリン | 一定期間の排泄量として評価できる | 蓄尿の正確性、腎機能、採尿条件を確認する必要がある |
| 尿中ノルメタネフリン | 腫瘍内代謝を反映し、外来スクリーニングにも利用しやすい | 基準値ではなく、診断用カットオフを確認する |
| 血漿遊離メタネフリン分画 | 国際的に推奨される高感度な評価法 | 採血前安静・体位など前分析条件の影響が大きい |
意外に見落とされやすい点は、ノルアドレナリンが正常でもノルメタネフリンが上昇し得ることである。副腎偶発腫瘍では、臨床的に無症状でも腫瘍内で産生されたカテコールアミンが速やかに代謝され、血中・尿中カテコールアミン自体が目立たない場合がある。そのため、副腎腫瘤を見たときは血圧や典型的発作の有無だけでなく、メタネフリン分画を含めた機能評価が重要になる。
参考:副腎偶発腫瘍において、カテコールアミンが正常でも代謝産物の測定が有用となる背景を詳しく解説している。
副腎腫瘍診療ガイドライン2022年版|日本泌尿器科学会・日本内分泌外科学会
PPGLが疑われる場合、測定値の解釈では「基準範囲を少し超えたか」だけでなく、「正常上限の何倍か」を明確にする。一般に、尿中アドレナリンまたはノルアドレナリン、尿中メタネフリンまたはノルメタネフリンの少なくとも一つが正常上限の3倍以上であれば、PPGLを強く疑う所見と考える。
2025年版の褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドラインでも、スクリーニングにおけるメタネフリン・ノルメタネフリン分画は、正常上限の3倍以上をカットオフとする考え方が示されている。ただし、検査室の「基準値」と、疾患を疑うための「診断カットオフ」は同じ意味ではない。検査結果を読む際には、測定法、単位、クレアチニン補正の有無、施設ごとの報告書記載を必ず確認する。
外来初期評価では、血中カテコールアミン分画、または随時尿中メタネフリン分画が実用的である。血中アドレナリンまたはノルアドレナリンが正常上限の3倍以上、あるいは両者の合計が2,000 pg/mL以上の場合、また随時尿中メタネフリンまたはノルメタネフリンが正常上限の3倍以上、または500 ng/mg・Cr以上の場合には、24時間蓄尿によるカテコールアミン分画・メタネフリン分画での確認が検討される。
24時間蓄尿で尿中カテコールアミンが正常上限の2倍以上、または尿中メタネフリン分画が正常上限の3倍以上であれば、PPGLの可能性は高い。もっとも、これらは診断を支える実践的な閾値であり、単独検査だけで機械的に確定・否定するものではない。腫瘍画像、症候、反復検査、家族歴、薬剤歴を統合して判断する。
ノルアドレナリン優位の分泌パターンは交感神経性パラガングリオーマでもみられ得るため、「ノルアドレナリン高値=副腎褐色細胞腫」とは限らない。腹部・骨盤内だけでなく、傍大動脈、臓器ツッカーヘンデル、胸部、頸部などを念頭に局在を検索する視点が必要である。
参考:随時尿中メタネフリン分画の位置づけ、クレアチニン補正、2025年版ガイドラインの正常上限3倍というカットオフが整理されている。
メタネフリン・ノルメタネフリン分画(クレアチニン換算値)|SRL検査案内
ノルアドレナリンやノルメタネフリンの軽度上昇に遭遇したとき、ただちに腫瘍の存在を前提に画像検査を重ねると、偶発的な副腎腫瘤や非特異的所見に引きずられる。むしろ、前分析条件と偽陽性因子の点検が診断精度を左右する。
血漿遊離メタネフリン分画を用いる場合、採血前の安静、採血時の体位、静かな環境が重要である。座位や立位での採血、外来到着直後の採血、穿刺時の不安や痛みは交感神経活動を高め、特にノルメタネフリンの偽陽性につながり得る。可能な限り、十分な安静後に定められた検査室の手順で採血する。
