プリロカインとリドカインは、いずれもアミド型局所麻酔薬です。局所麻酔薬は末梢神経の電位依存性ナトリウムチャネルを可逆的に阻害し、脱分極に必要なナトリウムイオン流入を抑制します。その結果、痛覚を含む神経インパルスの発生と伝導が抑えられ、投与部位に限局した麻酔効果が得られます。両薬剤とも、局所浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔、表面麻酔など、製剤・承認範囲に応じて幅広く用いられる薬剤です。エステル型局所麻酔薬とは異なり、一般に血漿コリンエステラーゼで速やかに加水分解される薬剤ではなく、主に肝臓などで代謝される点が共通しています。
参考)医療用医薬品 : エムラ (エムラクリーム)
ただし、「同じアミド型だから同じように扱える」と考えるのは適切ではありません。局所麻酔薬の臨床効果と安全性は、薬剤そのものの性質だけでなく、濃度、総投与量、投与速度、投与部位の血流、血管収縮薬の併用、患者の年齢、体格、肝・腎機能、心機能、併用薬などで大きく変動します。さらに、日本で実際に遭遇しやすい比較場面には、リドカイン単剤の注射薬と、リドカイン・プロピトカイン配合の外用剤であるエムラクリームの比較、または歯科領域におけるリドカイン製剤とプリロカイン製剤の比較があります。したがって、一般名だけで比較を完結させず、「どの剤形を、何の目的で、どの部位に、どの用量で用いるか」という処方・手技単位で評価することが重要です。
なお、日本の添付文書や医薬品情報では、prilocaineが「プロピトカイン」と表記されることがあります。英語圏でいうprilocaineと、日本でいうプロピトカインは同一成分を指すため、文献検索や製剤確認では表記ゆれに注意してください。エムラクリームはリドカインとプロピトカインを配合した外用局所麻酔剤であり、両成分をそれぞれ2.5%含有する製剤です。
リドカインは、局所麻酔薬としてだけでなく、静脈内投与で用いられる抗不整脈薬としても知られる薬剤です。主として肝代謝酵素であるCYP1A2およびCYP3A4を介して代謝され、N-脱メチル化を経てMEGX、GXなどの代謝物を生じます。このため、重篤な肝機能障害、肝血流低下を伴う病態、循環不全、高齢、薬物相互作用などでは、リドカインの血中濃度上昇や毒性発現に注意が必要です。局所麻酔目的であっても、血管内への誤注入、血流豊富な部位への大量投与、短時間での反復投与は、全身移行量を増やす要因になります。
プリロカインは、肝臓に加えて腎臓や肺などのアミダーゼによる代謝にも関与するとされ、代謝過程でo-トルイジンを生じます。この代謝物はヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビンを増加させる可能性があるため、プリロカインを理解するうえで最も重要な安全性上の特徴です。リドカインでも局所麻酔薬全般に共通する中枢神経系・心血管系の毒性には注意が必要ですが、プリロカインではそれに加え、メトヘモグロビン血症という別の観点から患者背景と症状を確認します。
| 項目 | リドカイン | プリロカイン(プロピトカイン) |
|---|---|---|
| 薬剤分類 | アミド型局所麻酔薬 | アミド型局所麻酔薬 |
| 主な作用機序 | ナトリウムチャネルを可逆的に阻害し、神経インパルス伝導を抑制する | ナトリウムチャネルを可逆的に阻害し、神経インパルス伝導を抑制する |
| 主な代謝上の特徴 | 主に肝臓でCYP1A2、CYP3A4を介して代謝される | 肝臓・腎臓・肺などで代謝され、o-トルイジンを生じる |
| 代表的な注意点 | 局所麻酔薬中毒、心伝導系への影響、他の局所麻酔薬との毒性加算 | 局所麻酔薬中毒に加え、メトヘモグロビン血症のリスク |
| 外用配合製剤での位置付け | プロピトカインと配合され、経皮的な表面麻酔に用いられる | リドカインと配合され、経皮吸収と局所麻酔効果に寄与する |
| 臨床判断の要点 | 製剤濃度、投与経路、総投与量、肝機能、併用薬を確認する | 上記に加え、年齢、G6PD欠乏、酸化作用をもつ併用薬を確認する |
エムラクリームでは、リドカインとプロピトカインの共融混合物という製剤技術が使われています。両成分を組み合わせることで室温付近で液状の油相を形成し、皮膚への浸透を可能にします。これは単に2種類の局所麻酔薬を加えたものではなく、無傷皮膚を通して真皮の神経終末付近まで有効成分を到達させるための製剤設計です。成人では、皮膚レーザー照射療法時、または注射針・静脈留置針穿刺時の疼痛緩和に用いられ、通常は10cm2あたり1gを60分間、密封法で塗布します。成人の1回最大塗布量は10g、最大塗布時間は120分です。
プリロカインとリドカインの使い分けで最初に確認すべきなのは、求める麻酔の「深さ」と「開始までの時間」です。静脈留置針の穿刺、採血、皮膚レーザー照射など、無傷皮膚に対する処置前の疼痛緩和では、リドカイン・プロピトカイン配合の外用剤を、規定の塗布量・塗布時間・密封方法に従って使用する選択肢があります。一方、切開、縫合、深部組織を操作する処置、緊急処置のように、より確実な浸潤麻酔や迅速な麻酔開始が必要な状況では、注射用局所麻酔薬を手技・承認範囲に沿って用いることが基本になります。
