感染症専門医 要件を満たす研修と申請の実務

感染症専門医を目指す医師に向けて、日本感染症学会が示す基本領域専門医、研修年数、認定研修施設、症例記録、業績、試験、更新の要件を実務的に整理します。自分の研修歴と申請書類に不足はないでしょうか?

感染症専門医 要件の基礎知識と核心ガイド

感染症専門医取得までの実務要件
基本領域専門医が出発点

感染症専門医は二階建ての資格制度であり、申請時には所定の基本領域専門医または認定医の資格が必要です。

研修歴と症例記録を整える

感染症学の研修6年以上に加え、指定施設での3年研修、30症例の一覧表と15症例の病歴要約を提出します。

取得後も5年ごとの更新が必要

資格を継続するには会員資格と基本領域資格を保ち、原則50単位の学術・診療活動実績を5年間で積み上げます。


感染症専門医とは何かを確認する


感染症専門医は、一般社団法人日本感染症学会が認定する専門医資格です。同学会の制度規則では、感染症に関する臨床医学の発展と普及を促し、感染症の知識と実践に優れた医師を育成することを制度の目的としています。単に感染症の診療経験があることを示す資格ではなく、病原体診断、抗菌薬・抗ウイルス薬などの適正使用、重症感染症への対応、院内感染対策、地域の感染症対策、学術活動といった領域で、体系的な研修と評価を経た医師を認定する仕組みです。
制度上は、基本領域の専門性を土台とする「二階建て」の位置づけです。そのため、初期研修を終えた直後に単独で取得する資格ではありません。内科、小児科、外科、救急科、産婦人科、皮膚科、泌尿器科、麻酔科、臨床検査医学など、自身の基本領域で専門医または認定医となったうえで、感染症診療に関する追加の研修・業績・試験を満たす流れになります。診療科ごとの専門性を持ちながら、感染症を横断的に診る人材を育成する点が特徴です。
臨床現場では、感染症専門医がすべての感染症患者を主治医として担当するとは限りません。例えば、菌血症、感染性心内膜炎、骨・関節感染症、複雑性尿路感染症、免疫不全患者の発熱、抗酸菌症、輸入感染症、院内アウトブレイクなどでは、各診療科・検査部門・薬剤部・感染管理部門と連携し、診断方針、培養採取、画像評価、抗微生物薬の選択、治療期間、感染対策を支援する役割が期待されます。
なお、「感染管理認定看護師」「感染制御専門薬剤師」「ICD(インフェクションコントロールドクター)」などは、感染対策に関わる重要な資格・認定ですが、日本感染症学会の感染症専門医とは取得主体、対象職種、認定要件が異なります。キャリア設計では、目指す役割が感染症診療の専門医なのか、感染管理を中心とする活動なのかを分けて理解することが重要です。
日本感染症学会「専門医制度規則・細則」


申請時に満たすべき基本要件

感染症専門医の認定申請では、基本領域資格、感染症研修、学術業績、会費納入、認定試験という複数の要件を、すべて満たす必要があります。特に研修歴は「感染症に関心を持って診療した期間」を自己判断で数えるのではなく、学会が定める認定研修施設・連携研修施設での研修として認められるか、入会時期や施設認定日との関係も含めて確認しなければなりません。
2026年度の申請手続きの手引きでは、申請条件として、基本領域学会の専門医または認定医であること、基本領域の研修年限を含めて感染症学の研修を6年以上行っていること、そのうち3年間は日本感染症学会の会員として指定研修施設で所定カリキュラムに基づき研修していること、筆頭者として論文1篇・学会発表2篇の計3篇の業績があること、会費を完納していることが示されています。規則上は、これらの資格要件を満たしたうえで認定試験に合格することが必要です。

