患者の権利宣言5つを現場で生かす要点

患者の権利宣言で押さえるべき5つの視点を、良質な医療、自己決定、情報、プライバシー、尊厳の観点から解説します。医療従事者として日々の説明や対応にどのように生かせるでしょうか?

患者の権利宣言5つの基礎知識と核心ガイド

患者の権利を支える五つの視点
権利は医療の信頼基盤

患者の権利は単なる掲示事項ではなく、説明、同意、情報保護、尊厳のあるケアを支える実践原則です。

五つは現場向けの整理軸

公式宣言には多様な権利がありますが、現場では五つの柱に整理すると、対応の漏れや認識のずれを防げます。

同意書だけで終わらせない

インフォームド・コンセントは署名取得の手続きではなく、患者が理解し、選び、質問できる対話の過程です。


患者の権利宣言とは何か


患者の権利宣言とは、医療を受ける人が一人の人格として尊重され、必要な医療情報を得たうえで、自らの治療や療養に関する意思決定へ参加するための基本原則を示したものです。医療従事者にとっては、患者対応の質、説明のあり方、個人情報の取り扱い、多職種連携における情報共有の範囲を考えるための実務的な基準でもあります。
国際的には、世界医師会が採択した「患者の権利に関するリスボン宣言」が代表的です。同宣言は、差別のない適切な医療、医療機関や医師を選択・変更する自由、自己決定、情報を受ける権利、守秘義務、尊厳、健康教育などを主要な権利として示しています。医師、医療従事者、医療組織には、こうした権利を認識し、擁護する共同の責任があると位置付けています。


参考)患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言|世界医師会|国際活…
一方、日本では「患者の権利宣言 5つ」という名称で全国一律に定められた、固定の五項目があるわけではありません。病院・診療所ごとに、地域特性、診療機能、理念、対象患者などを踏まえて表現や項目数は異なります。そのため医療従事者が説明する際は、「五つ」という数字だけを暗記するのではなく、患者中心の医療を実現するために何を保障するのかを理解することが重要です。
本記事では、各医療機関の患者権利章典や国際的な原則に共通する内容を、現場で使いやすい五つの視点に整理します。これは特定の医療機関の公式文言を置き換えるものではありません。院内で掲示・説明・研修に用いる場合は、自施設の理念、患者の権利と責務に関する規程、個人情報保護方針、説明同意の運用基準と必ず整合させてください。
患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言(日本医師会)


患者の権利を5つに整理する

患者の権利を日常業務に落とし込むには、内容を「良質な医療」「自己決定」「情報」「プライバシー」「尊厳」の五つに整理すると有用です。これらは相互に独立したチェック項目ではなく、すべてが連動します。例えば、患者が治療を選択するには、理解できる情報が必要であり、その意思や病状を他者に不用意に開示しないことも求められます。

項目 基準・内容 備考
1.良質で公平な医療を受ける権利 患者は差別なく、医学的根拠と安全性に配慮した適切な医療を受ける 資源が限られる場合も、医学的基準に基づく公平な手続きが必要
2.自己決定と選択の権利 説明を受け、治療への同意、拒否、医療者・医療機関の選択に参加する 判断能力、緊急性、法令、代理意思決定を個別に検討する
3.情報を知り理解する権利 病状、検査、治療目的、利益、不利益、代替案を理解可能な方法で受け取る 通訳、図示、やさしい言葉、teach-backなどを活用する
4.プライバシーと秘密保持の権利 診療情報、生活歴、家族情報、身体的羞恥に関わる情報を適切に保護する 共有は必要最小限を原則とし、閲覧環境にも注意する
5.尊厳を尊重される権利 価値観、文化、信条、生活背景を尊重され、苦痛への配慮を受ける 終末期、意思表示困難時、身体介助時ほど意識して実践する

世界医師会リスボン宣言では、良質の医療、選択の自由、自己決定、情報、守秘義務、尊厳などを明示しています。患者は診断・治療について同意を与えることも差し控えることもでき、意思決定に必要な情報を得る権利を持つとされています。また、情報は患者の文化に適した方法で、患者が理解できる方法により提供されるべきとされています。


「5つ」という整理は、複雑な宣言の内容を縮小するためではありません。むしろ、外来、病棟、手術室、救急、在宅、介護連携など、どの現場でも患者中心の対応ができているかを確認するための共通言語として使うことに意味があります。


自己決定を支える説明と同意

患者の自己決定の権利を尊重するうえで、中心となるのがインフォームド・コンセントです。ただし、インフォームド・コンセントは説明書を渡し、同意書に署名をもらうだけの事務手続きではありません。患者が自分の病状と選択肢を理解し、自身の価値観や生活上の優先事項に照らして、納得できる意思決定を行えるように支援する継続的な対話の過程です。
説明では、診断名や処置名を伝えるだけでは不十分です。治療の目的、期待できる利益、主要な危険性・合併症、治療しない場合の経過、代替手段、治療後に予想される生活への影響を、患者ごとの理解力と状況に応じて示します。専門用語を連続させず、図、模型、イラスト、数値、比較表などを組み合わせると、理解の助けになります。