外用の配合剤は、皮膚表面からの麻酔に有用である反面、直ちに処置を開始できる薬剤ではありません。国内添付文書では、成人のレーザー照射予定部位または穿刺予定部位に対して、10cm2あたり1gを60分間密封塗布した後、薬剤を除去して直ちに処置を行うとされています。時間に余裕がない場面で「クリームを塗ればすぐに無痛化できる」と誤認すると、患者の疼痛や手技の中断につながるおそれがあります。逆に、長時間の過剰な塗布や広範囲塗布は、全身吸収量増加の要因となるため、効果不足を補うために塗布時間・面積を自己判断で増やしてはいけません。
外用のリドカイン・プロピトカイン配合剤では、局所反応として蒼白、紅斑、硬結、そう痒感などがみられることがあります。皮膚の蒼白化は薬理作用に伴う一過性の変化として起こり得ますが、患者が驚くこともあるため、処置前説明に含めておくと実務上有用です。また、添付文書上は損傷皮膚、性器皮膚および粘膜への使用は避けるよう記載されており、眼や中耳への混入にも注意が必要です。適応外の部位・方法へ安易に流用しないことが重要です。
プリロカインとリドカインの違いを語る際、最も臨床的に重要な論点がメトヘモグロビン血症です。プリロカインの代謝物であるo-トルイジンにはメトヘモグロビンを増加させる作用があり、血液の酸素運搬能力が低下する可能性があります。メトヘモグロビン血症では、チアノーゼ、めまい、悪心、頭痛、呼吸困難、錯乱、痙攣、昏睡などが生じ得ます。特に、酸素飽和度の値と患者の臨床像に乖離がある場合、酸素投与への反応が乏しいチアノーゼがある場合、あるいはプリロカイン含有製剤の用量超過や不適切な広範囲使用が疑われる場合は、メトヘモグロビン血症を鑑別に挙げます。
リドカイン・プロピトカイン配合のエムラクリームは、メトヘモグロビン血症のある患者には禁忌です。また、G6PD欠乏患者ではメトヘモグロビン血症が発現しやすいとされます。低出生体重児、新生児、乳児では重篤なメトヘモグロビン血症の報告に注意が必要であり、小児では年齢・体重ごとに定められた最大塗布量と最大塗布時間を厳守しなければなりません。とくに小児の疼痛緩和では、保護者が自宅で事前に塗布する運用もあり得るため、「多めに塗る」「長く覆う」「複数部位に広く塗る」といった誤用を防ぐ具体的な説明が必要です。
併用薬にも注意が必要です。添付文書では、サルファ剤、エステル型局所麻酔薬、硝酸薬など、メトヘモグロビン血症を起こすことがある薬剤との併用で、チアノーゼなどの症状に注意するよう記載されています。また、他のアミド型局所麻酔薬やクラスI抗不整脈薬との併用では、中毒症状が相加的に起こる可能性があります。患者の服薬情報を確認するときは、「局所麻酔薬を使っているか」だけでなく、メトヘモグロビン血症を助長しうる薬剤、心伝導や心機能に影響する薬剤、同日に処方・投与された局所麻酔薬含有製剤まで確認します。
メトヘモグロビン血症が疑われる場合は、原因薬の投与を中止し、患者の呼吸・循環状態を評価しながら適切な処置につなげます。エムラクリームの添付文書では、チアノーゼなどが認められた場合には投与を直ちに中止し、重症例ではメチレンブルー投与などの適切な処置を行うとされています。ただし、G6PD欠乏症が疑われる場合の対応を含め、治療は患者の重症度、検査結果、施設プロトコール、専門科との連携を踏まえて判断する必要があります。現場では「プリロカイン使用後のチアノーゼ=単なる呼吸器症状」と決めつけず、薬剤性の酸素運搬障害を見逃さない姿勢が重要です。
リドカイン、プリロカインのいずれでも、全身吸収や血管内誤投与による局所麻酔薬中毒、すなわちLASTに注意が必要です。中毒は投与直後だけでなく、組織からの吸収に伴って遅れて発現することもあります。初期には、口周囲のしびれ、舌のしびれ、耳鳴り、聴覚過敏、視覚障害、めまい、不安、興奮、振戦などが現れ得ます。進行すると、意識障害、全身痙攣、呼吸抑制・呼吸停止、血圧低下、徐脈、伝導障害、心室性不整脈、循環虚脱、心停止へ至る可能性があります。局所麻酔薬を投与する場面では、投与前から患者との会話を保ち、違和感の訴えを拾い上げることが早期認知に役立ちます。
予防の基本は、患者ごとの投与量計算、薬液濃度の再確認、注入前の吸引、分割投与、ゆっくりした注入、反復投与時の累積量評価、モニタリングです。局所麻酔薬の最大投与量は、単に薬剤名だけで固定的に記憶するのではなく、製剤、血管収縮薬の有無、投与部位、患者の全身状態、添付文書・施設基準を含めて確認してください。とくに、外用剤を前処置として用いた後に浸潤麻酔を追加する場合や、複数診療科で処置が重なる場合には、局所麻酔薬の総曝露量を見落としやすくなります。外用であっても、塗布面積・塗布時間の増大、皮膚バリア障害、低体重、肝腎機能低下などにより全身吸収の影響が増す可能性があります。
プリロカインとリドカインの違いは、単純な「どちらが強いか」では整理できません。両薬剤は共通してナトリウムチャネルを阻害するアミド型局所麻酔薬ですが、リドカインでは主に肝代謝、心伝導系への影響、他剤との相加毒性を意識し、プリロカインではこれらに加えてo-トルイジン由来のメトヘモグロビン血症を強く意識します。選択時には、処置の侵襲度と必要な麻酔深度、製剤の承認適応、患者背景、併用薬、総投与量、緊急時の対応体制を一連の判断として確認することが、安全で再現性の高い局所麻酔管理につながります。