項目 基準・内容 備考
基本領域資格 日本感染症学会と二階建て制度を構成する基本領域学会の専門医または認定医 申請時だけでなく、資格更新時にも有効な資格を求められる
感染症学研修 基本領域の研修年限を含め、感染症学の研修を合計6年以上 研修歴は勤務歴と一致するとは限らないため、早期に確認する
指定施設での研修 6年のうち3年間は、学会会員として指定研修施設でカリキュラムに基づき研修 入会後かつ施設認定日以降の研修が対象となる
学術業績 感染症に関する筆頭論文1篇、学会発表2篇、計3篇 同一内容の重複、開催前の学会発表などは認められない
試験 専門医認定試験に合格すること 規則上は60題・90分、AタイプまたはX2タイプの出題方式
会費 日本感染症学会の会費を完納していること 未納がある場合は申請前に必ず解消する

基本領域については、制度規則の付則に、内科、小児科、外科、救急科、放射線科、産婦人科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、脳神経外科、泌尿器科、皮膚科、病理、麻酔科、リハビリテーション科、臨床検査医学などが示されています。ただし、二階建て制度の対象や運用は改定され得るため、申請する年度の手引きと学会の最新案内で必ず確認してください。
日本感染症学会「感染症専門医資格認定 申請手続きの手引き(2026年度)」


研修施設・症例・業績の実務ポイント

感染症専門医 要件で見落としやすいのが、「どの施設で」「いつからいつまで」「誰の指導のもとで」研修したかという客観的な裏付けです。指定研修施設での3年間は、単に感染症診療を担う病院に勤務していたというだけでは足りません。学会への入会後であり、かつ当該施設が日本感染症学会の認定研修施設または連携研修施設として認定された日以降の期間が対象です。異動して複数施設で研修した場合には、各施設分の研修証明書が必要になるため、異動時から記録を整理しておくと申請時の負担を減らせます。
認定研修施設には、医育機関附属病院、総合病院またはこれに準ずる病院であること、常勤の日本感染症学会指導医が1名以上いること、学会の研修カリキュラムに基づく研修が可能であることなどが求められます。勤務先が指定施設かどうか、いつ認定されたか、連携研修施設として扱われるかは、学会が公表する施設一覧で確認してください。研修開始後ではなく、進路を決める時点で確認することが、将来の研修期間の算定漏れを防ぐ基本です。
申請書類では、感染症に関する診療30症例の研修記録一覧表と、そのうち15症例の病歴要約を提出します。病歴要約には、感染症の評価、病原診断の根拠、治療法、治療薬を選択した根拠を明確に記載することが求められます。単に「肺炎に対し抗菌薬を開始して改善した」と書くのではなく、宿主因子、重症度、画像・微生物学的検査、鑑別、抗菌薬選定、de-escalation、治療期間、転帰、文献に基づく考察を一連の臨床判断として示す視点が必要です。

  • 30症例は、臓器別感染症や原因微生物が一部に偏らないように選定する
  • 市中感染症と院内感染症を含めることが望ましいとされている
  • 病歴要約の患者情報には個人や紹介元を特定できる情報を記載しない
  • 研修記録一覧表と病歴要約で、年齢、性別、診療開始日・終了日、診断名などを一致させる
  • グループ診療の症例は、担当状況を明示し、教育責任者による証明書を準備する
  • 教育責任者の署名・捺印、書式、添付資料の不足がないかを提出前に点検する

業績要件では、感染症に関して筆頭者としての論文発表1篇と学会発表2篇が必要です。論文は、学会誌または査読制度の整った学術誌に掲載されたものが対象です。投稿規定のない商業誌や依頼原稿は原則として対象にならず、査読のないレビューも該当しない場合があります。学会発表は、原則として日本医学会総会または日本医学会加盟分科会の学術集会・地方会での発表が対象です。同一内容を別の学会で発表しても2件として扱われないため、症例報告、後方視的検討、抗菌薬適正使用、感染管理、診療プロセス改善など、早い段階から異なるテーマで実績を積み上げることが現実的です。
日本感染症学会認定研修施設名一覧