  • 説明前に、患者がすでに知っている内容と、特に不安に感じている点を確認する
  • 診断、目的、方法、利益、不利益、代替案、無治療の場合を過不足なく説明する
  • 「分かりましたか」と尋ねるだけでなく、患者の言葉で説明内容を話してもらうteach-backを用いる
  • 質問する時間を確保し、家族同席や後日の再説明など、意思決定を急がせない配慮を行う
  • 患者が拒否や保留を表明した場合も、非難せず理由や価値観を確認し、継続支援を検討する

日弁連の「患者の権利の確立に関する宣言」も、患者の権利の中核として、病状、医療行為の目的・方法・危険性・代替的治療法について正しい説明を受け、理解したうえで、自主的に選択・同意・拒否できるインフォームド・コンセントの原則を示しています。


参考)日本弁護士連合会:患者の権利の確立に関する宣言
救急で緊急の侵襲的処置が必要な場合、意識障害やせん妄などにより本人が意思を示せない場合、未成年者や判断能力が不十分な患者の場合には、通常の説明・同意とは異なる判断が必要です。それでも、患者の事前意思、本人が表明してきた価値観、代理人の権限、最善利益、緊急性を丁寧に確認し、可能な範囲で本人を意思決定に参加させる姿勢を失わないことが求められます。


情報提供と個人情報保護を両立する

患者には、自身の健康状態や診療記録に含まれる自己情報について、十分な説明を受ける権利があります。医療者は「説明した」ことではなく、「患者が理解して意思決定に利用できた」ことを目標に置く必要があります。特に、高齢患者、認知機能が低下した患者、視覚・聴覚に障害がある患者、日本語での会話が難しい患者では、情報の提供方法自体がケアの質を左右します。
具体的には、説明の場所を静かな環境にする、家族の同席希望を確認する、筆談や補聴支援を用いる、医療通訳を活用する、重要な内容を紙面でも渡す、説明を複数回に分けるといった対応が考えられます。医療従事者側が「十分説明した」と考えても、患者が不安、遠慮、知識差、疲労、痛みなどから質問できないことがあります。表情、沈黙、うなずきだけを理解の証拠とみなさない姿勢が必要です。
同時に、患者情報は厳格に守らなければなりません。病状、診断、治療内容、予後、検査結果だけでなく、住所、家族関係、就労状況、社会的背景、会話内容も個人情報になり得ます。ナースステーションや廊下、エレベーター、待合室での会話、画面ののぞき見、誤送信、SNS投稿、写真撮影、研修資料への転用など、日常の小さな行為が情報漏えいにつながる可能性があります。
リスボン宣言は、健康状態、症状、診断、予後、治療に関する個人を特定し得る情報は、患者の死後も秘密が守られるべきであるとしています。秘密情報の開示は、患者の明確な同意がある場合または法律に明確な定めがある場合に限られ、医療提供者間での共有も、原則として「知る必要性」に基づくべきと示されています。


患者の権利の確立に関する宣言(日本弁護士連合会)


尊厳を守るチーム医療の実践

尊厳を尊重される権利は、丁寧な言葉遣いだけを意味するものではありません。患者が「病名」や「処置対象」ではなく、固有の生活史、家族関係、文化、信条、希望、不安を持つ一人の人間として扱われることです。診療の効率、安全確保、標準化は重要ですが、それらが患者の人格や選好を見えなくさせる理由にはなりません。
尊厳への配慮は、身体介助、清拭、排泄ケア、更衣、処置、診察、移送といった日常的な場面で具体化されます。カーテンを閉める、露出を必要最小限にする、介助前に目的と手順を説明する、患者の返答を待つ、呼称を本人の希望に合わせる、家族関係や性自認・性表現に配慮するなど、小さな実践の積み重ねが重要です。
終末期では、延命治療の選択、苦痛緩和、療養場所、面会、宗教的・精神的支援などについて、本人の意思を早い段階から確認し、変化に応じて見直すことが求められます。本人が意思を表明できなくなった後も、過去の発言、価値観、アドバンス・ケア・プランニングでの話し合い、家族等から得られる情報をもとに、患者本人なら何を大切にしたかを多職種で検討します。
リスボン宣言は、患者の文化と価値観を尊重し、医療と医学教育の場で尊厳とプライバシーを常に守るべきことを示しています。また、患者には最新の医学知識に基づく苦痛緩和を受ける権利、人間的な終末期ケアを受け、可能な限り尊厳を保ちながら安楽に死を迎えるための助力を得る権利があるとしています。


患者の権利を守ることは、医療者個人の善意だけに委ねるべきではありません。説明時間を確保する仕組み、通訳や意思決定支援へのアクセス、倫理コンサルテーション、情報アクセス権限の管理、インシデント報告、患者相談窓口、多職種カンファレンスなど、組織として支える必要があります。五つの権利を掲示物で終わらせず、患者との接点ごとに確認できる運用へ変えることが、信頼される医療につながります。




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