尿中検査では、24時間蓄尿が適切に行われたか、随時尿ではクレアチニン補正値が妥当かを確認する。高齢者、低筋肉量、腎機能低下例では、クレアチニン補正値の解釈にも慎重さが必要である。腎不全ではカテコールアミン代謝物の排泄や血中濃度に影響が及び、一般的なカットオフをそのまま当てはめにくい。
鑑別すべき偽陽性・交感神経亢進の原因として、次の項目を確認する。
薬剤の休薬は、独断で実施してはならない。精神神経疾患や循環器疾患の治療薬を急に中断すると、離脱症状や原疾患悪化を招く。処方医、内分泌専門医、検査室と連携し、「中止できるか」「どの程度の休薬期間が必要か」「中止せず別検査で評価するか」を個別に決める。
また、クロニジン抑制試験は、軽度のノルアドレナリン優位高値で真偽の判断が難しい場面に補助的に使われることがある。健常な交感神経亢進ではクロニジン投与後にノルアドレナリンが抑制される一方、PPGLでは腫瘍からの自律的分泌のため抑制されにくい。ただし、循環動態や併用薬を考慮すべき検査であり、専門的な適応判断と安全管理が必要である。
生化学的にPPGLが疑われた後は、局在診断へ進む。基本はCTまたはMRIであり、副腎病変の評価にはCTが用いられることが多い。一方、放射線被曝を抑えたい小児・妊婦、転移や局所進展の評価、造影剤の使用を慎重に考える症例ではMRIが重要になる。
画像先行で発見された副腎偶発腫瘍でも、穿刺・生検を検討する前にPPGLを除外することが原則である。褐色細胞腫に対して無防備に針生検を行えば、腫瘍刺激によるカテコールアミン放出から、高血圧クリーゼ、不整脈、心筋障害などを引き起こすおそれがある。画像で転移性腫瘍や悪性リンパ腫が疑われ、生検が必要な状況でも、まず生化学的評価を済ませるべきである。
転移例、再発例、多発病変、CT・MRIで局在が明らかでない場合には、123I-MIBGシンチグラフィ、PETなどの機能画像が検討される。検査の選択は、腫瘍の部位、分泌型、遺伝子背景、治療選択により変わる。たとえばSDHB関連腫瘍では転移リスクも念頭に置き、解剖学的画像だけでなく全身評価を含めた方針が必要になる。
PPGLでは遺伝性素因の頻度が比較的高く、若年発症、両側副腎病変、多発・再発、頭頸部パラガングリオーマ、転移例、家族歴がある場合には、遺伝カウンセリングを伴う遺伝学的検査を積極的に検討する。注目すべきは、遺伝子背景が分泌プロファイルにも反映される点である。ノルアドレナリン・ノルメタネフリン優位は、SDHx関連などで問題になることがあり、単なる「検査異常」ではなく、病変分布や家族への影響を見据えた情報となる。
一方で、カテコールアミン非産生または低産生のPPGLも存在する。特に一部のパラガングリオーマでは、生化学検査が陰性または弱陽性でも、画像所見、家族歴、遺伝学的背景から診断を検討する必要がある。したがって診断アルゴリズムは、ノルアドレナリン高値を見つけるためだけのものではなく、「ノルアドレナリンが高い場合」と「高くなくても疑いが残る場合」の両方に対応する枠組みである。
参考:生化学的検査を確認後にCT・MRIを行う原則、転移例でのMIBGシンチグラフィやFDG-PET、遺伝子検査の考え方を確認できる。
褐色細胞腫の診断では、ノルアドレナリン高値を見逃さないことと同じくらい、軽度高値を過大評価しないことが重要である。ノルアドレナリンは発作性・反応性に変動するため、ノルメタネフリンを含むメタネフリン分画、検体採取条件、腎機能、薬剤、画像、遺伝学的背景を一つの診断線上に置いて評価する。とりわけ副腎偶発腫瘍や不安定な高血圧患者では、PPGLを除外する前に侵襲的操作へ進まないという安全原則を共有しておきたい。
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