認定試験と申請書類の準備方法

感染症専門医の認定は、受験資格を満たして試験を受けるだけで完結するものではありません。専門医制度規則では、審議会が認定試験の結果に加えて、研修内容と診療症例を総合的に評価すると定めています。つまり、知識試験対策と並行して、研修証明、症例記録、病歴要約、論文・学会発表の証憑を整えることが不可欠です。
規則の細則では、認定試験は60題、試験時間90分とされています。出題タイプはAタイプまたはX2タイプです。具体的な出題範囲は、年度の「感染症専門医試験出題基準(カリキュラム)」を確認する必要がありますが、実務的には、感染症診断、微生物学、抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬、薬物動態・薬力学、感染管理、ワクチン、抗菌薬適正使用、宿主免疫、渡航関連感染症、感染症法に関係する疾患などを、診療判断と結びつけて理解することが重要です。
2026年度の手引きでは、受験願書、写真を貼付した受験票、感染症研修証明書、研修記録一覧表30症例、病歴要約15症例、論文・学会発表のコピー、基本領域専門医または認定医証の写し、受験料の払込受領書コピー、チェックリストを提出書類として示しています。受験料は22,000円(税込)で、申請受付期間は2026年4月1日から8月31日まででした。年度により期限、費用、用紙、運用が変更される可能性があるため、過年度資料の内容をそのまま流用せず、必ず申請年度の公式手引きを確認してください。
書類作成の実務では、提出締切の直前に病歴要約を作り始めないことが重要です。15症例を一度に整えると、診療録確認、教育責任者への確認依頼、文献検索、匿名化、記載内容の整合性確認に想定以上の時間を要します。例えば、申請予定年の前年から、候補症例を40~50例程度記録し、疾患・臓器・微生物・感染経路・市中か院内か・重症度・抗微生物薬の種類を一覧化しておけば、30症例と15症例をバランス良く選びやすくなります。
また、業績の「発表済み」という要件にも注意が必要です。開催前の学会発表は認められず、掲載前の論文では掲載証明書などの添付が必要となる場合があります。学会抄録集やプログラム、論文の表紙・掲載ページなど、後日に証明できる資料を発表・掲載の時点で電子保存しておくと安全です。
日本感染症学会「専門医認定申請」


資格更新と長期的なキャリア設計

感染症専門医の認定期間は5年間です。資格を取得した後も、専門医を継続して名乗るためには更新審査を受けなければなりません。更新では、認定後も日本感染症学会の会員であること、更新申請時に基本領域の専門医または認定医であること、5年間の感染症診療・学術活動への貢献と指定教育企画への参加により所定の単位を取得していることが必要です。
通常の更新では、5年間で合計50単位が必要であり、そのうち15単位は日本感染症学会が主催する学術集会または地方会への参加で取得しなければなりません。学会本会への参加は10単位、地方会への参加は5単位とされ、筆頭演者としての発表には別途単位が設定されています。感染症診療、院内感染対策、地域感染対策、予防接種活動などへの5年間の貢献を証明する書類も、更新単位の対象となります。
更新を見据えると、資格取得後に学会参加を後回しにするのはリスクになります。認定期間の終盤に単位不足に気付き、短期間で必要な15単位の本会・地方会参加要件を満たせない可能性があるためです。毎年の学会参加、地方会での発表、感染症診療・AST活動・ICT活動・地域連携などの実績の記録を、認定直後から継続することが望まれます。参加証、領収書、プログラム、発表記録、証明書などは、更新時に必要となるため保管してください。
2026年度の更新手続きでは、認定期間が2026年12月31日までの者を対象とし、更新申請の提出期限は2026年11月30日必着とされました。更新申請料は11,000円です。また、認定期間中に65歳を超えた専門医は、会員資格と基本領域資格の条件を満たせば更新可能とされ、更新料は免除されます。留学・海外勤務、病気療養、出産・育児、災害、その他の事情により更新できない場合には、更新延期願いを申し出る制度も設けられています。
感染症専門医を目指すキャリアでは、「6年研修を終える時期」だけを目標にするのではなく、基本領域資格の取得・維持、学会入会の時期、認定研修施設への配属、指導医との連携、症例蓄積、論文化・学会発表、試験準備、更新単位の確保までを一本の計画として設計することが大切です。特に異動や出産・育児、留学、勤務形態の変更が見込まれる場合は、研修期間の算定や証明書の取得に影響し得るため、早めに日本感染症学会の専門医制度審議会へ確認する姿勢が求められます。
日本感染症学会「専門医認定更新」




感染症道場破り シーズン1